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自分を「惨めな化け物」と告白する澤田空海理と、その人生を起動させた11冊

2024.2.23

澤田空海理『己己巳己』

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異性を知るための3冊――「女性が生きていく上で、僕らが想像できない恐怖があると思った」

ー次は吉本ばななさんの『キッチン』。

澤田:男女間でよく出る話ですけど、「友情と恋愛の境目って何なのか」みたいなことをずっと考えてて、それをうまく言語化してくれているのが『キッチン』だと思うんです。「誰かを大切にしたい」という想いと恋愛感情は何が違うのか、みたいなことを考えると、ただただ形が違うだけでしかないとは思いつつ、でもよくわからない。

僕はこれまでどちらかというと男寄りの世界で生きてきたので、今は過剰に女の子の思想に近づきたいと思っている部分があるから、そこの境目が余計に気になるんですね。そんなときに昔『キッチン』を読んだことを思い出して、「この本にはその側面あったな」と思って読み返したら、理解度が全く違ってびっくりしたんです。

―どう変わりましたか?

澤田:今読むと、これは確実に愛の話であるとわかるんですけど、当時はもう少し悲劇的なものだと捉えていました。喪失の話だと捉えていた。でもこれは徹頭徹尾愛の話であり、その愛がどこまで残るかみたいなことだなって。さっきのバケツの話とは矛盾するんですけど、強烈な想いひとつで人を救えてしまうこともあるというか、自分の発した言葉とか自分が向けた愛情って、「人生を変える」とまでは言わないですけど、少なくともそれを覚えていてもらってる間はその人を救う力があるっていうのは、『キッチン』からひしひしと感じますね。

ー川上弘美さんの『おめでとう』。

澤田:これは7年前に1回読んだきりで、ひさびさに引っ張り出してきたんです。“遺書”やそれまでの曲で歌い続けてきた子が一番すすめてくれた本で。当時2人とも川上弘美さんにはまって、『センセイの鞄』とか『パレード』とかを読みました。「これ澤田好きだと思うよ」って言われて読んだときに、めちゃめちゃ好きだったのは覚えてるんですけど……それ以降の記憶がなくて。

ただもう一回読むのは嫌というか、読んでしまったら確実に崩れる何かがあると思っていて。あのときの僕が読んだ『おめでとう』が『おめでとう』であって、今僕が読んだら今の頭で更新しちゃうので、もう開かないようにしています。当時はまだギリギリ自分の心が芽生えていない、自分で何がいいかを選択できてない時期ではあるので、今読んだら絶対感覚違うんだろうなっていう気持ちと、「いやそれはそれでさ」っていう気持ちと両方あって、でもこれはきっと開かないことで僕の人生に意味を与えてくれるものだなという、お焚き上げ対象ですね。

―そして、小倉千加子さんの『オンナらしさ入門(笑)』。

澤田:“遺書”の子は今思えば人より男性性に対する嫌悪があると同時に、それに反比例するぐらいの父性に対する理想があったと思っていて。でも当時の僕はそれを全く理解できないし、理解したくもないと思ってました。男性はあなたが思うほど他の人間を攻撃するようにデザインはされていないというか、それを男性性の象徴として押し出してるドラマとか創作物があるだけで、人間的な傲慢さという意味ではそんなに変わらないぞと思っていて。

―頭ごなしに否定するものでもないよ、と。

澤田:そうやって考えることを放棄していたんですけど、その子ともう会えもしなくて、話せもしない状況になった後に、考えることがいろいろあって。もともと野球で生きてきたこともあり、僕は僕で思想が男すぎるというか、ミソジニーではないし、どっちに傾倒してる気もないんですけど……でも江國さんの本を読んだりして、女性が生きていく上で避けられないもの、僕らが想像できない恐怖が絶対にあるとは思ったんです。

僕は夜道が怖いと思ったことは1回もないけど、女性はそうじゃないし、女性に「それ重いよ」って言われた荷物をヒョイッと持ち上げられたりすると、男女の力の差って想像の何倍もあるかもしれない。そんなことを思ったときに、もう少し女性の方が書いた「私が生きてきたのはこういう道だ」っていうのを読まないと、これはまずいかもと思ったんですよね。友達や彼女もそれに近いことは教えてくれるけど、「だから私はつらい」というところまでは教えてくれないから、「何が生きづらさを作ってるのか?」みたいなことはもっと知っておきたいと思ったんです。

―長く野球をやっていて、男性的な環境で育ってきた中、ある種の反動も含めて20代からは女性作家を中心とした小説や漫画に触れることで、女性性というものに対する理解を深めてきて、そこで得た知識や経験が今の澤田さんが作る創作物にも還元されている。澤田さんの楽曲は澤田さんの私小説的な側面が強いにも関わらず、女性からの支持も厚いのはきっとそこに理由がある気がするし、その奥には性差を超えた「心と心の関係性」であり「心を救う」という大きなテーマがある。ここまでいろんな作品を紹介してもらって、そんな澤田さんの人生の変遷を感じました。

澤田:綺麗にまとめていただいてありがとうございます。もともと僕は男男した環境にいたわけですけど、そこにすごく馴染めていたかと言われるとそうではなくて。なので、26歳くらいにやっと心が出来上がってきて、そのときにはちょっとした感動がありましたね。「自分で考えられるんだ」って。だから、本当はもっとこういった作品たちと早く出会いたかったです。そうしたら多分今とは全く違う生き方をしてると思うし、もっと幸せに過ごしていた未来があったんじゃないかと。たらればを言っても仕方がないですけど……どうしても想像しちゃいますね。

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