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さらさが語る、終わりの救い。個人的な悲しみも、自然のサイクルの一部

2024.9.2

#MUSIC

シンガーソングライター、さらさの2枚目のアルバム『Golden Child』が、前作『Inner Ocean』から約1年8ヶ月ぶりにリリース。「ブルージーに生きろ」をテーマとして掲げて活動するさらさは、本作でも生身の悲しみや痛みを出発点にしながら、それを個人的な体験として留めずに、太陽や月、星、とりとめのない雲の流れや雨など、コントロールの効かない大きな自然のうねりやサイクルに接続するような感覚を歌う。一方で、本作においていっそう振り幅を広げたサウンドや、自身が手がけているアートワークは、都会的な乾いたポップさも漂わせる。それらのニュアンスが混じり合い、『Golden Child』はつくり上げられている。

ファッションやアートなどを、広く現代的な感受性を持ってまなざし、ステージ装飾やグッズに至るまで、「さらさ」としての表現の隅々まで目を行き届かせるプロデューサー的な視点と、神秘的なものや超越的なものを鋭敏に感じ取るセンサーを併せ持つ彼女の価値観は、どのように形成されたのだろうか。なかなか曲がつくれなかったという時期を経て制作された本作について、話を聞いた。

1stアルバム『Inner Ocean』から曲づくりのマインドセットが変わった

─2作目のアルバムですが、つくってみていかがでしたか?

さらさ:まったく勝手がわからなかった1stアルバム『Inner Ocean』のときよりは、いい意味でプレッシャーを持ちながらできました。とはいえまだ2作目なので、模索した部分も大きかったですね。

─特にどんなところで模索しましたか?

さらさ:私にとって音楽は自然に近くて、自分の中から湧き出るものを一つひとつ掴んでいくような感覚なんです。だから、自分にはコントロールできない宇宙の流れみたいなもので曲ができないときがあって。お仕事だから曲はつくり続けなきゃいけないので、そのバランスをとることや感覚を掴むことに精一杯でした。 

さらさ
湘南出身のシンガーソングライター。音楽活動にだけに留まらず美術作家、アパレルブランドのバイヤー、フォトグラファー、フラダンサーとマルチに、そして自由に活動の場を広げている。悲しみや落ち込みから生まれた音楽のジャンル”ブルース”に影響を受けた自身の造語『ブルージーに生きろ』をテーマに、ネガティブな感情や物事を作品へと昇華する。

─前作のアルバム『Inner Ocean』のリリースが2022年の年末でしたね。

さらさ:その頃とは、曲づくりに対する気持ちがすごく変わってきました。もともとは歌うことが大好きで、ライブでステージに立っている自分をみんなに見てほしいという気持ちが強くて。カバーだと見てもらえないから、曲をつくろうというところから始まってるので、曲づくりは全然好きじゃなかったんです。

─歌いたいという気持ちが先だったんですね。

さらさ:だからステージに立つためには、曲づくりを好きにならなきゃっていう強迫観念があったんですけど、それだと続かないとも感じていて。でも2024年に入って突然ふと、すごく調子が良くなって。どうやら去年までが天中殺だったみたいです(笑)。2023年は全然曲をつくれていないんですけど、それも必要な時間だったのかなと。今年は曲をつくるのも楽しくなったし、いい曲をつくりたいって、純粋に思うようになりました。なので、今回は曲づくりに対するマインドが変わってからできた1作目ですね。

1990年代後半のR&Bの要素がある日本のポップシーンが好き

─収録された楽曲はどんな順番でできあがっていったんですか?

さらさ:去年の10月に“f e e l  d o w n”をリリースしているけれど、アルバムをつくることになってから最初にできた曲は“祝福”ですね。周りのスタッフも気に入ってくれて、この曲を形にしていったら、次のステップが見えるかもしれないと思えました。

─アルバムの核になっているような曲なんですね。

さらさ:これまでほとんどの曲をw.a.uのKota Matsukawaとつくってきたんですけど、今回のアルバムでは、今までのようなR&Bの要素がある曲に、プラスで挑戦してみたいことがあって、“祝福”ではかねてからチェックしていた西田修大さんにアレンジャーとしてお声がけさせていただきました。もともとは曲ごとに他の方とも一緒に作っていくつもりだったけど、西田さんと初めて会ったときにすごく盛り上がったんです。「出会ったな」と思っていたら、ディレクターも「全部西田くんでいいんじゃない」って。そこからスタートしているので、そういう意味でも、アルバムの核になっていると思います。

─今回挑戦してみたかったのは、どういう部分だったんですか?

さらさ:いいポップスを作りたいってことです。結局今までに近いテイストの曲も多くなったんですけど、そこが大きな違いでしたね。

─そう思ったのはどうしてでしょう?

さらさ:UAさんとかCHARAさんとかBONNIE PINKさんとか、1990年代後半のR&Bの要素がある日本のポップシーンがめちゃくちゃ好きで。楽曲のクリエイティブがすごく光っていたと思うんです。時代が持っていた特別な勢いやパワーなのかもしれないですけど、その感じを令和に再現できないかなと、今年の初めぐらいから強く思っていました。

─その時代のポップスはもともと聴いていたんですか?

さらさ:母親がUAさんやCHARAさんを聴いていて。ミュージシャンになってから、さらに憧れるようになりました。私は音楽も好きだけど、美術やファッションも好きだから、音楽だけじゃなく、カルチャーとして捉えてもらいたいという思いが初期からあるんです。キャッチーなのに尖ってる部分があって、クリエイティブも各々のキャラが確立しているし、スタイルにもちゃんと個性があるところが、私にはシンガーソングライターとして理想的です。

─取材場所に来て早々に、今日ヘアメイクとスタイリングを担当したお二人を、さらささんから紹介されましたけど、取材のときにアーティストの方からスタッフの方を紹介されたのって、少なくとも私は初めてで。

さらさ:え⁉︎ みんなそうじゃないんだ!

─それもあってクリエイティブ全般に目を配りたい人なんだなと思っていたんですけど、今のお話を聞いてやっぱりそうなんだなあと。アートワークやステージの装飾も自身で手がけていたり、グッズも素材にまでこだわりを持っていますよね。

さらさ:やっぱり自分がいいなと思う人にお願いしたいし、自分で選ばないと責任を取れないと思っていて。グッズに関しては、自分も買い物するとき、芯がある人にお金を払いたいから、そういうところでも信頼できると感じてもらえたらと思うんです。そもそも素材や装飾について考えるのが楽しいからやっているんですけどね。

落ち込んだときに聴いてもらえたら、幸せ

─楽曲の話に戻ると、“祝福”はどういうきっかけでできた曲なんですか?

さらさ:去年一昨年と、身内や愛犬が亡くなったり、恋人と別れたりすることが続いたんです。もちろん悲しみは感じるけど、生きるってそういうことだし、悲しみの中でも幸福を感じたり、神秘的な色の空を見ると、いつもより感動して意味を感じちゃって、それを見逃したくないと思ったりするような感覚がテーマでした。

自分のワンマンライブのときに雨が降ると、来てくださった人に対して「祝福の雨ですね」ってよく言うんです。なので「祝福」って私には身近な言葉で、日常的な別れや誰かの死をその言葉に紐づけることは、自分にとってすごくしっくりきます。

─人生の中でのさまざまな別れの感覚が含まれているんですね。

さらさ:<私たちの死をここで許して>という歌詞を書きましたけど、恋人との別れって、目の前からいなくなるという意味で小さな死みたいなものだし、身近な人が亡くなると、なんでこんなに辛いのかなって不思議なんですけど、それでいいんだと思います。人生にいつか終わりが来ると思うと、私は救われるんです。いくら失敗しても、悲しいことがあっても、絶対に終わると思えば大丈夫だなって気負わずにいられます。

─この曲は、一曲の中で「僕」「私」「私たち」と主語が移り変わりますよね。さらささんの歌は全体にエゴみたいなものの存在が色濃くないと感じるのですが、ご自身の中で、歌において「私」の存在って、どういう位置づけですか。

さらさ:自分を救って、許して、受容してくれる、もう1人の自分や大きな存在のような感覚で曲を書いていることが多くて。本当に本当の「自分」の視点で曲を書くことは少ないですね。そういう意味では、主語や視点は多面的なのかもしれないです。

─悲しみや痛みって、乗り越えたり、忘れたり、なくした方がいいものと捉えられることが多いと思うんですけど、「ブルージーに生きろ」という言葉を掲げているように、さらささんの歌は悲しみや痛みを、ただそこにあるものとして認めようとする感覚があると感じるのですが、どのように培われたのですか?

さらさ:振り返ると、苦しくて先が見えなかった時期に手を差し伸べてくれる人がいて人生が変わったし、辛いときに考えていたことが、今の自分の思想を作ってくれていると感じて。ハワイの先住民族や、太極図のように、ネガティブとポジティブ、両方同じだけの質量があるから、バランスが取れているという考え方にも共感します。

さらさ:ネガティブなことを忘れたり考えないようにした方がいいと言う人の方が、ネガティブなことを重大に捉えすぎている可能性があるかもしれないですよね。誰にでも普通にあるものだから、そんなに気負わなくてもいいと曲の中で感じてもらえたらと思うし、自分でも忘れないように曲にしているところがあります。

─“予感”の中に、<この道は続く 誰にでも起こる>という歌詞がありますけど、このアルバムを通して聴いていて、「今私が特別に傷ついている」ことについてではなくて、「みんな当たり前に傷ついてる」ことが前提になっていると感じました。

さらさ:うん、みんな傷ついていますよね。私の曲は元気なときには、思い出してもらわなくてもよくて、落ち込んだ時に聴いてもらえたら、幸せだなと思います。

自分の経験から、真理を模索するのが好き

─“雲が笑う時”では、<深く傷つけられて、嘆く歌に溢れてるけど、傷つけてしまった。 繰り返し立ち尽くす歌がない>と、逆に傷つけてしまったときの状態についても歌っていますね。

さらさ:自分が誰かを傷つけたり、間違えたことの方が深く残るけど、それを慰めてくれる歌ってあんまりないなと思って。歌詞については、メロディの持っている音を崩さないことを第一に考えてきたんです。でも、今回のアルバムでは“雲が笑う時”も含め、それを崩してみようと思って、ちょっと違和感のある言葉をはめたりしていて。

─どうして崩してみようと思ったんですか?

さらさ:“BADモード”で宇多田ヒカルさんを好きになったんですけど、宇多田さんの曲って、ちょっと違和感のある節回しがちゃんと一文になっていることがあって。それが癖になるし、そういう書き方もあるんだって、影響を受けました。

─今回どうしても入れたい曲があって、リリースが延期になったそうですが、それはどの曲ですか?

さらさ:“リズム”です。制作の初期からサビだけデモがあって、どうしてもうまくまとまらなかった曲なんですけど、西田さんがアレンジをあげてくれたらすごく良くて。気負いすぎてたのか、その後メロディと歌詞が全然出てこなくて、やっぱりなしで行こうと思ったんですけど、ディレクターが「『Golden Child』にはこの曲を入れないとだめだから発売を伸ばそう」って。そう言ってくれる人がいるってありがたいなと思いました。

─そもそも『Golden Child』というタイトルはどういう意味合いで付けられたんでしょう? 言葉としては「特別とされている子ども」というような意味ですよね。

さらさ:もともと私には馴染みがある言葉で。母が私を妊娠する前に、占い師みたいな人に見てもらったときに、母の前世の悲しみを救うために、ゴールデンチャイルドの女の子が産まれると言われたらしいんです。

─すごいエピソードですね。

さらさ:子どもの頃から家ではちょっとネタっぽく、「あんたはゴールデンチャイルドだから大丈夫だよ」みたいな話をよくされていて(笑)。それを心から信じているわけではないけど、前作の『Inner Ocean』がすごく気に入っているタイトルだったから、それぐらいキャッチーで、自分と結びつきが強い言葉を考えたときに思い浮かんだ言葉でした。今回のアルバムの曲たちが、自分にとっての「自慢の子」みたいな意味もあるし、母が言われたように、この曲たちが自分のことを救ってくれる日が来るかもしれないと思ってつけたタイトルですね。

─出発点としては個人の経験や感じたことがあるのかもしれないですけど、そこから何か大きなものに接続していくような感触があるアルバムだと思っていて。自分でコントロールできない流れの中で音楽をつくっているという話もありましたけど、そういう感覚は音楽をつくる前から持っているものだったんですか。

さらさ:多分昔からあったけど、より強くなっている感じはします。おっしゃったように、自分の経験から、大きな意味や本質的なこと、真理に近いと思えるようなことを模索していくのが好きなので、だからその両方の要素が曲に入っているのかなと思います。

─自然のモチーフが歌によく登場しますが、自然も人間にコントロールできない大きなものですよね。

さらさ:東京に住んでいると忘れがちですけど、やっぱり自然には敵わないじゃないですか。なので、なるべく自分の中に自然を感じていたいなと思っています。母親がフラダンスの先生なので、子どもの頃からフラダンスをやっていたんですけど、もともとフラダンスって森羅万象の神に捧げるもので。地元が海に近いし、生理が昔は「月のもの」と言われていたように、毎月生理が来ることとかも含め、当たり前に自然を感じるような機会に触れてきたんだと思います。

ここにある今を見つめることを、忘れないように曲にする

─一方でサウンドやアートワークなど、オーガニックな質感だけではない、ポップさを持ったバランス感でつくられている面もありますよね。

さらさ:子どもの頃から周りにスピリチュアルなものが好きな人が多くて、あまりそっちの方にいきすぎると、バランスが崩れるという意識はあるかもしれないですね。一つのことに陶酔するのがあんまり好きじゃないんです。それに固定観念みたいなものでジャッジされたくない気持ちも強くて。たとえば、湘南で生まれ育ってるんですけど、あんまり湘南っぽく見られたくなくて。

─湘南っぽく?

さらさ:日焼けしてて、前髪かきあげてて、いつもビーサンみたいな、ステレオタイプな湘南のイメージです(笑)。だから最初は出身地を言わないつもりでしたし、もともとは顔も出さずに活動しようとしていて。特に女の人って顔を出すと見た目の話をされることが多い感じがするし、最初の宣材写真も、手やシルエットだけにしようとしていたんです。でも、撮ってくれたのが仲のいい友達だったから、撮影中に私が白目を向いて変顔をして。その写真がすごく良かったので、最初にDIYでつくった『ネイルの島』のジャケに使って、結局顔出しすることにしたんですけどね。

オレンジ, 食品 が含まれている画像

自動的に生成された説明
さらさ「ネイルの島」ジャケット

─今の社会には、とにかく早いスピードで物事を推し進めることや、成長することが命題として求められるような空気があるように思っていて。デビュー曲の“ネイルの島”にも<何者にもならなくていいと知った><変わらなくていい>という歌詞があるけれど、今回のアルバムも、「ここにある今」を、いいも悪いも含め、ただそこにあるものとして立ち止まって見つめるような感覚があると思ったのですが、さらささん自身はどんなことを感じていますか。

さらさ:デビューシングルを出したのがコロナ禍で、メンタル的に結構不安定だったんです。自分には音楽しかないと思っていたら、何か事情があって音楽ができなくなったときに簡単に絶望しちゃいそうで、すごく怖くなって。何かを成し遂げようとしたり、遠くを見るんじゃなくて、散歩してかわいい花を見つけられるような余裕を持って、目の前のことや今を生きることにフォーカスしないと、人として良くないと感じるようになりました。

もともとはそういうタイプじゃなくて、とにかく遠くを追い求めるタイプだったんです。忙しかったり落ち込んでたり、追い込まれてると多面的な視点を持てなくなるから、心の余裕があるときに、曲の中に自分がそのとき真理だと思えたことを書いています。

─さっきも「忘れないように曲にしている」という話がありましたけど、後々の自分のために曲を書いているようなところがあるんですね。

さらさ:あんまりメンタルが強い方じゃないし、そんなに自分を信じていないから、今後きっと自分の意思に関係なく揺らぐこともあると思うんです。だから自分で自分を救ってあげようとしているんだと思います。

さらさ『Golden Child』

1.予感
2.雲が笑う時
3.Roulette ※配信済み
4.Viburnum
5.リズム
6.f e e l d o w n ※配信済み
7.遠くまで
8.祝福 ※配信済み
9.船

■9/4 (水) リリース
■ レーベル:ASTERI ENTERTAINMENT
■ 形態:CD、ストリーミング&ダウンロード
■ URL:asteri.lnk.to/salasa_GoldenChild
■ 品番 / バーコード / 価格 / ASTL-1004 / 4580246162039 / 3,000円 (+税)
■ 流通 : 株式会社ウルトラ・ヴァイヴ

さらさ「Golden Child Tour 2024」

◼︎2024年9月4日(水)at 名古屋・ell.FITS ALL
◼︎2024年9月5日(木)at 大阪・梅田Shangri-La
◼︎2024年9月10日(火)at 東京・恵比寿LIQUIDROOM

<全公演共通>
時間:OPEN 18:00 / START 19:00
出演:さらさ(Band Set)
料金:¥ 4,800+1 Drink
主催 / 制作:SMASH
一般発売日: 7月10日(水)10:00〜
一般発売URL:eplus.jp/salasa/

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