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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

坂本龍一の「遺伝子」を実感した多様な熱演。トリビュートフェスをレポート

2025.2.19

#MUSIC

Photo by アンザイミキ
Photo by アンザイミキ

坂本龍一の「精神」を受け継ぐアーティストたちによる一夜限りのトリビュートフェス『RADIO SAKAMOTO Uday -NEW CONTEXT FES × DIG SHIBUYA-』(以下、『Uday』)が2月10日、東京・渋谷のSpotify O-EAST、duo MUSIC EXCHANGE、東間屋の3会場で開催された。

『Uday』は、テクノロジーとアートを掛け合わせ、渋谷公園通りと周辺エリア他にて最新カルチャーを体験する4日間のイベント『DIG SHIBUYA 2025』(2月8日〜2月11日)のオフィシャルプログラムとして行われたもの。『RADIO SAKAMOTO』は2003年から2023年まで、坂本龍一がナビゲーターを務め2か月に1回放送されていたJ-WAVEのラジオ番組で、2024年は特別番組『J-WAVE SELECTION RADIO SAKAMOTO extension “長電話”』(以下、『長電話』)と題し、坂本龍一と縁の深いアーティストやクリエイターらが出演していた。

この日の出演は、TOWA TEIやCornelius、U-zhaan × 環ROY × 鎮座DOPENESS、真鍋大度 + 岡村靖幸ら坂本と直接交流があったアーティストのほか、坂本が注目していた韓国のバンドSE SO SEON(セソニョン)や、坂本を「もっとも影響を受けたアーティスト」と公言する原口沙輔、さらには『長電話』への出演経験があるDos Monosなど、実に多岐にわたるジャンルの最前線で活躍するメンツが集まった。

なにせ15組以上のアクトが集まるサーキットイベント。各ステージの持ち時間は40分前後の、ある意味ショーケース的な内容である。全てのアーティストを隈なく見るのはまず不可能で、終始タイムテーブルと睨めっこしながら3会場をどう巡るか考えていた。

タイムテーブル

北村蕗からU-zhaan × 環ROY × 鎮座DOPENESSへ

まずはO-EASTで、DJ STYLISHこと鎮座DOPENESSのDJを聴いてから北村蕗のステージを見ようとduoへ移動したのだが、入場に手間取ってしまい、楽しみにしていた“Undercooled”のカバーを聴き逃す不測の事態に。大いに悔やまれたが、気を取り直し初めて目にした北村のパフォーマンスは噂に違わぬ内容だった。骨太のビートに心地よくバウンスする電子音、たゆたうような彼女のボーカルが、三位一体となって細胞に染みわたる。綿密に練り上げられたトラックと、即興で演奏されるジャジーなピアノのコントラストも心をざわざわとかき立てた。

北村蕗 Photo by Daisuke Miyashita

後ろ髪を引かれる思いで中座し、再びO-EASTへ戻ってU-zhaan × 環ROY × 鎮座DOPENESS。ピッチを変えた複数のタブラ(右手で叩く、主に高音を担う木製の太鼓)でフレーズを奏で、それをループマシンでリフレインさせながらバヤ(左手で叩く、低音を担う金属製の太鼓)でビートを構築していくU-zhaanのプレイに、環ROYと鎮座DOPENESSがフリースタイルのラップを乗せる。

U-zhaan Photo by アンザイミキ

環ROY Photo by アンザイミキ

鎮座DOPENESS Photo by アンザイミキ

お互いの発する音や言葉に驚き、ときに笑いながらその場で「作曲」している3人の様子は、ユーモラスでありながらスリリング。まるで普段から交わしている何気ない会話が、そのまま楽曲になっていくかのようだった。

U-zhaan × 環ROY × 鎮座DOPENESS Photo by アンザイミキ

Dos Monosが坂本から受け継いだ「『未来派野郎』と共鳴する」サウンドスケープ

すでに始まっているDos Monosのステージを見るため、これまた途中でduoへと移動。U-zhaan × 環ROY × 鎮座DOPENESSとは対照的な、荘子it、TaiTan、没 aka NGSによるラディカルでエモーショナルなラップバトルが繰り広げられていた。

荘子it Photo by Daisuke Miyashita
TaiTan Photo by Daisuke Miyashita
没 aka NGS Photo by Daisuke Miyashita

『Uday』の公式サイトに「『YMOがサンプリングした音』をサンプリングしたビートを流します」とのコメントを寄せていたDos Monosだが、それを意識的に聴き取ろうとする余裕もないほど高密度なトラックと、ピッチシフターを駆使したノイジーなラップが鼓膜に食い込んでくる。後半は荘子itがエレキギターを手にし、ロックと電子音楽、そして前衛芸術を融合した、まさに彼らいわく「『未来派野郎』と共鳴する」サウンドスケープを展開していた。(※)

※『Uday』の公式サイトに事前にDos Monosが寄せたコメントで、「坂本さんから受け継ぎたいものは?」との質問に「『未来派野郎』。電子音楽とロックと前衛芸術が、享楽的に重なり合ったこの作品が、僕の思い描くヒップホップの原風景と未来像とも共鳴するように感じています。」と答えていた。

Dos Monos Photo by Daisuke Miyashita

TOWA TEIは坂本へのトリビュート全開のセットリスト

O-EASTへ戻ると、すでにTOWA TEIがDJを始めていた。

TOWA TEI Photo by アンザイミキ

10代の頃のテイが坂本龍一のFMラジオ番組『サウンドストリート』へデモテープを投稿し、それがきっかけとなって2人の交流が始まったのは有名なエピソードだが、この日のテイはワインを飲み干しながら(DJセットの後ろにワインクーラーを用意していたのを見逃さなかった)、“Field Work”から“Thousand Knives”のギター&シンセソロのマッシュアップを経て“GT”へ、さらにリリース前の“Behind The Mask”ライブバージョンをスピンするなど、坂本へのトリビュート全開のセットリストにフロアからは歓喜の声が飛び交う。最後は忌野清志郎+坂本龍一の“い・け・な・い ルージュマジック”で締めくくった。<君がいなけりゃ 夜は暗い 春の日差しの中も とてもCry>と歌うキヨシローの声に、思わずしんみりしてしまった。

SE SO NEONは過去ライブのリベンジ

続くSE SO NEONは、韓国出身のスリーピースバンド。僕が彼らのライブを見るのは去年の『BiKN shibuya 2023』に続き2度目だ。タイトかつパワフルなカントのドラムの上で、ルート音を回避しながら広がりを出すパク・ヒョンジンのベース、シンプルだがヒネリの効いたコード進行に、ジェーン・バーキンをパンキッシュにしたようなファン・ソユンのハスキーな歌声が重なる。例えば“Go Back”のような、中期ビートルズにも通じるサイケデリックな楽曲はBlonde Redheadをも彷彿とさせ、そういえば(Blonde Redheadの)カズ・マキノも、「教授は何かと私を気にかけてくれていた」とインタビューで話してくれたな……と不意に思い出した。

SE SO NEON Photo by アンザイミキ
SE SO NEON Photo by アンザイミキ

「実は、坂本さんが初めて観に来てくれたライブは私たちにとって最悪の内容で……」と苦笑するファン・ソユン。「本当に恥ずかしかったんですけど、今日は坂本さんの前でもう一度演奏できる機会だと思ってやって来ました」と告げると、オーディエンスの温かい拍手と歓声が響きわたった。「今制作中のアルバムは、坂本さんから学んだことを詰め込んだ内容なので、ここにいる方たちには是非とも心に留めておいてほしいです」と続けて近況を述べ、新作への期待を煽った。

SE SO NEON Photo by アンザイミキ

真鍋大度 + 岡村靖幸から原口沙輔へ

一方、duoでは岡村靖幸と真鍋大度によるB2Bが行われており、そのパフォーマンスを一目観ようと会場は超満員。

真鍋大度 + 岡村靖幸 Photo by Daisuke Miyashita

「今回、事務所のご協力をいただいて、坂本さんのオリジナル音源やプロツールスのセッションを使わせていただき、何曲かリミックスを作らせていただきました」と真鍋が公式サイトでコメントしていたように、ライゾマティクスによる先鋭的な映像とシンクロするようなインダストリアルなビートに乗せ、“Asience”や“Rain”などの旋律が流れるたびフロアからは大きな歓声が上がっていた。

真鍋大度 + 岡村靖幸 Photo by Daisuke Miyashita

再びO-EASTへ。サブステージではちょうど原口沙輔も“Rain”を素材にして、真鍋大度 + 岡村靖幸のそれとはまた違うカラフルな電子音が飛び交うテクノビートを放っていた。

原口沙輔Photo by アンザイミキ
原口沙輔Photo by アンザイミキ

さらに“オネアミスの翼〜Main Theme”や“Riot in Lagos”のカバーを披露した後、ゲストボーカルに長瀬有花を迎え、“子猫物語”や“愛してる愛してない”など坂本の隠れた名曲、そして“Ballet Mécanique”をカバー。長瀬はそのイノセントな歌声で、坂本が遺した優しくて温かみのあるメロディを丁寧に歌い紡いだ。

左から長瀬有花、原口沙輔 Photo by アンザイミキ

トリはCorneliusが坂本への深い敬意でステージに立つ

そしてO-EASTのメインステージには、いよいよトリのCorneliusが登場だ。あらきゆうこ(Dr)、大野由美子(Ba)、堀江博久(Key / Gt)とともに登場した小山田圭吾(Vo / Gt)は、ここ最近では珍しくサングラスを外して素顔を見せている。シンプルな衣装が照明の影響も相まって喪服のよう。その佇まいからは、坂本への深い敬意が滲んでいるようだった。

Cornelius Photo by アンザイミキ

ステージ背後のスクリーンに映し出す映像と完璧にシンクロさせたバンドアンサンブルはいつも通りだが、“Another View Point”ではありし日の坂本龍一の映像を次々と映し出す。それを見ながら彼がいかに多様な側面を持ち、それを惜しげもなく私たちに見せてくれていたのかを改めて実感し、気づけば涙が止まらなくなっていた。

Cornelius Photo by アンザイミキ

そして、ついにCorneliusは“Thatness And Thereness”をライブで(おそらく)初披露する。坂本龍一のトリビュートアルバム『A Tribute to Ryuichi Sakamoto』に提供し、自身の最新作『Ethereal Essence』にも収録したこの楽曲が、今この場で初めて鳴らされたことに意味を考えずにいられない。シンセの浮遊する音色とミニマルなリズムが会場に響き渡り、小山田の心のこもった歌に再び胸が熱くなる。

Cornelius Photo by アンザイミキ

その前後にはSKETCH SHOWの“Turn Turn”、YMOの“Cue”、そして“環境と心理”を演奏。小山田が長年関わってきた音楽の系譜が、ここでひとつにつながる。“環境と心理”は、高橋幸宏も所属していたMETAFIVEのセルフカバーでもあり、坂本と共に時代を創ってきた彼へのトリビュートとしても響く選曲だった。

Cornelius Photo by アンザイミキ

Corneliusのステージが残した余韻を抱えたままduoへ向かう。そこでは、どんぐりずと大沢伸一(MONDO GROSSO)による新ユニットDONGROSSOが、全く異なるテンションで観客を熱狂させていた。

DONGROSSO Photo by Daisuke Miyashita

こうして幕を閉じた『RADIO SAKAMOTO Uday -NEW CONTEXT FES × DIG SHIBUYA-』。坂本龍一という偉大な音楽家の「遺伝子」が、世代やジャンルを超え受け継がれていることを改めて実感する夜だった。

Cornelius Photo by アンザイミキ

『RADIO SAKAMOTO Uday -NEW CONTEXT FES × DIG SHIBUYA-』

開催日時:2025年2月10日(月) 18:00 OPEN/22:00 CLOSE(予定)
会場: Spotify O-EAST/東間屋/DUO MUSIC EXCHANGE
チケット料金:8,800円(税込)※ドリンク代別
協賛:株式会社デジタルガレージ

<出演>
Balming Tiger
真鍋大度 + 岡村靖幸(DJ SET)
U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS
Cornelius
TOWA TEI
DONGROSSO
SE SO NEON
砂原良徳
Dos Monos
原口沙輔
北村蕗
Mars89
Chloé Juliette
没 a.k.a. NGS
TOYOMU
NOTYPE 9
美羽

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