TAMIWのボーカリストであり、大阪・堺にあるお寺で音楽スタジオ「Hidden Place」とペット霊園を経営するtamiが、「音楽と仕事」をテーマに対談をする連載『音楽と仕事、ときどき法要』。第3回のゲストは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さん。
後藤さんのサラリーマン時代の話から始まり、音楽をやる上での「幸せ」とは? 「仲間」とは? と二人の対話は広がっていきました。さらには、後藤さんが計画中の若手ミュージシャンのためのスタジオ運営のお話も。そこには『NANO-MUGEN FES.』から一貫する後藤さんの思いがありました。
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就職した方がバンドやりやすいんじゃないかと思ったんですよね。(後藤)
tami:この連載は「音楽と仕事」がテーマなんですが、後藤さんは昔、会社員として働かれていたんですよね。
後藤:はい、サラリーマンをやってました。バンドは大学時代に始めたんですけど、在学中はあんまりお客さんも増えなくて。でも卒業してもバンドぐらいしかやりたいことがないし、どうしようかなと思いながら、気づいたら最後の春休みになっていて。大学の就職課に呼ばれて、「後藤さん、どうするんですか?」って(笑)。
tami:困りましたね(笑)。
後藤:「なにか興味のあることはありますか?」と聞かれて、「音楽ですね」と言ってみたんですけど、「音楽の仕事はないです」と。「次に興味があることは?」「美術ですかね」と言ったら、たまたま美術関係の出版社の仕事があって、そこに就職して。営業として、書店や文具店、美術館なんかを回っていました。
tami:会社員として働きながら、バンドは続けていたんですよね?
後藤:はい。就職した理由はほぼそれで、就職した方がバンドやりやすいんじゃないかと思ったんですよね。お金の心配もしなくていいし、仕事の時間とか休みが決まってた方が音楽やりやすいなって。バイトしながらとかだと、逆にきついだろうなと思ったんです。
当時は、とりあえず数年間、踏ん切りつくところまでは働きながらやってみようという感じでした。その頃は自分たちだけで音源を作って配信するっていう選択肢はなかったので、しばらくやってみてレーベルに見つけてもらえなかったら、諦めようと思ってましたね。本当に、インディーでのリリースが決まらなかったら地元に帰っていたと思います。
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音楽をやる上で何を大切にするかっていうのをしっかり持っていないといけない時代になった。(tami)
tami:その頃(2000年前後)って、別の仕事をしながら音楽をやる人って今よりかなり少なかったと思うんですよ。今は自分たちでいろんなことができて、「早く見つけてもらってデビューしなきゃ続けられない」っていう状況じゃないから、仕事しながら音楽やる人が増えたんじゃないかな。
でも、CDデビューっていう大きな共通の目標がなくなったからこそ、自分が音楽をやる上で何を大切にするかっていうのをしっかり持っていないといけない時代になったんだろうなとも思います。音源流通を簡単にできるようになったからこそ、そういう意思がしっかりないと、なんとなく「やった感」で終わってしまう。どういう人に聴いてもらいたいかとか、どういう自分でいたいかとか、考える選択肢が増えて、それって贅沢なようにも見えるんだけど、苦しいところでもあるんですよね。
後藤:なんとなく形になるところまではみんないけるから、どうやったら抜きん出るかっていうのは難しくなってますよね。だから、これからは「どうして音楽をやりたいか」っていう理由が強烈にないと、やってもしょうがなくなってくるのかもしれない。
tami:こだわりを持っている人ほど、今はハッピーなんじゃないかと思います。まあ、それで大枚を稼ぎたいとかってなると違うと思うんですけど。
後藤:たしかにそう。お金を稼げたかどうかが、ハッピー、アンハッピーの物差しになっちゃうとつらいですよね。売れるために音楽をやってる人って、結局売れなくなったらやめるわけじゃないですか。それだと、音楽をやっているのか、何をやっているのかよく分からない。僕たちにとっては音楽が手段じゃなくて目的だから、稼げないからやめるってわけにはいかないんですよ。その思いが根っこにあった上で、それが仕事になるならこれ以上幸せなことはないなとはやっぱり思ってますけどね。
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プロとアマチュアっていう言葉自体、インディーにおいてはなくなった方がいいだろうなと今は思ってます。(後藤)
後藤:音楽と別に仕事を持っている人たちは、音楽では好きなことしかやらないって決めていたりして、それはそれで純粋で美しいんじゃないのかなと思ったりもしますね。仕事とか家のこともあったりして、限られた時間の中でバンドメンバーと集まるんだから、そんな貴重な時間にやりたくないことやらないじゃないですか。そういうところに宿る美しさをすごく感じる時はありますね。一方で、売れようとしてもがくっていう、ポップミュージック特有の邪念から生まれてくる良さっていうのももちろんあるんだけど。
若い人たちもむやみに仕事を辞めたりしなくなったというか、地に足がついてる人が増えてるなって気はします。それがいいことなのかどうかは、音楽を仕事にしている身としてはよくよく考えないといけない部分ではあるんですが。
tami:「思い込まなくてもいい」という面では、いいことな気がしますね。昔はこれをやるにはこれを辞めなきゃいけないって思い込みが強かった気がします。
後藤:昔は、本気でやっているのか趣味でやっているのかをすごく問われたりしましたよね。でも、草野球やっている人に「プロになる気ないのに野球やってんの?」とか聞かないですよね。プロとアマチュアっていう言葉自体、インディーにおいてはなくなった方がいいだろうなと今は思ってます。
tami:そうですよね。分ける意味ないですもんね。
後藤:「そんなこと関係ないんだよ。俺たちは音楽を作るのが楽しくてやってるから。これが人生を豊かにすると思ってやってるから」みたいな。バーンと売れて、音楽業界の政治に巻き込まれて、そこでサバイブすることが果たして成功なのか、幸せなのか、っていう。もちろん、それが幸せだって言う人もいると思うんだけど、それとは違う価値観でやってもいいんだよっていうことは言っていきたいですよね。
後藤:情報化社会になって、いろんなスタイルの音楽家の人生を見られるようになってきたじゃないですか。昔はロックスターのセンセーショナルな死とかばかりが目に入ってきていたけど、今はいろんな人が自分のライフスタイルを開示している時代だから。例えばLOSTAGEの五味くんみたいな生き方いいなあって思う人はたくさんいるだろうし(連載vol.1「LOSTAGEの五味岳久を訪ね、奈良へ。音楽をやめる、続けるとは?」)、一方でELLEGARDENの細美くんみたいに、生まれながらのロックスターなんじゃないかみたいな人にも憧れるし。いろんなスタイルがあっていい。でも結局、五味くんにも細美くんにもなれないから、自分なりのやり方を見つけるしかないんですけどね。
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文化的な価値は絶対お金なんかじゃ測れない。(後藤)
tami:今、後藤さんは若手ミュージシャンのためのスタジオ開業準備をされているんですよね。その一環で、私が経営しているスタジオ「Hidden Place」にも見学に来てくださって。
後藤:はい。日本でスタジオ文化がだんだん先細っていっているのを感じていて、なんとかしたいなという気持ちがあって。スタジオで録音するとなると、特にドラムを録るのにかなりお金がかかるから、なかなかインディーの人たちがそこにアクセスできない。一方で、いいスタジオが経済的な理由でどんどん潰れていったりもしていて。
tami:お金って、なかったら間違いなく困るんですけど、その価値って刹那的ですよね。文化的な価値と比べて、お金の価値は結局あとに何も残らないというか。
後藤:本当にそうなんですよね。一日スタジオを借りるのにいくらっていう値段がついてますけど、でもそこで達成できることってその金銭に替えられない。この素晴らしいドラムが録れた今日一日のことを、お金に換算できますかって言ったらできない。でも潰れるときはお金の話が全てで、その文化的な価値の方は加算されないんですよね。
tami:スタジオって「高い」って言われがちですけど、ほんとに儲からないんですよ(笑)。
後藤:儲からないですよね。でも、その中でどうやったらインディーのミュージシャンが工夫して勝てる場所を作れるかをずっと考えていて、NPO法人としてスタジオを運営していくことも検討しています。文化的な価値は絶対お金なんかじゃ測れないんですけど、でもやっぱり何をやるにしてもお金が迫ってくるので、その障壁をどうやって外していけるかが課題ですね。
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文化の土壌を良くしていくのが、先を歩んでいる人たちの務めなんじゃないかと僕は思ってます。(後藤)
tami:若い人たちのためにそこまでするのは、どうしてなんですか?
後藤:自分でもなんでこんなことしてるのか、よくわからないんだけど(笑)。でも、もともと自分が、環境的にあまり恵まれてこなかったというのはあるかもしれない。文化資本の少ない田舎で生まれ育ったりとか、サラリーマンしながらバンドをやっていたりとか。自分でなんとか切り拓いてきたところがあるから、自分と同じ理由で苦労している人たちの無駄な時間を減らせるようなことができたらなと思って。
文化の土壌がしっかりしていれば、みんなもっと早く曲作りや録音にアクセスできる。若い人たちが苦労しなくていいし、かつての自分も苦労しなくていいような社会を作りたいというか。そういうところを良くしていくのが、先を歩んでいる人たちの務めなんじゃないかと僕は思ってます。そうしないと先細りしていくのが目に見えてますからね。
tami:今も録音の現場って思ったより閉鎖的ですよね。エンジニアを探そうと思っても、霧の中を手探りで進んでたまたま出会った人に頼むしかない、そしてずっとその人のやり方しか知らない、みたいなことってけっこう多いと思うんです。そういう部分も、もっと選択肢が広がっていったらいいですよね。
後藤:たしかに、何もかも謎に包まれすぎてる。マッチングの方法がなにかあった方がいいですよね。そういう意味でも、大事なのはやっぱりコミュニティ作りだと思います。スタジオがそういうコミュニティの中心の場になっていくといいですよね。あそこに行けばいろんな選択肢を教えてもらえるみたいな。「Hidden Place」はそういう場になっていきそうな感じがして、見にいった時すごく羨ましく感じました。
tami:コミュニティの話ともつながるんですけど、前に、「TAMIWって仲間がいなさそうだよね」っておっしゃったじゃないですか。
後藤:音楽性からして、誰かとつるむのか難しそうだなと思って。
tami:そう、それが自分たちでもわからなくて、悩んでいるんですよね。後藤さんは、仲間がたくさんいる印象なんですけど、そもそも音楽をやる上での仲間ってなんなんでしょうね?
後藤:この間、(五味)岳久と加藤くん(SADFRANK / NOT WONK)と弾き語りのスリーマンをやったんですよ。その時すごく居心地がよかったんですよね。普段からたくさん連絡取り合ってるっていうわけでもないんだけど、会うとなぜか安心する。一緒にやると安心する人って、音楽のジャンルが全然違ってもいたりするから面白いですよね。
岳久とか加藤くんとかと一緒にライブして、ライブハウスのきったねえ階段でビールすすってると、この瞬間に立ち会えてるっていうのが、俺の音楽が間違ってないというひとつの証だなと思える。そういう感じで仲間というか、合う人のことを肌で感じてますね。