毎日の生活と、その背後にある世界の様相に目を向け、実直に歌をしたためる折坂悠太。4枚目のオリジナルアルバム『呪文』の発表、そしてそのリリースツアーの開催に際して、NiEWは折坂悠太の歌と『呪文』を紐解く短期連載を始動する。
1人目の書き手は、シンガーソングライターの優河。新作『Love Deluxe』をリリースしたばかりの彼女は、折坂悠太の歌にどんな眼差しを向けているのだろうか。
INDEX
折坂悠太の「声」との出会い。ぼうっと宙を見上げ、優河が感じていたこと
折坂さんの音楽と初めて出会ったのは、『平成』(2018年)が出たタイミングだったと思います。そのときは折坂さんがどのような言葉で何を歌っている、ということを考えるよりも先に折坂さんのその声に全ての意識や感覚を持っていかれたようでした。私の耳が、その声に集中してこれは一体何だろう、と動物的な感覚でバスの中、一人で宙を見上げた記憶があります。
2019年頃に一度神戸の能楽堂でのライブでご一緒した際、初めてその歌声を生で聴きました。やはり最初はこの声がもたらす感覚が何なのかわからずしばらくぼうっと宙を見上げていたのですが、そのうちその声が大きな天の川になったり飲む水のようになったり、いろいろな形になっていきました。気が付けば私は正座をして俯きながら、手のひらを組み、ありがたやという気持ちでいっぱいになっていました。
なんだか、遥か昔から私たち日本人がやってきたように、腰や足が痛むとお寺に行ってこの仏像のここをさするとよくなる、みたいな感じで、この声を聴いていると身体が勝手によくなっていくのではないかという願いや祈り、希望に似た感覚がありました。
今こうして文章にすると、少し怖い人みたいに思われそうで不安ではあるのですが、でも、やはり折坂さんの声にはそういうなんだか温泉の効能みたいなものがあるような気がするのです。
そこからずっとまたちゃんとご一緒したいなという気持ちが心の中にあったのですが、私もしばらく落ち込んでいた時期があったり、この私の人間的な未熟さが、折坂さんと同じステージに立ったところで顕わになって恥をかくのではないかと思ったりして、なかなか共演のお誘いができずにいました。
でもこの数年、音楽活動を続ける上でいろんな人に助けられたり自分に対する意識や自信も変わってきたりして、ずっと心の中で温めていた折坂さんとご一緒したいという気持ちを現実に叶えたくなり、2024年6月、『In Other Words』という私のイベントにお誘いさせていただきました。
この日はお互いバンド編成だったこともあり、また少し違った感覚で、フィジカルな感動というか、素晴らしいバンドメンバーたちから織りなされる音の響きやグルーヴに身を任せてゆらゆら揺れたりその音にどう折坂さんの声が乗るのかというワクワクの楽しさもありました。でもどんなときでもやはり声が一番上にある感じがして素晴らしかったです。