特集上映『一周忌追悼特集 映画監督・小林政広』が、8月19日(土)から25日(金)まで、大阪・九条のシネ・ヌーヴォで開催される。
小林政広は、フォーク歌手、ピンク映画の脚本家を経て、40歳で映画監督デビューを果たした。同特集は、昨年8月20日に亡くなった小林を偲んで開催される。1999年から2001年まで、日本人として初めて3年連続でカンヌ国際映画祭に作品を出品した。また、2005年の『バッシング』はカンヌ国際映画祭コンペティション部門出品後、東京フィルメックス最高賞を受賞し、2007年の『愛の予感』はスイス・ロカルノ国際映画祭で最高賞の金豹賞など4部門を受賞した。
『一周忌追悼特集 映画監督・小林政広』では、『完全なる飼育 女理髪師の恋』『フリック』『白夜』『春との旅』『海辺のリア』の5作品が上映される。また、8月20日(日)には、映画監督の大力拓哉と三浦崇志によるトークショーも開催される。
<上映作品>
1『完全なる飼育 女理髪師の恋』
2003年/セディックインターナショナル/103分/35mm
<第56回ロカルノ国際映画祭特別大賞> 監督・脚本:小林政広 原作:松田美智子 撮影:高間賢治 音楽:佐久間順平 主題歌:りりィ「時 の過ぎゆくままに」
出演:北村一輝、荻野目慶子、竹中直人、佐藤二朗、林泰文、中澤寛
◆人気シリーズ第5弾をピンク映画の脚本を数多く手掛けてきた小林が監督、「完全なる飼育シリーズ」 中でも出色の作品となり、第56回ロカルノ国際映画祭特別大賞を受賞した隠れた傑作。舞台は小林作 品でおなじみの北海道のさびれた街。理髪店を営むハルミ(荻野目)は、自堕落な夫(竹中)と2人で暮らしていた。ある日、思いを寄せていたケンジ(北村)が、ハルミを拉致、監禁。戸惑うハルミだったが、ケンジの献身的な愛にしだいに惹かれていき……。
2 『フリック』
2004年/エスミー/154分/デジタル
監督・脚本:小林政広 撮影:伊藤潔 音楽:佐久間順平 照明:木村匡博
出演:香川照之、田辺誠一、大塚寧々、田中隆三、松田賢二、安藤希、占部房子、葉月螢、高田渡
◆北海道苫小牧を舞台に、不可解な事件に巻き込まれていく一人の刑事の不確かな運命を描いた異色サスペンス。最愛の妻を殺害された刑事(香川)は、酒におぼれ自暴自棄になるも、ある殺人事件の捜査 で同僚刑事(田辺)と苫小牧に行くことに…。小林自らそれまでの集大成と語る作品で、翌年の作品が 同じ苫小牧が舞台でイラク日本人人質事件をモチーフに事件後の日常を淡々と描いた『バッシング』となり、『フリック』こそ小林作品の分水嶺となった。翌年亡くなったフォークシンガー時代の師・高田渡が特別出演。
3『白夜』
2009年/「白夜」製作委員会/84分/35mm
監督・脚本:小林政広 撮影:伊藤潔 音楽:佐久間順平 照明:木村匡博 録音:吉田憲義 編集: 金子尚樹
出演:眞木大輔、吉瀬美智子
◆小林が憧れのトリュフォーに会いたいと27歳の時にフランスを旅した際に訪れた街リヨン。「映画発祥の地、ルミエール兄弟の暮らした街で映画を撮ろう」とその時思った夢を 27 年後に実現。人生の岐路に立ち、思い悩むふたりの男女が、リヨンの赤い橋の上で偶然に出会う。名前も素性も知らないふたりは、時の流れるまま惹かれあうが……。「いつか、リュミエール兄弟の映画のような、小さくても宝石のような輝きのある作品を作りたい」と願った小林がオール・リヨンロケで撮影したラブストーリー。
4 『春との旅』
2010年/「春との旅」フィルムパートナーズ/134分/35mm
監督・脚本:小林政広 撮影監督:高間賢治 音楽:佐久間順平 美術:山﨑輝 照明:上保正道
出演:仲代達矢、徳永えり、大滝秀治、菅井きん、淡島千景、田中裕子、小林薫、柄本明、香川照之、 戸田菜穂
◆4月の北海道。孫(徳永)に面倒を見られながら静かに余生を過ごす元漁師の忠男(仲代)は、人生 最後の住まいを求め、親戚縁者を訪ねる旅に出るが……。仲代が小林の脚本を読んで絶賛。その後、3本の映画を作る最初のコンビ作。日本映画を代表する俳優たちが結集。順撮りオールロケの映像は限りなく美しく、人生の転機を迎え生きることの素晴らしさと厳しさを優しさに満ちた眼差しで、ペーソスたっぷりに描いた傑作。淡島千景は仲代の姉を演じ本作が遺作となった。映画も好評で小林最大のヒット作となった。
5 『海辺のリア』2016年/「海辺のリア」製作委員会/105分/DCP 監督・脚本:小林政広 撮影:神戸千木、古屋幸一 音楽:佐久間順平 美術:鈴木隆之
出演:仲代達矢、黒木華、原田美枝子、小林薫、阿部寛
◆仲代と出会うことで、「老い」と日本の高齢化社会の問題をテーマに3本撮った小林の遺作。シェイクスピアの「リア王」を下敷きに、半世紀以上のキャリアを誇るも現在は認知症の疑いがあり、家族に見放された往年のスターの姿を描く。自らを投影したかのような役柄を仲代が名演。老人ホームに入れられた仲代が、ホームを脱走。パジャマ姿のまま辿り着いた先は海辺。そこは仲代の「無名塾」公演舞台の「能登演劇堂」近くの石川県の千里浜海岸。人生最後の舞台を海辺で繰り広げる仲代のラストシーンは、小林のラストカットとなった。