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「オポチュニティの轍」が教えてくれること

藤竹は多くを語らない。でも彼ら彼女らの人生にとって本当に大切なことを、科学を通して教えてくれる。何より印象的だったのは第3話「オポチュニティの轍」のエピソードだ。「オポチュニティの轍を孤独の象徴と捉える人もいるかもしれない。でも僕には、少しでも前に進もうって、懸命に生きた証に思えるんですよ」と藤竹が佳純に言い、佳純は改めて轍の写真を見る。轍を持つ彼女の手首にリストカットの跡が並んでいる。「遠い星にひとりぼっち」なオポチュニティの孤独に、起立性調節障害ゆえの苦しみを家族にすら理解してもらえない自身の孤独を重ね、共鳴したのだろう佳純に対し、藤竹がその軌跡を「懸命に生きた証」として肯定することは、彼女自身を丸ごと肯定していることに他ならない。さらに、科学部に加わった彼女に記録用のノートを託す。「後で振り返った時、このノートが科学部の轍になるように」と。それによって彼女はひとりではなくなるのだ。
ディスレクシアを抱え、誰にも理解してもらえない苦しみの中で負のスパイラルから抜け出せずにいた岳人は第1話で「夜に青空」を見て、佳純は第3話で「火星の夕焼けは青い」ことを知るように、2人の孤独は対になっているようにも見える。誰もが悩みや孤独を抱え、それでも「少しでも前に進もうって、懸命に生き」てきた。岳人も、佳純も、アンジェラも、長嶺も。そんな彼ら彼女らが科学部で1つになって、大きな轍を作ろうとしている。