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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
音楽と仕事、ときどき法要

後藤正文と話し合う価値基準。「文化的な価値はお金じゃ測れない」

2023.10.25

#MUSIC

TAMIWのボーカリストであり、大阪・堺にあるお寺で音楽スタジオ「Hidden Place」とペット霊園を経営するtamiが、「音楽と仕事」をテーマに対談をする連載『音楽と仕事、ときどき法要』。第3回のゲストは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さん。

後藤さんのサラリーマン時代の話から始まり、音楽をやる上での「幸せ」とは? 「仲間」とは? と二人の対話は広がっていきました。さらには、後藤さんが計画中の若手ミュージシャンのためのスタジオ運営のお話も。そこには『NANO-MUGEN FES.』から一貫する後藤さんの思いがありました。

就職した方がバンドやりやすいんじゃないかと思ったんですよね。(後藤)

tami:この連載は「音楽と仕事」がテーマなんですが、後藤さんは昔、会社員として働かれていたんですよね。

後藤:はい、サラリーマンをやってました。バンドは大学時代に始めたんですけど、在学中はあんまりお客さんも増えなくて。でも卒業してもバンドぐらいしかやりたいことがないし、どうしようかなと思いながら、気づいたら最後の春休みになっていて。大学の就職課に呼ばれて、「後藤さん、どうするんですか?」って(笑)。

tami:困りましたね(笑)。

後藤:「なにか興味のあることはありますか?」と聞かれて、「音楽ですね」と言ってみたんですけど、「音楽の仕事はないです」と。「次に興味があることは?」「美術ですかね」と言ったら、たまたま美術関係の出版社の仕事があって、そこに就職して。営業として、書店や文具店、美術館なんかを回っていました。

後藤正文(ごとう まさふみ)
1976年静岡県生まれ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギター。新しい時代とこれからの社会を考える新聞『THE FUTURE TIMES』の編集長を務める。インディーズレーベル『only in dreams』主宰。

tami:会社員として働きながら、バンドは続けていたんですよね?

後藤:はい。就職した理由はほぼそれで、就職した方がバンドやりやすいんじゃないかと思ったんですよね。お金の心配もしなくていいし、仕事の時間とか休みが決まってた方が音楽やりやすいなって。バイトしながらとかだと、逆にきついだろうなと思ったんです。

当時は、とりあえず数年間、踏ん切りつくところまでは働きながらやってみようという感じでした。その頃は自分たちだけで音源を作って配信するっていう選択肢はなかったので、しばらくやってみてレーベルに見つけてもらえなかったら、諦めようと思ってましたね。本当に、インディーでのリリースが決まらなかったら地元に帰っていたと思います。

音楽をやる上で何を大切にするかっていうのをしっかり持っていないといけない時代になった。(tami)

tami:その頃(2000年前後)って、別の仕事をしながら音楽をやる人って今よりかなり少なかったと思うんですよ。今は自分たちでいろんなことができて、「早く見つけてもらってデビューしなきゃ続けられない」っていう状況じゃないから、仕事しながら音楽やる人が増えたんじゃないかな。

でも、CDデビューっていう大きな共通の目標がなくなったからこそ、自分が音楽をやる上で何を大切にするかっていうのをしっかり持っていないといけない時代になったんだろうなとも思います。音源流通を簡単にできるようになったからこそ、そういう意思がしっかりないと、なんとなく「やった感」で終わってしまう。どういう人に聴いてもらいたいかとか、どういう自分でいたいかとか、考える選択肢が増えて、それって贅沢なようにも見えるんだけど、苦しいところでもあるんですよね。

tami(たみ)
2018年にTAMIWを結成。19年には20公演のアメリカツアーを敢行。21年には『FUJI ROCK FESTIVAL ROOKIE A GO GO』への選出などでも話題となり、23年2月に3rdアルバム『Fight for Innocence』をリリース。大阪・堺にあるお寺で、音楽スタジオ「Hidden Place」とペット霊園を経営。

後藤:なんとなく形になるところまではみんないけるから、どうやったら抜きん出るかっていうのは難しくなってますよね。だから、これからは「どうして音楽をやりたいか」っていう理由が強烈にないと、やってもしょうがなくなってくるのかもしれない。

tami:こだわりを持っている人ほど、今はハッピーなんじゃないかと思います。まあ、それで大枚を稼ぎたいとかってなると違うと思うんですけど。

後藤:たしかにそう。お金を稼げたかどうかが、ハッピー、アンハッピーの物差しになっちゃうとつらいですよね。売れるために音楽をやってる人って、結局売れなくなったらやめるわけじゃないですか。それだと、音楽をやっているのか、何をやっているのかよく分からない。僕たちにとっては音楽が手段じゃなくて目的だから、稼げないからやめるってわけにはいかないんですよ。その思いが根っこにあった上で、それが仕事になるならこれ以上幸せなことはないなとはやっぱり思ってますけどね。

プロとアマチュアっていう言葉自体、インディーにおいてはなくなった方がいいだろうなと今は思ってます。(後藤)

後藤:音楽と別に仕事を持っている人たちは、音楽では好きなことしかやらないって決めていたりして、それはそれで純粋で美しいんじゃないのかなと思ったりもしますね。仕事とか家のこともあったりして、限られた時間の中でバンドメンバーと集まるんだから、そんな貴重な時間にやりたくないことやらないじゃないですか。そういうところに宿る美しさをすごく感じる時はありますね。一方で、売れようとしてもがくっていう、ポップミュージック特有の邪念から生まれてくる良さっていうのももちろんあるんだけど。

若い人たちもむやみに仕事を辞めたりしなくなったというか、地に足がついてる人が増えてるなって気はします。それがいいことなのかどうかは、音楽を仕事にしている身としてはよくよく考えないといけない部分ではあるんですが。

tami:「思い込まなくてもいい」という面では、いいことな気がしますね。昔はこれをやるにはこれを辞めなきゃいけないって思い込みが強かった気がします。

後藤:昔は、本気でやっているのか趣味でやっているのかをすごく問われたりしましたよね。でも、草野球やっている人に「プロになる気ないのに野球やってんの?」とか聞かないですよね。プロとアマチュアっていう言葉自体、インディーにおいてはなくなった方がいいだろうなと今は思ってます。

tami:そうですよね。分ける意味ないですもんね。

後藤:「そんなこと関係ないんだよ。俺たちは音楽を作るのが楽しくてやってるから。これが人生を豊かにすると思ってやってるから」みたいな。バーンと売れて、音楽業界の政治に巻き込まれて、そこでサバイブすることが果たして成功なのか、幸せなのか、っていう。もちろん、それが幸せだって言う人もいると思うんだけど、それとは違う価値観でやってもいいんだよっていうことは言っていきたいですよね。

後藤:情報化社会になって、いろんなスタイルの音楽家の人生を見られるようになってきたじゃないですか。昔はロックスターのセンセーショナルな死とかばかりが目に入ってきていたけど、今はいろんな人が自分のライフスタイルを開示している時代だから。例えばLOSTAGEの五味くんみたいな生き方いいなあって思う人はたくさんいるだろうし(連載vol.1「LOSTAGEの五味岳久を訪ね、奈良へ。音楽をやめる、続けるとは?」)、一方でELLEGARDENの細美くんみたいに、生まれながらのロックスターなんじゃないかみたいな人にも憧れるし。いろんなスタイルがあっていい。でも結局、五味くんにも細美くんにもなれないから、自分なりのやり方を見つけるしかないんですけどね。

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