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「高校生の妊娠」を描いたドラマ『あの子の子ども』は新世代の青春ドラマだ

2024.9.17

#MOVIE

©カンテレ

毎週火曜よる11時から放送中のテレビドラマ『あの子の子ども』(カンテレ・フジテレビ系)。

第47回講談社漫画賞・少女部門を受賞した蒼井まもるの同名漫画(講談社『別冊フレンドKC』刊)を原作とし、「高校生の妊娠」をテーマに、妊娠が発覚したことで日常が大きく変わってしまった高校2年生カップルの姿を描いている。主人公の川上福(かわかみさち)と月島宝(つきしまたから)を演じるのは、桜田ひよりと細田佳央太。

桜田ひよりは、『明日、ママがいない』(日本テレビ系)など子役時代の印象が強いだけでなく、『silent』(フジテレビ系)の目黒蓮が演じる佐倉想の妹・佐倉萌役、『あたりのキッチン!』(東海テレビ・フジテレビ系)の主人公・辺清美役などでしっかりと新しい世代の若者を体現し、映画『交換ウソ日記』(2023年)では第47回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。細田佳央太は、映画『町田くんの世界』(2019)から『子供はわかってあげない』(2021)などで、いつもその真っ直ぐな眼差しで大人たちを見据える「子ども」を演じ、大河ドラマ『どうする家康』(NHK)での松平信康役で再び注目を集めた後、映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(2023年)、『七夕の国』(Disney+)で主演を果たすなど、共に人気・実力を兼ね備えた若手俳優の共演となっている。

脚本を手掛けたのは『舟を編む~私、辞書作ります~』『しずかちゃんとパパ』(NHK)、『ウソ婚』(カンテレ)などの蛭田直美。演出は『たそがれ優作』(BSテレ東)『往生際の意味を知れ!』(MBS系)などを演出してきた映画監督・アベラヒデノブがチーフを、他に山浦未陽、松浦健志が務め、音楽は『ひきこもり先生』(NHK)や映画『ルックバック』なども話題となったharuka nakamuraが務めるなど、脚本と演出と音楽が見事に噛み合った映像美も視聴者の好評を得ている。

そんなドラマ『あの子の子ども』について、ドラマ / 映画とジャンルを横断して執筆するライター・藤原奈緒がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

10代の若者たちにこそ観てほしい青春ドラマ

©カンテレ
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ドラマ『あの子の子ども』が本日、最終回を迎える。桜田ひよりと細田佳央太が演じる、真っ直ぐに互いへの愛を貫きながら、お腹の子どもと向き合おうとする真面目な高校生・福と宝。避妊していたにも関わらず妊娠してしまうという予想外の現実を前に、16歳の2人が、アフターピル、妊娠検査薬、産婦人科受診、さらには中絶か出産か、そして、その先、自分たちで育てることができるのかを一生懸命調べ、考え、親や教師をはじめとする大人たちと対話しつつ、1つずつ行動に移していく。

『しずかちゃんとパパ』『舟を編む~私、辞書つくります~』(NHK)でも、豊富な取材を元に現実を的確に捉えた脚本が好評を得た脚本家の蛭田直美が丁寧に描く「高校生の妊娠」を巡る日々の物語は、リアルでありながら真摯で優しく、青春ドラマとしても優れていて、主人公たちと同じ10代の若者たちにこそ、より観てほしい作品になっている。そして、それだけに留まらない「新世代の青春ドラマ」とでも言うべき本作の魅力を、本稿では紐解いてみたい。

登場人物の感情の繊細な描写

©カンテレ
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まず言及したいのは、本作が、登場人物の感情の繊細な変化を、いかに、見事な風景描写とともに描き出したか、ということ。例えば、自身の妊娠の可能性を疑い「頭も心も半分くらいいっぱい」な福の不安な心情を、宝との何気ない会話の中に巧みに織り交ぜた第2話での一場面。「妊娠したのではないか」という疑念を何度も打ち消し、ふと脱線して「あの映画もうやってるかな」と思う福のモノローグが、福が纏う新しいシャンプーの香りを巡る宝との会話に重ねられる。そこに宝の「ねえ、はじまったよね、あの映画」という台詞が加わり、福が内心思っていたことと、宝の言葉の一致が嬉しくて、一瞬、福の顔から不安が消える。

もしくは、第4話における、福が、目の前を走っていった子どもが転んで、持っていた風船を空に飛ばしてしまった光景を心配そうに眺めながら「時間が戻せたらいいのに、そしたらもう宝とエッチしない、大人になるまで」と思っている場面。その瞬間、風景が逆回転して子どもが転ぶ前まで時間が戻っていく形で、福の願望が可視化される。母親の「すみません」という声で福は現実に戻り、通りかかった宝が木の枝に引っかかった風船を取ってあげたことで実質、元通りになった様子を目の当たりにする。常に妊娠のことが頭から離れない福の心情と、時間を巻き戻すことはできなくても、幼い頃の宝(湯田幸希)の言葉のように「俺がなんとかする」ことができそうな宝の優しさを垣間見ることができる場面だった。

登場人物一人ひとりの人生に光を当てるインタビュー

©カンテレ
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続いて新しさを感じたのは、主人公2人の物語だけに特化せず、登場人物一人ひとりの人生に光を当てたこととその形式。各話の冒頭においては、登場人物たちが各話で描かれる時期にどう思っていたかがインタビュー形式で描かれる。福と宝だけでなく、それぞれの母や兄、友人が、福や宝に抱いていた想いが明かされるとともに、挿入される回想を通して、それぞれの人生の物語を垣間見ることもできる。

©カンテレ
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特に、宝の部活仲間・笹部隼人(前田旺志郎)や、福の友人・矢沢望(茅島みずき)、矢沢を好きな飯田智宏(河野純喜)が抱いているそれぞれに対する想いの強さは、福と宝の世界は決して2人だけで成立しているのではないことを視聴者に思い出させるとともに、2人が想いを貫くことで危うくなってしまう大切な日常もあることを強く感じさせたりもする。また、福の兄・幸(野村康太)のユニークなキャラクターが川上家の救いになっていたり、飯田の真っ直ぐな矢沢への愛が学校パートを温かく包んでいたり、担任教師の沖田と保健室の先生・足立典子(菊池亜希子)のやりとりが教員たちの人柄を垣間見せていたりと、本筋ではないところにこそ、本作の魅力があるとも言える。

相互に救い合う子どもと大人の関係の対等さ

©カンテレ
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最後に新しさを感じたのは、子どもと大人の関係の対等さ。本来、子どもは常に大人に保護される対象だが、本作に登場する大人たちは、子どもである福と宝の妊娠の事実を頭ごなしに叱ることはしない。むしろ、それぞれ自分たちの至らなさを悔やむ。何もできないであろう子どもたちを自分たちが守らなければと必死になる。しかし、福と宝が大人たちの思惑を軽々と越えて思わぬところまで走っていくことで、逆に大人が救われてしまう。

例えば、第8話において、宝の母・直実(美村里江)と福が中絶について対話する時。未来の福を気遣い、「私に言われたからって思えばいいから」と言う直実に対し、直実のかつての中絶経験を聞いた福は、過去の直実の苦しみを慮り、「もしまた、苦しくなった時は、私です。私がお願いしたからって思ってください。宝を生んでくれてありがとうございました」と返す。第11話における宝と、福の母・晴美(石田ひかり)のやりとりもそうだ。現在の福と宝の腹の中の子どもを巡る一連の流れとも重なる、2人の幼少期の重要なエピソードである、福(奈良澪)が拾った子猫の引き取り先を2人で捜し歩いた話の背景にあった、晴美の「母親として投げかけた言葉」の失敗。後悔して追いかけた果てに見た、福が宝とともに自力で飼い主を見つける姿が、現在に至るまでの晴美の宝への信頼に繋がっている。

永遠みたいな、一瞬みたいな日々の軌跡

©カンテレ
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第11話の冒頭で、福の担任教師・沖田侑斗(橋本淳)が、福の妊娠の報告と彼女の想いを聞いた後で「すごいよ、めちゃくちゃ頑張らないと来れないでしょ。4日間で。今の、その川上まで」と言う場面があった。それは、第5話における産婦人科医・野田由紀(板谷由夏)が言った「あなたはここまで来てくれた。自分で妊娠の可能性に気づいて、検査薬を買って、自分で調べて。今日、ここに来てくれました。完璧です、川上さん」という言葉の延長線上を、また別の、彼女たちをサポートする「大人」であるところの沖田が、知らず知らずのうちに引き継いだ言葉のように感じる。そしてそれは、「永遠みたいな、一瞬みたいな」日々を走り続けてきた福と宝の軌跡を、視聴者はずっと見守ってきたのだということを改めて実感させるものでもあった。

子どもだけでなく大人もまた、完璧ではない。失敗もする。「大丈夫」と思っていても、大丈夫じゃないことはたくさんある。それでもちゃんと前を向いて、逃げずに、真っ直ぐに走っていけば、その先にはきっと「一番欲しい」未来がある。最終話の、福と宝が駆け抜ける先を見届けたい。

火ドラ★イレブン『あの子の子ども』

©カンテレ
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カンテレ・フジテレビ系にて毎週火曜よる11時から放送中
公式サイト:https://www.nhk.jp/p/ts/RMVLGR9QNM/

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