三十路に差し掛かり、趣味も仕事も落ち着きつつある。日々楽しいことはあるものの、刺激というよりは「健康のために」始めたランニングや、「節約のために」工夫する自炊など、ささやかなものばかりだ。
そんな日常を送りながら、あるとき公園を散歩していたら、いつもの公園が、何か違う。違和感に目を凝らすと、そこにあったのは「宙に浮く城」……!? さらに奥には「手が4本ある人」……! 忘れていた童心が刺激され、心浮き立つ。そんな出会いは、屋外を劇場とする「ストリートシアター」ならではだ。
まだまだ日本では定着していないストリートシアターだが、海外では人々が文化に触れる機会として定着している国も少なくないらしい。日本でも銅像はそこかしこにあるし、絵がそこらへんにかかっていたりする。たとえるとすると、そんな感じだろうか。
そんなストリートシアターを日本で一番堪能できるのが、2026年で11回目の開催となる『ストレンジシード静岡』だ。5月3日から5月5日のGW真っ只中、駿府城公園と静岡市街地で開催された。予定調和に飽きてきた日常に彩りを期待して訪れると、想像以上に刺激的な文化体験で、忘れていた童心を思い出した気がする。果たしてそこで何があったのか、ストリートシアター体験初心者の筆者の視点から、お届けする。
INDEX
静岡のどこで開催? 舞台は駿府城公園と、JR静岡駅前の街なか
静岡には土地勘のない筆者。はて、どこで開催……?と調べると、静岡市・駿府城公園の「PARKエリア」と、JR静岡駅の近くの「CITYエリア」だという。会場全体を移動しても徒歩15〜20分、走ると10分(筆者の場合)ということで非常に回りやすい。
駿府城は、今川義元のお膝元だった地に、徳川家康が築き、大御所として晩年を過ごした城として有名だ。立派な石垣があり、お堀には水が流れ、風も心地がよい場所だ。

さて、まず公園に到着すると、何やら心地がよい音楽が流れている。人が集まっている場所を覗くと、そこには黒い服に身を包み、手が4本ずつ生えている人×2の組体操が行われている。


虫のようなゆっくりとした動きで、気味悪くもどこかかっこいい。パンフレットによると、フランツ・カフカ『変身』で、ある朝巨大な虫に変身していた主人公が、そのままの身体で生きていた世界を想像したパフォーマンスらしい。人二人分のサイズだし、意思疎通できなさそうな感じが不気味で、でも悪いことは考えてなさそうだ。
こちらは一般公募で選ばれた「オープンコールプログラム」の一つ。この『ストレンジシード静岡』では、事務局のキュレーションの他に、公募での新しい出会いを大切にしているという。グレゴールが駿府城の跡地で生きているというタイムスリップ感に引っ張られてか、気がつくと自分がこの時代、この場所にいることの偶然性に改めて目を向けていた。
INDEX
寝転んで聞く朗読、風を味方につける現代サーカス。全国から集うオープンコールプログラム
オープンコールプログラムは他にも充実していた。特に印象的だったのは2016年に発足した演劇団体・譜面絵画による『LANDSCAPERS』。公園に敷かれたブルーシートに靴を脱いで寝転んで、目を閉じながら朗読を聞く。孤独なカラスが「ガラス」と出会うお話で、ガラスになぞらえて、上演前にはビー玉が配られた。


また、瀬戸内の自然環境の中で活動する現代サーカスカンパニー・うきも-project-『うきふね』は、見えない風や太陽の光を受け止めて表現していた。現代サーカスといえば、フランスで発祥し、日本では瀬戸内サーカスファクトリーがパイオニアとして知られている。大きな円形の鉄の輪「シルホイール」や白い旗、香川から持ってきたという大きな石を用いながら強い風も味方につけ、山を借景に、そこから船が航海に出るような物語を立ち上がらせていた。

INDEX
フランスから来たジャグラー5人組が、駿府城の石垣を駆け上がる
そろそろお昼でも、と思い駿府城公園を出て商店街を歩いていると、何やら上下黒スーツですらっとした海外のパフォーマーが十字路に集まってきている。フランスからやってきた現代サーカスカンパニーCollectif Protocole(コレクティフ プロトコル)だ。


ジャグラー5人組を中心に静岡の街なかを縦横無尽。静岡呉服町名店街の人たちを巻き込みながら駿府城公園の方向に向けてスタートすると、ジャグリングのクラブ(ボウリングのピンのようなもの)をキャッチアンドリリースしながら歩き回る。さすがはパルクール発祥の国から来ただけあり、塀にもヒョイっと登っている。

そして気がつけば、「ラン! ラン!」と周囲の群衆を煽り、走らせている。筆者も例に漏れず走り、そこに元々いた駿府城ランナーも混ざっていて謎の一体感が生まれている。「そうか、駿府城はランニングコースだったな……」と履いていたランニングシューズを見つめた。

さらにゴールとなる駿府城公園の富士見ひろばでは、ミュージシャンが待ち受けている。生演奏とジャグリングの融合で、ここでもまた一つステージを見せてくれた。普段なかなか触れることがない身体能力に、静岡の街なかの乗りこなし方、観客をノンバーバルで巻き込んでいくユーモアセンスも、恐るべし。
