西荻窪「JUHA(ユハ)」は、ジャズ喫茶でもミュージックバーでもない、いわば「町の喫茶店」だ。しかし、ここで流れているBGMの選曲はかなり個性的で、近隣のみならず遠方から訪れるファンも多い。音楽評論家・柳樂光隆がその魅力を紐解く。連載「グッド・ミュージックに出会う場所」第8回。
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JUHAは「完全に仕上がっている」
東京には僕が考える「完成度の高い店」がいくつかある。店の内装やインテリア、ドリンクのメニュー、そこに集まるお客さんの雰囲気、そして、それらにふさわしい音楽。店主が作りたい世界観、もしくは店主が心地よさを感じる理想の空間のイメージがあって、それを具現化するためにあらゆるディテイルが丁寧にデザインされている。そこには店主の好みが詰まっているのだが、それらが決して主張しすぎることなく、ひとつに調和している。この連載で紹介してきた飯田橋の「BAR MEIJIU」や渋谷の「Bar Music」はその代表格だ。
上記のふたつと並んで、僕の中で「完全に仕上がっている」と感じる店がもうひとつある。それが西荻窪駅から少し南に下ったところにある「JUHA」という名の喫茶店だ。店名はフィンランドの映画監督アキ・カウリスマキの作品タイトルからとられている。
「カフェ」というよりは「喫茶店」と呼びたくなるこじんまりとした明るい店の中では、店主の大場俊輔さんが焙煎をしていて、店内はコーヒー豆のいい香りに満ちている。時折、大場さんがレコードを選び、ターンテーブルにセットし、ジャケットを所定の位置に置く。すると、深入りのコーヒーが似合う、渋い音楽が流れてくる。