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短期連載:『HOSONO HOUSE』再訪

細野晴臣『HOSONO HOUSE』はなぜ、どのようにして海外での支持を獲得していったか

2025.2.3

#MUSIC

半世紀以上の時を越えて、『HOSONO HOUSE』が現代のリスナーに投げかけるもの

しかし、そのようないわば「レイドバック」回帰的な論点の傍らで、是非指摘しておきたいポイントがある。それは、表面的には長閑な田園風景をすくい取ったかのように聴こえる『HOSONO HOUSE』が、その実、様々な公害問題や経済危機など、当時の日本社会を覆っていた終末論的なムードと細野の抱いていた不安感との共鳴を、一種不穏な形で映し出していることと強く関連している。

ここまで本稿を綴ってきた非リアルタイム世代の私にとっては、現代の都市生活者がしばしば抱かざるを得ない都市生活自体の倦怠と不安、自然(=「ここ[都市]でない何か」)への憧憬、さらにはそれらがもたらす畏怖と空虚さの入り混じった感覚を、陰影に富んだサウンドによる心象風景の描写とともに捉えているという事実こそが、『HOSONO HOUSE』というアルバムが放ち続ける今日的な存在感の最も重要な源泉に感じられるのだ(それゆえにこそ、広大な郊外環境を持つLAを中心とした現代の都市生活者 / 移住者の人々が率先して同作を「発見」したのだと推察する)。

細野晴臣『HOSONO HOUSE』収録曲

そうした視点とともに改めて『HOSONO HOUSE COVERS』を聴いてみると、各アーティストのカバーの中にも、サウンドの心地よさや新規性だけでは語りえない何かが、静かに(もっといえば不気味に)口を開けてこちらを見据えているように感じられないだろうか。

今再び『HOSONO HOUSE』をじっくりと聴き直し、そして『HOSONO HOUSE COVERS』を何よりも「現在の音楽」として聴いてみるならば、現代という時代に対して50年以上もの昔から放たれた「個」の心象風景の揺らぎと、静かなる批評精神の蠢きが、両者の間に確かに漂っているのを感じられることだろう。

どうやら、私たちが「名盤」の殿堂に『HOSONO HOUSE』を鎮座させて安心しきっているうちに、それがはじめから孕んでいた未来との不可思議なつながりが徐々に姿を現してきたのが、この間の出来事だったということなのかもしれない。『HOSONO HOUSE』は、すでに語り尽くされてしまったようでいて、到底語り尽くされてなどいないのだ。

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『HOSONO HOUSE COVERS』アートワーク写真(各社音楽サービスで聴く

『HOSONO HOUSE COVERS』(LP)

2024年11月6日(水)発売
価格:5,500円(税込)
HHKB-001

[SIDE A]
1. 相合傘 / TOWA TEI
2. 福は内 鬼は外 / John Carroll Kirby feat. The Mizuhara Sisters
3. 住所不定無職低収入 / mei ehara
4. CHOO CHOO ガタゴト / くくく(原田郁子&角銅真実)
5. 冬越え / 安部勇磨
6. 僕は一寸 / Mac DeMarco

[SIDE B]
1. 恋は桃色 / Sam Gendel
2. 終りの季節 / rei harakami
3. 薔薇と野獣 / Cornelius
4. パーティー / SE SO NEON
5. ろっかばいまいべいびい / 矢野顕子

https://hosonohouse.lnk.to/COVERS
https://hosonohouse-cover.com/

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