メキシコ出身のロドリーゴ・サンチェスとガブリエーラ・クインテーロからなるアコースティックギターデュオ、ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ。20年以上のキャリアがあり、その情熱的な演奏とジャンル横断的な音楽性は、世界中で高い評価を得ている。
2人の野心と音楽にかける思いの強さは、グラミー賞の「最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」部門を受賞した『Mettavolution』(2019年)、そしてコロナ禍を乗り越えて大胆なクロスオーバーを試みた前作『In Between Thoughts…A New World』(2023年)を聴けばよくわかる。
ここ日本でもファンベースを築いている彼らが、待望のニューアルバム『OurHome』を完成させた。本作について2人が「意図や戦略、計算ではなく、とにかく自然にやった」と強調するように、これまでの実験から一転してアコースティックに回帰したこのアルバムを聴いていると、剥き出しの音による純粋な対話に心を鷲掴みにされる。
しかし、実はその背景には、迷いや不安、そして創作における行き詰まりがあったという。しかも、それを打ち破った要因のひとつが、ほかでもない日本だったと2人は語る。『OurHome』は、なんと全編東京で録音したアルバムなのだ。アルバムにいきいきとしたインスピレーションをもたらしたのは、日本で過ごした日々や、『MONSTER』『NARUTO -ナルト-』といった漫画、アニメだった。だからこそ『OurHome』は、マーティ・フリードマンや上原ひろみ、奥田日和、渥美幸裕、さらには浦沢直樹といった、日本に住む表現者たちとのコラボレーションから生まれている。
質問に対して交互に語り、多弁なガブリエーラが「私が話しすぎちゃった」と時折譲り合う2人の平等なあり方も、とても印象に残る取材だった。
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停滞の果てに、愛猫ペルーザが導いた“OurHome”

ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ(Rodrigo y Gabriela)
メキシコ出身のロドリーゴ・サンチェスとガブリエーラ・クインテーロからなるアコースティックギターデュオ。20年以上のキャリアを持ち、情熱的な演奏とジャンル横断的な音楽性で世界的な評価を得る。2019年の『Mettavolution』でグラミー賞の「最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム」部門を受賞。2026年9月18日、全編を東京で録音した新作『OurHome』をリリース。
─前作『In Between Thoughts…A New World』(2023年)は困難を乗り越えた作品だったそうですが、今作『OurHome』の背景にも創作上の停滞や不安があったと聞いています。どんな状態だったんですか?
ガブリエーラ:アーティストを長くやっていると、いろんなフェーズがあるんですよ。私たちも、実験を重ねたり、新しいアイデアを探したりっていう時期があって。特に前作はパンデミックのさなかに作ったので、世界が止まっちゃってる状態で。計画なんて何も立てずに、思いつく実験を全部やってみた。
「世界が終わっちゃうかも」っていう気分のまま、思いつく限りの要素を詰め込んだんです。ただ、そのあとの方向性に迷いが出てきて。私はアコースティックに立ち返るべきだと思ったんですけど、ロッド(ロドリーゴ)は納得してなくて、「次はどうする?」って模索することになりました。同じことの繰り返しはしたくないから、「過去の自分と、限界を超えるにはどうすればいいか」って自問自答する日々でしたね。
ガブリエーラ:そんなときに、スタジオにいた猫のペルーザが亡くなって。保護猫で、末期の病気だったんですけど、急なお別れはやっぱりショックでした。小さな独裁者みたいな、とにかく意志の強い猫で。
ロッドは落ち込んだまま家に帰って、そこで湧いてきた“OurHome”のメロディーを書き上げたんです。私がブリッジを足して、2人で構成を練っていって。意図も戦略も実験も計算も、いっさいなし。ただ、2本のアコースティックギターで弾くメロディーとハーモニーだけがありました。
ガブリエーラ:この曲が言ってるのは、「猫の言うことに耳を傾けよう」ってことなんです。だいたい猫のほうが正しいので(笑)。きっとペルーザが天国から、「あなたたち、ふざけてないでギターを持ちなさい」って諭してくれたんでしょうね。彼女が、私たちを原点(home)に連れ戻してくれたんですよ。心からの音楽を奏でる、あの場所へ。
猫のペルーザ
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「誰かに気に入られようとしたり、無理に何かを作ろうとしたりするのはやめよう」(ガブリエーラ)
─素晴らしいストーリーですね。停滞感の話に戻りますが、20年以上のキャリアがあるがゆえに、周囲の期待の高さやプレッシャーを感じることもありますか?
ロドリーゴ:新しい作品を作るとなると、考えすぎてしまう。ミュージシャンならみんなそうだと思います。僕らも実際そうでした。『In Between Thoughts…A New World』であれだけ実験した背景には、『Mettavolution』(2019年)があったんです。
あのアルバムでグラミー賞を獲ったので、『In Between Thoughts』を作りはじめた頃は先が見えなくて、ずっと狭間にいる感じで。「もうどうなってもいいや、世界はこのまま終わるかもしれないし」って開き直ってた部分もありましたね。
ロドリーゴ:でも日常が戻って、現実に引き戻されて。ツアーや新作の制作に向き合ったとき、「ちょっと待てよ」って迷いが出てきて。人生で起こる出来事――たとえば、さっきガブ(ガブリエーラ)が話したペルーザのこととか――にちゃんと反応しないままやりすごすと、それって無意識の奥に埋もれて、かえって毒になることもあるんですよ。だから、新しいアルバムでそれを表現できたのはよかった。戦略を練ったり、「これがアコースティックに復帰する最初のアルバムだから……」なんて考えたりせずに、とにかく自然にやろうと。「猫が語ること」をそのままやろうって思えたんです。
─創作意欲を取り戻したきっかけには、どんなことが作用したのでしょう?
ガブリエーラ:ありがたいことに、世界中に聴いてくれる人がいるんですよ。それでも「自分はまだ足りない」とか「もっとやるべきことがある」とか、いまの人が陥りがちな「思い込み」の罠にハマっちゃうこともあるんです。
私たちが大事にしたのは、「どう行動して、どうやって聴いてくれる人とつながるか」、そこだけに責任を持とうってことでした。つまり、自分たちに正直でいようと。誰かに気に入られようとしたり、無理に何かを作ろうとしたりするのは、もうやめようって。
