漫画家オカヤイヅミさんが、ゲストを自宅に招いて飲み語らう連載「うちで飲みませんか?」。第4回はベーシストのかわいしのぶさんにお越しいただきました。
音楽と漫画、それぞれのフィールドで様々な経験を経て、今は自然と「楽しく続けていくあり方」にたどり着いたというかわいさんとオカヤさん。作品を作ったり、カルチャー分野で仕事をしている人にとっては、読めば未来に希望が持てるかもしれない、サシ飲みの模様をお届けします。
当日振る舞われた「焼きナスキーマカレー」のレシピもお見逃しなく!(レシピは記事の最後にあります。)
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音楽は楽しいから、今からでもやった方がいい!
かわい:お招きありがとうございます! この連載は、オカヤさんのごはんがおいしそうでうらやましいなーと思いながら読んでいたので、すごくうれしいです。
オカヤ:ようこそ。かわいさんとは、グッズ作りでシルクスクリーンを一緒に刷りに行ったり、南インド料理を一緒に習ったり(※1)、なんだかいろいろなことをして遊んでますよね。最初に会ったのは『さるフェス』(※2)でしたっけ?
かわい:最初は、うーん、どこだっけね(笑)。思い出せないことが増えていくなあ。
※1 その模様は、同人誌『作ろう!南インドの定食 ミールス』(趣味の製麺BOOKS)に収録されている。
※2 『さるハゲロックフェスティバル』(通称『さるフェス』)……音楽、演劇、漫画、お笑いなどの分野で活動するクリエイターが集まり、ライブやステージ、模擬店を展開する、文化祭のようなオールナイトイベント。新宿ロフトで毎年1月に開催されている。主催は漫画家のしりあがり寿。
オカヤ:私、ずっと音楽にコンプレックスと憧れがあるんですよ。実はいま友達の漫画家と「もし楽器をやるなら、何の楽器にする?」みたいな話をしていて。
かわい:おお! それは、どんどんやっちゃった方がいいですよ。
オカヤ:『さるフェス』にも、漫画家さんや作家さんがやっているバンドが出演してますけど、書き手って中年になるとバンドをやりたくなるのかもしれません。音楽は、人と一緒に演奏できるのがいいですよね。漫画は人と一緒には描けないから。
かわい:そっか。みんなで作る、みたいなことがないのか。
オカヤ:あんまりないですね。あと、ふだん表に出る仕事じゃないから、出てみたくなるんでしょうね、きっと。発表会みたいなことがしてみたくなる。
かわい:それはね、絶対やった方がいいと思いますよ。音が出るのって、それだけでまず楽しいからね。
オカヤ:かわいさんがやっている即興演奏のライブっていうのは、事前に練習というか、合わせてみて「こういう風にできそうだね」となってからライブをするものなんですか?
かわい:当日、会場の音響をチェックする程度で、練習や打ち合わせのようなものはほぼないですね。
オカヤ:その場で試してみるしかないんですね。じゃあ「うまくいってないな」というのが、見ていてわかる時もあるんですか?
かわい:何も決めていないのでそういう場が生まれることもあるけど、自分が意識してやることは沈黙もひとつの音になるし、うまく言えないけれど、「面白くなさも面白くなる」んです。盛り上げようとかかっこよく見せようとか、場をコントロールしようとするとダメになる。
オカヤ:へー。私はあんまり即興性のあることをやったことがないから、恐ろしい……。
かわい:台本なしで人前でおしゃべりしてるのと一緒だよ。
オカヤ:そうか。あ、ちょっと俳句とも近いかもしれないですね。俳句って、何人かで集まって「いまこの2時間で作ってください」みたいなことをやったり、それで「その場に向けた良い俳句」が作られたりするんですよ。
かわい:似てるかもしれないね。場所も音の一部っていうか、全部がきっかけになってるっていうか。
オカヤ:そういうの、面白いな。
かわい:よし、カモン!
オカヤ:そんな、自分が演奏でやれるようになるとは思えないですけど……。
かわい:いやいや、やっちゃえばいいよ!
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『さるフェス』で出会った、自由で面白い大人たち
オカヤ:『さるフェス』は「サブカルの佃煮」みたいな場ですよね。
かわい:わはは。さるフェス関係の人たちとは、何度も会っていて、人によっては一緒に旅行までしているのに、互いに何をしてる人かよくわからなかったりして、面白いよね。
オカヤ:いい意味で他人に無関心な集団ですよね。仲はいいけれど、みんな他人に構わないし、詮索もしないっていう。
かわい:本名も知らないぐらいで、それがすごく気楽でいいなと思う。旅行に行っても、ずっと一緒にいるわけじゃなくて。
オカヤ:そう。こないだキャンプに行った時も、勝手に豚の丸焼きをしている人や、湖に行っている人がいて(笑)。
かわい:そういうところが、本当に居心地がいい。私、集団行動が苦手だったんで、まさか自分がこんな大勢で旅行やキャンプに行くようになるとは夢にも思わなかったよ。
オカヤ:面白い大人がいっぱいだな、っていう。大人になってもフラフラしてると、そういう似たような人たちとよく知り合うようになりますよね。
かわい:そうそう。このぐらいの歳になると、自然と苦手なモノや人とは遠ざかって、ちゃんと感覚が近い人のコミュニティに落ち着いていくよね。
オカヤ:流されて行き着きますね。吹き溜まると、そこに似たような人がいる。
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「自分が面白いと思うこと発信してたら、それを面白いと思う人がちゃんと近寄ってくる」
かわい:仕事でもそうだよね。私はそんなに器用じゃなくて、なんでもできるわけじゃないから、結果的に、一緒に面白いことをできる人たちと共演する時間が増えていったな。
オカヤ:かわいさんは、思いがけないところからいきなり「ベース弾いてください」って誘われることもあるんですか?
かわい:今はありがたいことに、私のことを知っている方から声かけてもらえているけれど。SUPER JUNKY MONKEYの時は、ひとつのバンド活動しかしていなかったから、ボーカルが亡くなってバンドが休止になったとき、自分が演奏する場所がなくなって。でも、いま弾くのを止めたらこのままベースを弾かなくなるなと思って、その時はね、誘ってもらえるものはとりあえずなんでもやろうと決めたのね。
オカヤ:うん。
かわい:その頃は「女の子のベースなら誰でもいい」とか「まだベース弾いてるの?」とか、ひどいお誘いもいっぱいあって。その人のことを何も知らないで、音も聴かないで誘ってくるっていうのは、私はちょっと失礼だなと思うんだけれど、でもそういうのも含め何でもやってたな。嫌な思いもしたけれど、いい出会いも沢山あったし、向き不向きがあることもよくわかったよ。
オカヤ:ああー、なるほど。私は、20代の頃は、会社員でデザイナーをやってたし、イラストも書けるし、自分のことを器用だと思っていて。
かわい:うんうん。
オカヤ:それで、ぜんぜん自分の作風じゃない受注仕事を頼まれても、こなせばいいと思ってたんです。クライアントからも安く見積もられてるし、こっちもクライアントを若干バカにしてるというか……よくないことなんですけど。ところが、そういう気持ちで仕事を受けると、全然上手くできないんですよね。その話を友達にしたら「何言ってんだ、お前は元々そうだろう」と言われて。
かわい:周りはみんな器用じゃないって知ってたぞ、と。
オカヤ:そうだったんだ! って。個性を生かすタイプの仕事をした方がいいということに、だんだん気づいていった感じです。で、そうした方が、「あなただから頼む」っていう仕事が来るようになるし。
かわい:昔、ある方から「自分が面白いと思うこと発信してたら、それを面白いと思う人がちゃんと近寄ってくるよ」と言われたことがあって、それは本当にそうだったなと思う。
オカヤ:本当にそうですね。結局「自分はこうです」っていう、ナチュラルな状態でいた方が、仕事もうまくいく。だから今は「私に頼んできたんだから、私がやりたいようにやっていいだろう」みたいな気持ちでいます。