漫画家オカヤイヅミさんが、ゲストを自宅に招いて飲み語らう連載「うちで飲みませんか?」。第15回は歌人・小説家の加藤千恵さんにお越しいただきました。
実はこの連載の収録時に、毎回と言っていいほど話題に上がるのが、加藤さんの名前。幅広い交友関係を持ち、きめ細やかな連絡や気配りを欠かさず、人と遊ぶことにアクティブな「社交強者」として知られる加藤さんですが、最近はその様子に変化が……?
『ごはんの時間割(1・2)』(2014〜2015年、講談社)で共作もしている旧知のお二人による、サシ飲みの模様をお届けします。
当日振る舞われた「メカジキとコーンのココナッツカレー」のレシピもお見逃しなく!(レシピは記事の最後にあります)
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社交上手な「幹事キャラ」加藤千恵に異変が?
加藤:こんばんは。さっき(村田)沙耶香ちゃんと(西)加奈子ちゃんと会ってて、オカヤさんによろしく言ってたよ。

1983年、北海道旭川市生まれ。歌人・小説家。2001年に短歌集『ハッピーアイスクリーム』でデビュー。著書に『ハニー ビター ハニー』『この場所であなたの名前を呼んだ』『今日もスープを用意して』など。小説、詩、エッセイのほか、Podcastなどのメディアでも幅広く活動中。
加藤:こないだ歌人の上坂あゆ美さんと対談したときにも、「カトチエさんは友達力が高い」って言われたけど、どうなんだろうね。子どもを産む前の方がもっと元気だったと思う。いま、別に新しい知り合いが欲しいと思ってなくて。
オカヤ:前は欲しかったんだね。
加藤:欲しかった。いろんな人といろんな話がしたかったんだけど、最近は、知ってる人と知ってる話がしたい(笑)。昔は会いたい人がけっこういたんだけど、いまあんまりいないかな。好きな芸人さんや作家さんとかも、でも会っても話すことないな、と思ってしまう。
オカヤ:前は好きな芸人さんに会ってみたかったの? 「◯◯さんと知り合いだよ」と言われたら「(一緒に会う会を)セッティングしてくださいよ」と頼んだりしてた?
加藤:というか、どこかで知り合ったら、断られてもいいから誘ってみるようにしてたな。
オカヤ:ああ、カジュアルに誘う人だよね。私もカトチエのおかげでいろんな人と知り合った感はある。
加藤:友達が文学賞を取ったら、そのパーティーに行って、そこで知り合った人を誘ってみて……みたいなことはあったけど、いまもうそれも抜けてきてるというか。パーティーに行くような機会も減ったし。あと、幹事ができなくなった。昔は10人ぐらいの飲み会とかも平気でできたんだけど、連絡して、日程を合わせて、お店を決めて、というのが面倒になっちゃって……。
オカヤ:そういうのは勢いが必要そうだもんね。
加藤:うん。いまでも毎年、自宅でお花見をやってくれてる西加奈子ちゃんは、すごいなと思う。
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「いまでも“わあー、東京♥”って思う」(加藤)
オカヤ:みんな子どももいない頃は、夜中に突然呼ばれて遊びにいくようなことがよくあったよね。
加藤:そう。子どもがいると、あらかじめ予定しないといけないから、突然人と会うことが無くなってきた。もちろん、子どもがいることで見せてもらっている新しい世界がたくさんあるけど、でも、突発的に友達と会うために生活してるのになー、という気持ちもあるよ。
オカヤ:そうなんだ。それでこそ東京暮らしだ、みたいな?
加藤:そうそう。私、夜中にさ、友達に会うために首都高をタクシーで走ってる時間が超好きだったんだよ。流れる風景を見てるのが。
オカヤ:すごい「ザ・都会の人」だ(笑)。歌詞みたいだね。
加藤:<流れる景色を必ず毎晩みている>ね。ほんと<家に帰ったらひたすら眠るだけだから>さ(笑)。いまタクシーもあまり乗らないもんな。ちゃんと電車で帰るし。

オカヤ:終電の時間でもう眠いもんね。私は家族いないけど無理だもん。
加藤:徹夜すると戻すのに2、3日かかっちゃう。2015年は『オールナイトニッポン0(ZERO)』で午前3時〜5時の生放送もやってたけど、あんなの信じられないよ。
オカヤ:あとさ、カトチエはマスメディアの仕事をしてたり、有名な人と友達になっても、ずっと視聴者目線のままで、そこの線引きがはっきりして見える。
加藤:テレビに出てるような人と会ったときにどう振る舞うかって、難しいよね。必要以上に持ち上げるようなのも違うと思うし。
オカヤ:うん。こっちが一方的に知ってるというバランスがあるから、私は何も言えなくなっちゃう。「あの番組見てました」みたいな話をされて嬉しいのか、むしろそれは嫌で「これ美味しいですね」みたいな話だけしてる方がいいのかぜんぜんわからない。し、私は「これ美味しいですね」みたいなことしか言えないから……。
加藤:たしかにね。
オカヤ:カトチエは、本人と友達になってもずっとファン目線なのが、徹底してるなーと思うよ。
加藤:自分を発信側だとあんまり思ってないからかな。自分はずっと、県大会レベルなのに全国大会やオリンピックに混ぜてもらってるような感覚。すごいたちと一緒にいられてラッキー、って。あんまり現実味がないのかもね。
オカヤ:だから東京が楽しいのかな。
加藤:いまでも「わあー、東京♥」って思うんだよね。なんでこんなに東京が好きなのかな(笑)。知り合いがいなかったらほかのところに住むのかな? でも、いつも伊勢丹とかGINZA SIXとか行って「わあー、好きなもの全部ある!」って思ってるよ。資本主義の申し子(笑)。東京楽しいな、演劇もお笑いもたくさん見られるし、って。
オカヤ:20年以上住んでるのに、そう新鮮に感じるのはすごいよ。(出身地の)旭川は恋しくならない?
加藤:ならないな。帰ったときに友達に会えるのは嬉しいけど、それは地元の友達が東京に来たときに会うのでもいいから、土地というより人でしかないかも。地元のことは好きだと思うけど、戻って住めるかというと、車の運転をどうするかとか、いろいろ問題は出てくるし……。

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ママ友に歌人だと知られたくない
オカヤ:子どもがいることによって、新しくできた付き合いもあるんじゃない?
加藤:ああ、近所のコミュニティはやっぱりあるよ。こないだも歩いてたら、小学生の集団に「○○くんのママ!」って言われて、ちょっと話したりとか。いままで住んでいた家では、隣に住んでる人のことは知らなかったけど、いまは子どもがいることで近所付き合いもできたりして、新鮮だなと感じる。
オカヤ:そうだよね。一人暮らしだと、地域のコミュニティに本当に関わらないから、うらやましいな。近所でお餅つきをやってても、私が餅をもらってはいけない、おばさんがいきなり行ってもな……と思っちゃう。
加藤:でもね、仲のいい、いわゆる「ママ友」はいないんだよ。どこから入っていいかわからないというか、親同士のコミュニケーションに慣れてないんだよね。
オカヤ:そこでは社交力が発揮されないの?
加藤:うーん……ちゃんとした親だと思われたいという気持ちが強くて、歌人だとか知られたくないんだよね(笑)。それで壁を作っちゃってるかもしれない。他の親御さんがフリーランスって聞いても気にならないんだけど、自分は会社員になれなかったというコンプレックスを抱えていて、毎日朝起きて会社に行っている人たちに対して、ずっと引け目があるんだなとあらためて思った。
オカヤ:周りがみんなちゃんとしてる人に見えるんだ。実際そうでもないかもしれないけどね。会社員のふりをしてみたりはしないの?(笑)
加藤:それも考えたけど(笑)、保育園のお迎えに行くときとか、フリーランス感がにじみ出ちゃってたと思うんだよ。ママ友で仲のいい人たちって、何をきっかけに、何の話をしてるんだろうね。見てるとほかのお母さん同士は「また飲もうね」とか言っていて、どうやったら飲む関係にまで……? って思う。
オカヤ:いきなりお笑いの話とかをしてみればいいのかも? グッズを目立つように着けていってみるとかさ。大学生くらいのときって、そういう感じで人と友達になってた気がするな。着てるTシャツで「そのバンド好きなんですね」という話になったり。
加藤:そうだね。好きなものを放り込んでみたら、「私も好きなんです」という人がいるかもしれない。こっちが、伝わらないだろうと思いすぎなのかな。

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表現したい欲求は、もともとあまり無い?
加藤:話は変わるんだけど、わたし、勤労意欲がかなり低くて。働きたくないんだよ。なんでみんな働きたいんだろう? というのが本当にわからなくて。
オカヤ:仕事がなかったら死ぬかも、みたいな不安はない?
加藤:生活できないとか、やりたいことにお金が必要だったりするから、という金銭面での不安はもちろんあるけど、たとえば5億円持ってたら働かないと思うんだよね。でも、5億円持ってても働くっていう人がけっこういる。
オカヤ:以前いろんな作家さんに最後の晩餐に何を食べたいか聞く連載をやっていたときに、世界が滅んで自分ひとりになっても書く、という人がけっこういたな。
加藤:うん、無人島で書くか問題ね。私は書かないなあ。日記ぐらい書くかもしれないけど、それも途中で飽きそう(笑)。
オカヤ:表現欲求みたいなのがもう無い?
加藤:もともとあんまり無いのかもしれない。
オカヤ:歌人なのに(笑)。
加藤:高校生の頃とかはあったかもしれないけど、私は枡野浩一さんに拾ってもらって世に出たので、小説の賞に応募してデビューみたいな王道を通っていなくて、考えてみれば、作家になりたいと思ったことも無いんだよね。
オカヤ:ああ、それは私もそうだな。(賞に)受かるまで描くぞ、みたいな気持ちはまったく無かった。これを書かなければ死ねない、みたいなものは別に無いんだ?
加藤:そうだね。作品のテーマも、いつも「こういうのが書きたい」といって始めるというよりは、編集さんとお会いして「どういうのがいいですかね?」と相談する感じだから。そうそう、大学受験のときに、日芸かどこかの過去問に出てきた三題噺みたいな論述がすごく楽しくて、勉強と関係なくやってたりしたんだよね。完全に自由です、好きなものを書いてください、という状態より、そういう制限があった方が好きで。短歌もしばりがあるじゃない?
オカヤ:ルールが好きなんだね。ゲームっぽいというか。
加藤:そうかも。それで言うと、コピーライターになりたかったんだよね。小学校高学年のときに担任の先生から、コピーライターという職業があることを教えてもらって、ずっと憧れてた。いまも広告仕事は嬉しいし、好きだな。
オカヤ:私は最初、商業デザインの方が向いてると思っていて、実際にやってみたらまったく向いていなかったことに気づいた。意外と「そうはしたくない」みたいな我が出てしまったりして……。いまはイラストの仕事もすごく楽しいけど、「私に頼んでるんだからこの作風でいいんですよね?」みたいな気持ちがあるからできてるな。

加藤:そもそも承認欲求とか自己顕示欲とかが低めなのかも。違う話かもしれないけど、かなり前に、とある著名人のラジオ番組に出演したときに、ファンの人たちから、主に容姿をすごく叩かれたことがあったんだよ。そのときに、いままで自分がきれいかそうでないかをあまり意識して考えたことがなかったな、と思ったの。その話を高校の友達にしたら、「カトチエってたしかにあんまりルックス気にしてなかったよね」って言われて。
オカヤ:たしかに化粧をすごくするとか、見た目に強くこだわっている印象は無いね。
加藤:それってなんでかなと考えたときに、けして数は多くないけど、ある程度恋愛もしてきていたし、そこで満たされていたのかもとふと思ったの。
オカヤ:逆に承認欲求のために恋愛を使ってる人も多そうだけど、それは潔いね。
加藤:一種の恋愛脳だったのかな(笑)。いまだに人の恋愛の話を聞いたりするのもすごく好きだったりするし。書くものの話に戻ると、友達の恋愛話からモチベーションにつながったりすることもあるし。また恋愛の話を書いてる、と自分でも思うけど、多分ずっと興味があるんだろうなー。
オカヤ:ずっと同じことを書いてる方が、読み手に安心感があったりもするよね。
加藤:そうだね。確かに受け取り手として、ずっとラブソング歌っててくれるaikoさんとか、嬉しかったりするもんね。比べるのはおこがましいけど、わたしも頑張って書くよ。5億円が舞い込んでこない限りは(笑)。

オカヤイヅミの「多摩で飲みませんか?」 in 『TAMATAMA FESTIVAL 2026』
オカヤイヅミの「ウチで飲みませんか?」が『TAMATAMA FESTIVAL』に出張! 連載の雰囲気そのまま、ユルいトークを公開で行います。
ゲストにお招きするのは、漫画『大家さんと僕』でも知られるカラテカの矢部太郎さん。
ともに手塚治虫文化賞の受賞作家として親交のあるお二人からは、どんなお話が飛び出すのか?
お二人の「家飲み」を、ぜひ「のぞき見」しに来てください。
日時:10月18日(日)時間未定
場所:パルテノン多摩4F
出演:オカヤイヅミ(漫画家)、矢部太郎(芸人/漫画家)
予約不要・無料
https://tamatamafes.com