折坂悠太の4thアルバム『呪文』の発表、そしてそのリリースツアーの開催に際した短期連載第4弾。
最終回の書き手は、小袋成彬。ほぼ同世代の彼は、プロデューサーとして、DJとして、アーティストとして、そして同じ時代を生きる一人の個人として、折坂悠太の音楽から何を感じ取ってきたのか。約10年前の第一印象から振り返り、『呪文』について綴る。
INDEX

日本・埼玉県出身、イギリス・ロンドン在住のアーティスト。 株式会社TOKA創業者。
小袋成彬が振り返る、折坂悠太の第一印象
俺が初めて折坂さんのライブを観たのは、確か2015年のWWWのイベント(※)だった気がします。すごくいい声、いいオーラだなっていう印象でした。初めて話したのは、俺の記憶が正しければ2018年の『RISING SUN ROCK FESTIVAL』のバックステージです。初めて会った時「この人はしっかりしてる人だな」って思いました。
折坂さんの“あさま”って曲の話をした気がします。この曲って音楽とメロディーと歌詞とが全てリンクしているというか、小難しいことをせずに自分の内からスッと出したようなピュアさがありますよね。歌詞も<風が吹くたび浅間の山の / 裾野かける産声が / やまぬ>ですからね。新しい命の息吹も感じるし、すごい心が洗われますよね。捻くれてないし、めっちゃいい。
※編注:2015年10月にWWWで開催された『P.A.Nまつり』のこと。折坂悠太のほか、どついたるねん、奇妙礼太郎、角舘健悟(Yogee New Waves)らが出演した
折坂さんの歌や詩って、「出汁そのままの味で勝負」みたいなところがあると思うんです。自分を大きく見せようとする音楽が多い中で、そういう勝負の仕方ってすごく勇気がいることなんですよね。
エゴを取り去って自分とちゃんと向き合わないとああいう音楽は出せない。折坂さんの音楽には嘘がない気がする。めちゃめちゃ尊敬しています。
INDEX
UK在住のプロデューサー、DJ視点で聴いた『呪文』
今回のアルバムを聴いて、折坂さんのオリジナリティーがどんどん磨かれてるなと思いました。俺と折坂さんは同世代で、きっとキャリアの年数も一緒くらいだと思います。だからこそ、折坂さんの歩む人生と音楽の変化に思いを馳せてしまうというか。
『呪文』には常に家族がそばにいる感じがあっていいですよね。きっとお子さんもいらっしゃるはずだから、「子供を守る」って言葉が自然と出てくる。流れていく季節に対する視点が一人ではないのが面白いし、自分にはない視点だなと思います。「こういう曲が書けたらな」って思いますよ。
プロデューサー的な視点で言うと、「サックス一本で優しく吹くの、わかってんなー」って思いましたね。ビバップみたいな吹き方じゃなくて、ちゃんと折坂さんの楽曲を下支えするようなサックスの使い方ですよね。「俺もサックス使いたいな」って思いました(笑)。
DJ的な視点だと、“Never(努努)”と“Calmly(凪)”をかけたいですね。リーズにあるCosmic Slopっていうオリジナルサウンドシステムのベニューで今度DJするんですけど、そこは特に音楽が好きな人が踊りに来るナイトクラブなので、この2曲をかけたいなって思いました。
歌詞の語感がユニバーサルですよね。友達と踊りながら一緒に口ずさみたくなるというか。日本語がわからなくても「努努」って言いたくなるし。
“People(人人)”もイギリスの人は好きそうだなって思いました。「栄養」「健康」「結構」「正常」って言葉の使い方がいいですよね。特に俺が属しているレコード好きの界隈には絶対刺さるなって思いました。
折坂さんの音楽って「山」感があるというか、日本の独特の風景が思い浮かぶんですよね。気温、湿度、山から吹きおろす風、そこにいる人々、全てが俺の中の日本の風景と重なる。日本で生きて暮らしていないと出てこない音楽だし、だからこそピュアだなと思います。