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短期連載:『HOSONO HOUSE』再訪

細野晴臣『HOSONO HOUSE』はなぜ、どのようにして海外での支持を獲得していったか

2025.2.3

#MUSIC

グラミー受賞作への影響も。さらに裾野が広がる細野晴臣の海外人気

2018年に『HOSONO HOUSE』を含む細野のアルバム5作品の一挙リイシューを手がけたのが、シアトルとロサンゼルスに拠点を置くレーベル「Light In The Attic」であったという事実も示唆的だ。

同レーベルは、日本のビンテージなフォークロックを対象とした『Even A Tree Can Shed Tears: Japanese Folk & Rock 1969-1973』(2017年)というコンピレーションアルバム(※)を皮切りに「Japan Archival Series」と題したシリーズを展開しており、その中には、シティポップや環境音楽の再評価に大きく寄与したタイトルも含まれている。

※筆者注:同コンピには細野の“僕は一寸”も収録されている

細野晴臣『HOSONO HOUSE』収録曲

これらのリリースを手がけた同レーベルのプロデューサー(当時)である北沢洋祐も、日本人の両親の元カリフォルニアで育った人物で、細野作品をはじめとした日本産音楽の紹介者として、まさに「ハブ」的な役割を担っていた。

その後、彼は「Temporal Drift」というレーベルを共同で設立し、日本産音楽の再発等を手がけながら(今回のカバー集にも参加している)安部勇磨、岡田拓郎ら現役日本人アーティストの作品の制作にも関わっており、両地域のインディーシーンを結ぶ重要な存在として引き続き活躍している。

そういった一連の背景を理解してみれば、今回の『HOSONO HOUSE COVERS』の制作に同じくLAに拠点を置く名門「Stones Throw Records」が深く関わり、同社周辺のアーティストが多く参加していることも、ごく自然な流れに感じられるはずだ。

V.A.『HOSONO HOUSE COVERS』収録曲
V.A.『HOSONO HOUSE COVERS』収録曲

上述した2018年の細野作品の海外盤リイシューは、それにあわせて様々な英語版記事が掲載されたこともあって、より一層『HOSONO HOUSE』の認知度を高めることにつながった。

元をたどれば当初は一部のヒップスターによって愛されていたに過ぎなかった同アルバムは、そうした流れの中でいよいよ人気を拡大していくこととなった。また、2019年に行われた細野のアメリカ公演の成功とその好評も相まって、決して少なくない数の新世代クリエイター / リスナーの間で、新たな「スタンダード」として定着していったのだ。

細野晴臣の2019年のアメリカ公演より
細野晴臣『HOSONO HOUSE』を聴く(Apple Musicはこちら

そのような流れを象徴する存在といえるのが、歌手 / 俳優のハリー・スタイルズが2022年にリリースし、『第65回グラミー賞』で「最優秀アルバム賞」と「最優秀ポップ・ボーカル・アルバム賞」を受賞した作品『Harry’s House』だろう。発売当時、スタイルズ本人がメディアを通じて盛んに語っていたので、このアルバムのタイトルがずばり『HOSONO HOUSE』から取られていること、加えて、制作を進めていく中でのインスピレーション源として重要な役割を果たしたのをご存じの方は多いだろう。

こうした一連の展開と前後するように、細野および『HOSONO HOUSE』への支持は、米英出身のアーティストたちにとどまらず、国籍や地域を越えて様々なシーンへも波及していった。それは、今回のカバー集に韓国のインディーバンド、SE SO NEONやフランス出身(現在はLA在住)のPearl & the Oystersが名を連ねていることからも容易に察することができる。

“パーティー”をオリジナル版“ろっか・ばい・まい・べいびい”風のシンプルなアレンジとローファイな音像でカバーした前者、“恋は桃色”を洒脱なベッドルームポップ的な解釈で再構築してみせた後者ともに、ストレートなフォークロック調の解釈を離れて、それぞれに深いレベルから楽曲を消化しようとしているのがわかる。

V.A.『HOSONO HOUSE COVERS』収録曲
V.A.『HOSONO HOUSE COVERS』収録曲

もちろん、DiscogsやRate Your Musicといった各サイト上のコメントなどからも察されるように、一般ユーザーからの支持を含めれば、(チャート等での派手なアクションは観察できないにせよ)『HOSONO HOUSE』に魅せられたリスナー層にはより広い裾野が存在することも想像される。

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