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活動や環境の変化が、バンドや作品に及ぼした影響
―インディペンデントとメジャーレーベルと、やはりそれぞれの難しさがありますね。
中野:Emeraldみたいに、自分たちで自分たちのケツを叩き続けるのもそれはそれでしんどくて。僕らはなにか問題が起きたら、リカバーできずにすぐ沈没してしまうと思うんです。すごく小さなイカダに乗って、風が吹いてない日も自分たちで漕いで……それを10年くらいやってるので。
でも意外と聴いてくれる人がいるんだなっていうのも実感としてあって、「その人たちにいつか会える、ライブに来てくれるんじゃないか」っていう期待があるから、頑張れる。仕事、子育て、音楽、やってることはめちゃめちゃシンプルなんですけどね。

―その3つのバランスをどう取っていますか?
中野:バランスが取れてるかって言われたら、取れてないかもしれなくて、もう破綻してるのかもしれない。もしかしたら、上手くバランスを取ってると思われてるかもしれないですけど、10年音楽やってて……。
藤井:バランスなんてなかなか取れないよね。メンバーみんなダメになっちゃう瞬間があって、俺も麻痺っておかしくなるときは音楽も聴けなくなっちゃうんですよ。ストレスを感じるとどんどんそうなって、なにが正解なのかわからなくなる。DIYでやってる以上、自分たちが動かなければそのままバンドが死んでいくってこととイコールなので、自分たちでやっていくのは面白さと難しさがあるし、メジャーレーベルにいてもやっぱり面白さと難しさがあると思うから、それぞれ違ったストレスの感じ方をしてるんじゃないかな。
―そういう活動や環境の変化が、歌詞に影響を与えたりもしましたか?
中野:僕は歌詞には裏側の苦労を出さないと決めていて、ネガティブなところから始まったとしても、絶対ポジティブにしたり、聴いた人によっていろんな受け取り方ができる歌詞に変換したいんですよね。何度もこねくり回してつくるんですけど、そういうときは人と関わるのも嫌だし、ずっと酒だけ飲んでたい気持ちになったり……やっぱり破綻してるんですよ。Emeraldが始まって5年目くらいからはそういう感じで、変な人生だなって思います。
藤井:Emeraldのメンバー6人みんな変な人生になってると思う(笑)。でもそのなかですごく恵まれたことも経験していて、だからこそ変なんだよね。良くも悪くも変な人生だなって。
中野:磯野くんは言葉に変化はあった?
磯野くん:最初は、音楽で伝えたいことなんて特になかったんです。でも、サラリーマンをやりながらバンドやってることを公に言い続けているうちに、その境遇を知って、自分と重ねて聴いてくれる人が増えていって。こういう伝え方もあるんだなって。
振り返れば自分自身も、中高生のころに銀杏BOYZの峯田さんが好きになって、ブログとか読んで人となりを知ると、音楽の聴こえ方や受け取り方がどんどん変わっていったんですよね。だからメジャーにいって、顔も知らないような人とか、海外の人まで聴いてるかもしれなくなったことで、ちゃんと言葉を届ける人を想像して書くことが増えていきました。

中野:たしかにそれは、大きな変化ですね。
磯野くん:でも最近は、「寄り添ってくれる」「サラリーマンの味方」みたいなことを言われ過ぎて、それもちょっと嫌だなって(笑)。「優しいだけの男にはなりたくねえ」と思って、それはパンクというか中二病だと思うけど、どこかでひねくれていたいんですよね。だから僕らは意図的に変な曲をつくりたがる時期があって、去年出た『嗜好性』はわりとそういう作品で。
藤井:それすげえ思ってた! なんか変なんだよなって。
キイチ:“考え中”はもともとほぼ同じテンションのままサビまでいってたんですけど、そういう変な感じを残したままアレンジしたくて、あの曲を練るだけで丸一日かけました。そうやって全員で考えることが増えたのも『嗜好性』からです。ベースのシンゴとかも、もともとメロディックパンクのベースボーカルだから、最初は休符の概念もなかったけど(笑)、自分なりにいろんなことを試すようになって、ライブの見せ方も変わったと思います。
磯野くん:そのくらいのときに一回ケンカをしたというか、「このままでいいのか?」っていうのがあったんです。さっきの話に出た、マネージャーが一人辞めたのも『嗜好性』をつくる前でした。もともとYONA YONA WEEKENDERSは僕のストレス発散で始まったバンドで、曲も歌詞も基本は僕が書いてるんですけど、『嗜好性』の前に一回みんなでワーッとなったときから、それぞれに責任感が芽生えたというか、「もっとこうしたい」みたいな意見が出るようになって。いまも僕がベースをつくってはいるんですけど、最近は僕が想像してなかった変化をするような楽曲も増えてきましたね。
