メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES
みらんと小原晩の交換日記『窓辺に頬杖つきながら』

産みの苦しみと喜び。「こころがぐらーん」

2023.9.22

#BOOK

from 小原晩 #9 ― 8月19日(土)

“天使のキス”をききながら、いま交換日記を書いています。
ほんとさ〜、私たち、窓辺でなにに許されたいのだろうって考えちゃうね。

さて、みらんちゃんはどうやって詞を書いてますか?
こころゆさぶられたとき、言葉がぽわっと生まれる感じ?
それとも、考えて考えてひねりだす?
もしくは、なにか思いついたらメモをしていて、そのメモを頼りに書いていく?

私はもともと、こころがぐらーんってくると、なんだかちからが湧いて、それは良いぐらーんでも、悪いぐらーんでも、どっちでもそう。そして、そのちからを発散というか、放出(?)したくなるのだけれど、だれかに話したらだれかの言葉になってしまいそうで、それはいやなんです。だって自分の純粋なぐらーんは、他人の言葉になった瞬間にぐらーんの純度が下がる気がする。というか、せっかくぐらーんときたんだもん! このぐらーんは私のものだ! みたいな感じというか。

だから、ぐらーんときたら、できるかぎり自分で言葉にしました。言葉にした時点で、きっと純度は落ちているのだけれど、それでも、自分で言葉にすると、すごく良いきもちになるんです。明日があるって思える。生きてたし、生きてる。みたいなそういう単純なきもちになります。

上記が、つまりは私の初心なのですが、生活っていうのは、心がぐらーんとくることばかりじゃないでしょう。安心したり、穏やかだったり、退屈だったりするから。

だから仕事で、文章を書くようになって、ちょっと悩みました。ぜんぜんぐらーんとしないから、言葉がするする出てこなくって。とくに詩歌のたぐいは、ぐらーんときたときにひとりでこそこそつくっていたものだったから困りました。

原稿書くぞ! と意気込むときは必ず用意するふたつの飲みもの

でも、些細なことは、おおきなことだと気づいてからは、こぼれ落ちるもの、こぼれ落ちたもの、こぼれ落ちてゆきそうなもの、そのすべてをよく見て、感じて、嘘をつかずに書くことで、前よりは筆がすすむようになってきました。まだまだ、あれだけど。すこしずつ、すこしずつでいいから、続けていけたらいいなと思います。

from みらん #10 ― 8月26日(土)

モチベーションが体の重さで左右されるのは楽しいことじゃないな。そう思って、体重計に乗らなくなった8月はじめ。すると体重だけじゃなくって、今まで気にしてたあらゆる数字が気にならなくなってきた。スマホの充電、伝票に書かれたお会計、フォロワー、今何時?、あれ今って何曲目?。毎朝はふわっふわで、お腹はさらりぺこり。鏡の前の顔は、うーん、、むくんでるう。。けどまあ、いいや。そんな、こんなかんじの日々で。

ふわりさらりぺこりで目が開いてない私。

晩ちゃんから届いたぐらーんを見ても、ひとまずぽかーんだった。日記を何回か読んでから、制作に追われていた去年の夏から冬頃を思い返す。あの時はずっとずっと、ぐらーんを求めていたなあ。天気と、光と、木々の揺れ、夕暮れと、眠る前と、出会う人たちに、自分の調子を重ね合わせて、とにかく繊細に、でも暗くならないで。そんな意識を頭に詰め込んで、そのぎゅうぎゅうの中で、たまになにかの拍子でできる隙間。そこ目掛けて問いかける。あなたは一体だれで、どこからきて、どこへいきたいの? 繰り返して繰り返して、背中がまるくなってきたとき、ふっと見上げる窓辺から、言葉とメロディーが訪れて。はじめまして〜と言わんばかりのそれらに私は大興奮。ああ良かった。あらわれてくれた。はじめまして。ああ嬉しい。みらんです。よろしくどうぞ。握手して、ハグして、大切にします。と、いうかんじかしら、私の作り方は。

なにはともあれ、ぐらーんってのは、きっかけだよね。大きくても小さくても、グッドでもバッドでも。私たちはきっかけひとつで、どこへでもいけて、なんだか生きた心地がするということ、とことん安心して良いと思うんだ。でもこれ晩ちゃんの言うように、ほぼ毎日向き合う仕事と違って、毎日感じられることじゃないから、むずかしいし、日々は大体平気でうんざりなんだけど、決して消えて無くなることもないって解ってる。大丈夫だよ〜か、大丈夫だったわ〜か、わかんないけど、また会って話そうね。

ところで今回の日記は、いつもスマホで打って書いてたけど、なんか猛烈に字が書きたくなって、手書きで書いてました。先日、好きなアーティストの展示に行き、そこで実際にノートに書かれたさまざまな絵や字を目撃して、とても楽しい気持ちになったからかもしれない。たまには、違う角度からのアプローチというのもありありだと思うんだけど、晩ちゃんの面白かったアプローチ、など、あれば聞きたいな。

from 小原晩 #10 ― 9月2日(土)

ここ一週間はとにかくしずかに、昼ごろ起きて、朝食(昼食?)をつくり、食べて、少し本を読んで、メールを返して、作業して、ちょっと出掛けて、すぐ帰って、夜ごはんをつくり、食べて、お風呂に浸かり、本を読んで、映画をみて、アイスを食べるか、ビールを飲むかをしていました。

今年がはじまってから、なんだか、せわしなかったなあって振り返りながら、自分を労っていました。そういう時間も大切よね。おかげで疲れはやんわりとれてきて、ちょっと回復してきたような気がします。この調子でゆったり生きていけるといいなあ。

新たな風、みたいなものがもたらしてくれるものはあるよね。

たとえば、好きな写真や絵からイメージをふくらませて短い話を書いてみたりもする。何かを読んだあと、その余韻のままに書いてみたりとか。ときどきそういうこともしてみたりはする。

先日行った上田佳奈さんの個展『イメージ・スキーマ』みててすごくわくわくした。

基本的には頭のなかにずっとあるものを、散歩しているときなどに思い出して、iPhoneにメモして、パソコンをひらき、文章にしていくのだけれども、最近は「stone」というテキストエディタで書いてる。これ、ほんとうに書くための機能しかないの。と言ってもよくわからないと思うのだけれど、たとえば画面上にいらない情報とか、色や形があると気が散ってしまわない? あとは字体や、文字の大きさが気に入らないと、なんだかこう、すごくいらいらするというか。「stone」は、まっさらな、ほんとうにまっさらな白の上に、うつくしい字体で、文章がたちあらわれる。なんというか、すごくしずかなの。液晶のなかなのに。「こういうのでいいんだよ、こういうので…」という感じなの。なんだか、回しものみたいになってしまったけれど、なかなか集中できない時に、試しに買ってみたらほんとうに良くて、うきうきとして、筆がすすんだんです。そういう、新しい風。面白みはないのだけれど、最近のアプローチでした。

みらん

1999年生まれのシンガーソングライター。
包容力のある歌声と可憐さと鋭さが共存したソングライティングが魅力。2020年に宅録で制作した1stアルバム『帆風』のリリース、その後多数作品をリリースする中、2022年に、曽我部恵一プロデュースのもと 監督:城定秀夫×脚本:今泉力哉、映画『愛なのに』の主題歌を制作し、2ndアルバム『Ducky』をリリース。その後、久米雄介(Special Favorite Music)をプロデューサーに迎え入れ「夏の僕にも」「レモンの木」「好きなように」を配信リリース、フジテレビ「Love music」でも取り上げられ、カルチャーメディアNiEWにて作家・小原晩と交換日記「窓辺に頬杖つきながら」を連載するなど更なる注目を集める中、新曲「天使のキス」を配信/7inchにてリリースする。

小原晩(おばらばん)

小原晩

作家。1996年東京生まれ。2022年3月、初のエッセイ集となる『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を刊行。

記事一覧へ戻る

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS