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Netflix映画『ピアノ・レッスン』解説 分断の進む時代に向き合う伝統と過去

2024.12.2

#MOVIE

過去や伝統を見つめる意義

では、1930年代のアフリカ系アメリカ人の物語である本作のどこに、我々が現代的な意義を見出せるだろうか。

バーニース(ダニエル・デッドワイラー)

もう一度、セリフのない冒頭のシーンに触れたい。映画の始まりから「GOD BLESS AMERICA」と書かれた横断幕と、マーチングバンドの演奏を楽しむサターの笑顔が映し出される。その後、ピアノを巡って人種的な迫害が起こる。映画化によって加えられたこの場面は、過去の悲惨な出来事であるとともに、2016年のドナルド・トランプ政権誕生以降、緊張を増した人種の問題をはじめ、いくつもの社会的分断や対立を思い起こさせる。

ピアノは、伝統や遺産であると共に、先祖たちの奴隷制の記憶が刻まれたものであり、姉弟にとっては親の死のきっかけになったトラウマでもある。そして、奴隷所有者の一族であるサターが死してなお取り憑いている。

このピアノを巡って、それぞれの価値観がぶつかり合う。ボーイ・ウィリーは遺産を売ろうとする拝金主義者のようにも見えるが、それによって彼は自由を得ることができると考える。バーニースにとってピアノは家族の思い出を繋ぎとめるものだが、父が殺されるきっかけでもあり、弾くことができない。

ドーカー(サミュエル・L・ジャクソン)

どんな立場の人にとっても、ピアノに刻み込まれた過去は消えない。後半、登場人物たちはピアノが象徴する過去と向き合い、幽霊を追い払おうとするのだが、重要なのは、姉弟が対立しながらも、映画としてはどちらの立場も明確に否定されていないことにある。

意見をぶつけ合いながらも、伝統や過去の過ちから学ぶこと。『ピアノ・レッスン』は、分断の深まるこの世界において、考え続けるための指針を示している。

Netflix映画『ピアノ・レッスン』独占配信中

原題:The Piano Lesson
配信:Netflix
配信開始日:2024年11月22日

監督:マルコム・ワシントン
製作:デンゼル・ワシントン、トッド・ブラック
原作:オーガスト・ウィルソン
脚本:バージル・ウィリアムズ、マルコム・ワシントン
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、サミュエル・L・ジャクソン、ダニエル・デッドワイラー、レイ・フィッシャー、コーリー・ホーキンズ、コーリー・ホーキンズ、エリカ・バドゥほか

公式サイト:https://www.netflix.com/title/81267043

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