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ロドリーゴ・イ・ガブリエーラが語る、日本が導いた全編東京録音の『OurHome』

2026.9.18

ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ『OurHome』

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メキシコ出身のロドリーゴ・サンチェスとガブリエーラ・クインテーロからなるアコースティックギターデュオ、ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ。20年以上のキャリアがあり、その情熱的な演奏とジャンル横断的な音楽性は、世界中で高い評価を得ている。

2人の野心と音楽にかける思いの強さは、グラミー賞の「最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」部門を受賞した『Mettavolution』(2019年)、そしてコロナ禍を乗り越えて大胆なクロスオーバーを試みた前作『In Between Thoughts…A New World』(2023年)を聴けばよくわかる。

ここ日本でもファンベースを築いている彼らが、待望のニューアルバム『OurHome』を完成させた。本作について2人が「意図や戦略、計算ではなく、とにかく自然にやった」と強調するように、これまでの実験から一転してアコースティックに回帰したこのアルバムを聴いていると、剥き出しの音による純粋な対話に心を鷲掴みにされる。

しかし、実はその背景には、迷いや不安、そして創作における行き詰まりがあったという。しかも、それを打ち破った要因のひとつが、ほかでもない日本だったと2人は語る。『OurHome』は、なんと全編東京で録音したアルバムなのだ。アルバムにいきいきとしたインスピレーションをもたらしたのは、日本で過ごした日々や、『MONSTER』『NARUTO -ナルト-』といった漫画、アニメだった。だからこそ『OurHome』は、マーティ・フリードマンや上原ひろみ、奥田日和、渥美幸裕、さらには浦沢直樹といった、日本に住む表現者たちとのコラボレーションから生まれている。

質問に対して交互に語り、多弁なガブリエーラが「私が話しすぎちゃった」と時折譲り合う2人の平等なあり方も、とても印象に残る取材だった。

停滞の果てに、愛猫ペルーザが導いた“OurHome”

(写真左から)ロドリーゴ・サンチェス(Gt)、ガブリエーラ・クインテーロ(Gt)
ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ(Rodrigo y Gabriela)
メキシコ出身のロドリーゴ・サンチェスとガブリエーラ・クインテーロからなるアコースティックギターデュオ。20年以上のキャリアを持ち、情熱的な演奏とジャンル横断的な音楽性で世界的な評価を得る。2019年の『Mettavolution』でグラミー賞の「最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」部門を受賞。2026年9月18日、全編を東京で録音した新作『OurHome』をリリース。

─前作『In Between Thoughts…A New World』(2023年)は困難を乗り越えた作品だったそうですが、今作『OurHome』の背景にも創作上の停滞や不安があったと聞いています。どんな状態だったんですか?

ガブリエーラ:アーティストを長くやっていると、いろんなフェーズがあるんですよ。私たちも、実験を重ねたり、新しいアイデアを探したりっていう時期があって。特に前作はパンデミックのさなかに作ったので、世界が止まっちゃってる状態で。計画なんて何も立てずに、思いつく実験を全部やってみた。

「世界が終わっちゃうかも」っていう気分のまま、思いつく限りの要素を詰め込んだんです。ただ、そのあとの方向性に迷いが出てきて。私はアコースティックに立ち返るべきだと思ったんですけど、ロッド(ロドリーゴ)は納得してなくて、「次はどうする?」って模索することになりました。同じことの繰り返しはしたくないから、「過去の自分と、限界を超えるにはどうすればいいか」って自問自答する日々でしたね。

ガブリエーラ:そんなときに、スタジオにいた猫のペルーザが亡くなって。保護猫で、末期の病気だったんですけど、急なお別れはやっぱりショックでした。小さな独裁者みたいな、とにかく意志の強い猫で。

ロッドは落ち込んだまま家に帰って、そこで湧いてきた“OurHome”のメロディーを書き上げたんです。私がブリッジを足して、2人で構成を練っていって。意図も戦略も実験も計算も、いっさいなし。ただ、2本のアコースティックギターで弾くメロディーとハーモニーだけがありました。

ガブリエーラ:この曲が言ってるのは、「猫の言うことに耳を傾けよう」ってことなんです。だいたい猫のほうが正しいので(笑)。きっとペルーザが天国から、「あなたたち、ふざけてないでギターを持ちなさい」って諭してくれたんでしょうね。彼女が、私たちを原点(home)に連れ戻してくれたんですよ。心からの音楽を奏でる、あの場所へ。

猫のペルーザ

「誰かに気に入られようとしたり、無理に何かを作ろうとしたりするのはやめよう」(ガブリエーラ)

─素晴らしいストーリーですね。停滞感の話に戻りますが、20年以上のキャリアがあるがゆえに、周囲の期待の高さやプレッシャーを感じることもありますか?

ロドリーゴ:新しい作品を作るとなると、考えすぎてしまう。ミュージシャンならみんなそうだと思います。僕らも実際そうでした。『In Between Thoughts…A New World』であれだけ実験した背景には、『Mettavolution』(2019年)があったんです。

あのアルバムでグラミー賞を獲ったので、『In Between Thoughts』を作りはじめた頃は先が見えなくて、ずっと狭間にいる感じで。「もうどうなってもいいや、世界はこのまま終わるかもしれないし」って開き直ってた部分もありましたね。

ロドリーゴ:でも日常が戻って、現実に引き戻されて。ツアーや新作の制作に向き合ったとき、「ちょっと待てよ」って迷いが出てきて。人生で起こる出来事――たとえば、さっきガブ(ガブリエーラ)が話したペルーザのこととか――にちゃんと反応しないままやりすごすと、それって無意識の奥に埋もれて、かえって毒になることもあるんですよ。だから、新しいアルバムでそれを表現できたのはよかった。戦略を練ったり、「これがアコースティックに復帰する最初のアルバムだから……」なんて考えたりせずに、とにかく自然にやろうと。「猫が語ること」をそのままやろうって思えたんです。

─創作意欲を取り戻したきっかけには、どんなことが作用したのでしょう?

ガブリエーラ:ありがたいことに、世界中に聴いてくれる人がいるんですよ。それでも「自分はまだ足りない」とか「もっとやるべきことがある」とか、いまの人が陥りがちな「思い込み」の罠にハマっちゃうこともあるんです。

私たちが大事にしたのは、「どう行動して、どうやって聴いてくれる人とつながるか」、そこだけに責任を持とうってことでした。つまり、自分たちに正直でいようと。誰かに気に入られようとしたり、無理に何かを作ろうとしたりするのは、もうやめようって。

「よし、日本に行こう。周りがどう言おうと関係ない!」(ガブリエーラ)

─そこで浮上したのが「日本」だったんですね。

ガブリエーラ:そうなんです。日本が大好きだから、行けばインスピレーションをもらえるはずだって。日本ならマーティ・フリードマンや渥美幸裕、(浦沢)直樹先生ともコラボできますし。そんなことを考えていたら、生きてる実感がまた湧いてきて、いろんな可能性が見えてきたんですよ。

「よし、日本に行こう。周りがどう言おうと関係ない!」って。でも、レコード会社やマネージメントチームは難色を示して、「正気なの?」「なんで日本なの?」って言うんです。だから、これが自分たちにとってどれだけ大事なのかをわかってもらうまでには、けっこう時間がかかりましたね。

日本での滞在の様子

ロドリーゴ:2025年のツアーを終えて休暇から戻ったとき、「もう一回日本に行ってアルバムを録って、あのときの感覚とつながりたい」って思ったんです。眠れない夜に、心が軽くなることを考えるんですけど、そこで浮かんでくるのが日本での日々で。最近はもう、それが僕なりの瞑想みたいになってます。日本にロマンティックな幻想を抱いてるのは自覚してますよ。でも、セブン-イレブンに入ってお茶を手に取る、それだけでも素晴らしいなって思っちゃうんです(笑)。

ガブリエーラ:江東区に滞在したとき、お寺があったよね?(おそらく深川不動堂のこと)

ロドリーゴ:そうそう。不動明王!(と言って、「不動明王」と彫った左腕のタトゥーを見せる)

ガブリエーラ:あのお寺の雰囲気とか、太鼓のリズムとか、火を使った儀式とか、本当に印象的で。行けるときは毎回足を運んでました。運や縁起物を大事にするところ、日本人ってメキシコ人と似てるんですよ。

https://youtu.be/-ed7GN-WgmU?si=hJVVocmOMv2KhvmO
上石神井駅を定点カメラで撮影した映像が使用されている

浦沢直樹『MONSTER』に見た希望

─漫画、アニメも大きなインスピレーションになったそうですね。楽曲“Monster”の着想源になった浦沢直樹の『MONSTER』(小学館)に、ガブリエーラは「殺人犯を描いていますが、同時に希望も与えてくれる作品」とコメントしていました。『MONSTER』は陰惨な面もある作品ですが、どんな希望を受け取ったのでしょう?

ガブリエーラ:あの傑作のすごいところは、Dr.テンマ(※)の振る舞いなんですよ。彼の行動とか、人との関わり方が、相手に希望を与えていく。たとえば、トラウマで言葉が話せなくなった少女のエピソード。テンマが接して、彼が去る頃には、その子が言葉を発するようになっているんです。

※Dr.テンマ:『MONSTER』の主人公・天馬賢三。ドイツの病院に勤める日本人脳外科医。院長の命令に背いて瀕死の少年ヨハンの手術を優先し、地位も婚約者も失う。9年後、ヨハンが連続殺人犯になっていることを知り、自らの手で止めるために逃亡の旅に出る

ガブリエーラ:世間が価値を置くもの――お金、名声、社会的地位を、Dr.テンマが手放してしまう点も重要です。目の前の命を選んだ結果、病院長の娘との婚約も、約束されていた出世も失ってしまう。普通なら、そこまではできないですよね。そういう面が、いまの時代にすごく強いメッセージになっていると思います。

『MONSTER』って、日々の行動とか些細な振る舞いで世界は変わりうるんだ、って思わせてくれるんです。だから私にとっては希望の物語で。テンマの倫理観や道徳心は、生活でも仕事でも、誰でも持てるものですよね。優生思想や不法移民みたいな重いテーマも扱っていて、悲惨な話ではあるんですけど、最後には希望を感じさせてくれる作品だと思います。

ロドリーゴ:あの物語の闇の部分って、残念ながら現実そのものなんですよ。作り話じゃなくて、実際に起きていること。だからこそ『MONSTER』は重要なんです。目を背けるわけにはいきませんから。

─“Monster”は、中盤でヘビーに歪んだエレキギターが加わって激しさを増していく構成ですが、同作から得たインスピレーションを演奏でどう表現しましたか?

ロドリーゴ:音楽であの物語を語るのって難しいんですけど、『MONSTER』を知っていれば伝わるはずで。甘美さとか混沌とか、緊張感から解放へっていうこの曲の流れの意味が、ちゃんとわかると思うんです。知らないと、ただのとんでもなくクレイジーな曲にしか聞こえないかも(笑)。だから、物語を知ってから聴いてほしいですね。

https://youtu.be/Wolzo63vons?si=INCnW-6pxTP5muq7
ミュージックビデオは浦沢直樹によるドローイング

─“Monster”のミュージックビデオは浦沢先生が描いたドローイング映像ですね。

ガブリエーラ:映像を見て、『MONSTER』のラスト、つまりDr.テンマとヨハンが向かい合っている風景のなかで、私とロドリーゴが演奏しているんだと気づきました。すごいですよね。なんて言えばいいかな……(日本語で)「かっこいい」?

─本当にかっこいい映像ですね。浦沢先生と実際にお会いしたそうですが、どんなことを話しました?

ロドリーゴ:彼もギタリストで、音楽への関心がすごく強いんですよ。純粋でオープンで、子どもみたいな心を持ってる方だなと。スタジオで“Monster”以外の曲も聴いてもらったんですけど、夢中になって聴いてくれて。「ここはどうやって作ったの?」とか、どんどん訊いてくるんです。

浦沢直樹がスタジオに訪れた様子

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