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ピアノにまつわる奴隷制の記憶
『ピアノ・レッスン』の構造はとてもシンプルだ。舞台は1936年、叔父であるドーカーと姉バーニース、その娘マリーサが住む家に、南部ミシシッピから弟のボーイ・ウィリーが訪ねてくる。ウィリーは白人のサター(ジェイ・ピーターソン)が所有していた土地を買うために、家宝のピアノを売ろうとする。しかし、そのピアノには、奴隷として働いていた先祖たちの顔が彫られていた。ピアノの扱いについて姉と弟は口論になるが、突如、死んだはずのサターが幽霊として現れる。家族は、先祖の遺産であるピアノをめぐり、伝統とアイデンティティを模索していくのだ。

映画は、原作にかなり忠実に描かれており、そのほとんどが、ドーカーの家での会話によって成り立っている。ホラーテイストになる場面もあるものの、会話の内容はそれぞれの境遇と昔話、ピアノの処遇と今後について、そして幽霊についての話で占められている。
約2時間にわたる会話劇ではあるが、シンプルであっても飽きさせないのは、まず役者陣の力によるところが大きいだろう。ジョン・デヴィッド・ワシントンと同じく、ブロードウェイから役を引き継いだドーカー役のサミュエル・L・ジャクソン、ライモン役のレイ・フィッシャー、ワイニング役のマイケル・ポッツに加え、映画で新たにバーニースを演じたダニエル・デッドワイラーらの演技を、存分に堪能できる。とりわけ、ジョン・デヴィッド・ワシントンが、場を支配するようにまくし立てる口調は忘れられない。その様子を、一瞬だけ真正面から捉えたアップも印象的だった。
