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マルコム・ワシントン監督による外部を描いた演出
とはいえ、映画『ピアノ・レッスン』では、主な舞台となる家の外、狭い空間の外部を意識させた演出も際立っている。
特に、6分にわたって過去を描いた冒頭は、戯曲では直接描かれなった場面だ。1911年のミシシッピ。姉弟の父親(ステファン・ジェームス)らが、祖先の顔が刻まれたピアノをサターから盗み出す。しかし、父親は列車で逃げようとした際に報復として焼き殺されてしまう。花火が上がるなか外にたたずむ父親、そこにスコアを担当したアレクサンドル・デスプラの音楽が流れる。この6分にわたるシーンをセリフなしで描ききった後、場面が1936年に戻り、ウィリーたちのトラックがあぜ道を走る様子を、ロングショットで撮る。この冒頭を見た瞬間、映画である意味を強く感じることができた。

劇中には、W.C.ハンディのブルースや、ジャズピアニスト、メアリー・ルー・ウィリアムスの楽曲など、舞台の時代と比較的近い曲が使われているが、それだけでなく、離れた年代の曲も挿入歌として流れる。その中には、SAULT“Scary Times”(2020年)など現代の曲もあるが、映画にうまくマッチしている。

驚いたのは、Har-You Percussion Group“Welcome To The Party”(1968年)が聴こえてきたことだ。レアグルーヴクラシックとして知られ、DJやレコードコレクターに愛されたダンサブルなラテンジャズだが、映画では、ドーカーの家の外で、ウィリーとライモンが、人々に景気よくスイカを売る場面を彩っている。
舞台となる年代とは異なる、こうした楽曲の使用を含め、外を意識させる演出がアクセントとなり、映画ならではの魅力になっていると言えるだろう。
