恋が始まることよりも、付き合い続けることのほうがずっと難しいーーそんな風に感じたことはないだろうか。ドラマチックな告白を経て交際がスタートしても、いざ付き合ってみると、相手の思わぬ一面、習慣や考え方の違いに戸惑うことは多い。
現在第4話までが公開中のドラマ『付き合ってあげてもいいかな』は、まさにそんな「付き合った先」にある不器用な愛の形をリアルに描き出している。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
INDEX
人気GLコミックを実写化。注目の制作陣が描く「付き合った先」のリアル
多くの恋愛ドラマが「付き合うまで」をドラマチックに描いているのに対し、「付き合った先」の愛おしさと痛みをリアルな手触りで描き出すのが、『付き合ってあげてもいいかな』(通称:付きかな)。「たみふる」による同名漫画を原作としたラブストーリーである。
原作は国内で累計閲覧数1億Viewを突破し、国内外での累計発行部数は100万部超を記録。「ガールズラブコミックスの金字塔」とも呼ばれる人気作の実写ドラマ化とあって、情報解禁時から大きな反響を呼んでいた。
監督には、ボーイズラブドラマ『コントラスト』(2026年)の脚本を担当した山田佳奈と、『ソウル国際女性映画祭』など各国の映画祭に多数選出された短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』(2025年)の監督・洪先恵(ホン・ソネ)。プロデューサーは、『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる』シリーズ(2024年〜)など数多くのクィア作品を世に送り出してきた上浦侑奈。脚本には『HUB AWARDS 2025』でBest Japanese GLとHIGHLIGHT OF THE YEAR(JAPAN)をW受賞した『コールミー・バイ・ノーネーム』(2025年)の脚本・松ケ迫美貴など、多様な性を描いた作品で実績を重ねてきた制作陣が集結していることも注目されている。
INDEX
漫画の世界を現実に立ち上げる、鞘師里保と小西桜子の表現力
お調子者でムードメーカーの主人公・猿渡冴子(鞘師里保)と、周囲からモテるものの本気の恋愛をしたことがないという、もう一人の主人公・犬塚みわ(小西桜子)。大学入学を機に急接近した2人は、「女の子が好き」という共通点や出会いの貴重さから、その場の勢いで付き合いを始める。
運命的なロマンスでもなければ、完璧な相思相愛でもない。けれど、言葉にできない違和感や価値観のズレを抱えながらも手探りで進む彼女たちの姿は、私たちがかつて誰かと向き合い、傷つき、それでも手放せなかった「不器用な愛」の記憶を、容赦なく呼び覚ましていく。

まず本作を観ていて驚かされたのは、原作の世界をそのまま立ち上げたかのような再現度の高さだ。
鞘師里保は、冴子のお調子者でムードメーカーな側面だけでなく、激しく心が揺らぐ繊細な感情のグラデーションまでも、視線の揺らぎや表情の陰影、わずかな息づかいで生々しく体現している。
小西桜子の表現力にも思わず胸を打たれる。彼女の佇まいは単なる容姿の似通いを超えて、少し肩をすぼめるシルエットや空気感そのものが、原作のみわと驚くほど重なり合っている。
また、主演の2人にとどまらず、脇を固める軽音サークルの面々の存在感も見事だ。みっくん(山下永玖)、鶴田(伊島空)、ルチャ(葵揚)、リカちゃん(黒崎レイナ)――全員がまるで原作漫画からそのまま飛び出してきたかのようなビジュアルと確かな演技力で物語の強度を引き上げている。
INDEX
安易な演出に逃げない。細部の描写に宿る原作への真摯なリスペクト
作品の随所に散りばめられた細かな描写からは、原作への深いリスペクトが伝わってくる。例えば第1話の冴子とみわが出会うシーンも、原作にかなり忠実なカット割りでトレースされている。
2人の出会いにおいて鮮烈な印象を与えた「谷間すごっ」という冴子のセリフも原作のニュアンスを変えずに映像へ落とし込まれていた。カメラが安易なサービスカットに逃げることはせず、冴子の表情だけを捉え続けている点も見事だ。彼女たちの等身大の空気感が崩れることなく立ち現れているのは、その誠実な演出のたまものだろう。

第2話で冴子が友人のみっくんにカミングアウトする場面もとりわけ印象的だ。
冴子の告白に対するみっくんの反応は、とてもあっさりとしている。「キモいとか、ありえないとか、生理的に無理とか思わないのか」と冴子が問いかけても、みっくんは「なんだよ。俺、お前にそんなこと思わなきゃいけないわけ?」とフラットに返す。原作でも彼のこの飾らない言葉が深く心に残っていたのだが、ドラマでもその絶妙な温度感はそのまま表現されていた。
みっくん役の山下は、このセリフをキザな決めゼリフとして誇張することなく、原作に忠実な「さりげなさ」に徹している。その見事な匙加減が、映像作品としても確かなリアリティを生み出しているのだ。
さらに、作中で冴子とみわが演奏する楽器には、原作者・たみふるが連載時の作画資料として手元に置いていた実物がそのまま使用されている。文字通り「漫画からそのまま飛び出してきた」楽器を2人が掻き鳴らす姿は、観る者の胸に強く迫るはずだ。
演出、演技、そして小道具に至るまで――あらゆる要素に込められた真摯なリスペクトがあるからこそ、本作は私たちの心を掴んで離さないのだろう。
INDEX
原作と実写の見事な融合。ELLEGARDEN“Missing”が響くライブシーン
本作が最も優れているのは、原作へのリスペクトと、実写ドラマならではのアレンジが見事に融合している点だ。プロフェッショナルたちの確かなセンスと技量があらゆる場面で惜しみなく発揮されている。
例えば、第2話で冴子とみわが軽音サークルの仲間に交際を報告するシーン。驚きから徐々に喜びが滲み出ていくルチャの表情の変化や、自身の失恋を覚悟し静かに涙を流し始める鶴田の姿によって、彼女たちの報告を特別視することなく、「ひとつの恋愛」として受け止めている仲間の温かな心情が時間経過による変化も含めて丁寧に表現されていた。感情のグラデーションをこれほどシームレスに描き出せるのは、生身の人間が演じてこそ到達し得る領域だろう。

あるいは第3話で、みわから「冴子には自由で居てほしいって思ってるから、束縛とかはしたくない」と告げられた冴子が、皮肉にも彼女への独占欲を自覚させられてしまう場面。ここでは、ノイズのような不協和音が差し込まれ、彼女の渦巻く嫉妬心や混沌とした感情が音楽に合わせて浮き彫りになっていく。こうした映像表現でしか実現できない「音楽」へのアプローチも、本作は実に鮮やかに成立させている。
中でも唸らされたのが、第3話におけるライブシーン。サークルの合宿中に恋人から別れを告げられたルチャが、失意のあまりお披露目ライブのボーカルを冴子に託す、原作にはないドラマ独自のアレンジとなっている場面だ。
モーニング娘。の絶対的エースとしてグループを牽引し、現在はソロアーティストとしても活躍する鞘師の圧倒的な歌唱力に加え、みわ役の小西、みっくん役の山下、鶴田役の伊島が実際に楽器を奏でるパフォーマンスの臨場感と熱量は、ぜひ本編で確認してほしい。まさに実写映像だからこそ味わえる至高の体験と言えるだろう。
ライブシーンで選曲されていたのは、ELLEGARDENの“Missing”。鞘師のエモーショナルな歌声に乗せて響く歌詞は、近づこうとするほどすれ違っていく冴子とみわの「今」を、映し出していた。
<間違って 少し失って さまよっては 君に出会って 笑ったこと 思い出して
We’re missing We’re missing We’re missing We’re missing We’re missing you>ELLEGARDEN“Missing”