坂本龍一の「精神」を受け継ぐアーティストたちによる一夜限りのトリビュートフェス『RADIO SAKAMOTO Uday -NEW CONTEXT FES × DIG SHIBUYA-』(以下、『Uday』)が2月10日、東京・渋谷のSpotify O-EAST、duo MUSIC EXCHANGE、東間屋の3会場で開催された。
『Uday』は、テクノロジーとアートを掛け合わせ、渋谷公園通りと周辺エリア他にて最新カルチャーを体験する4日間のイベント『DIG SHIBUYA 2025』(2月8日〜2月11日)のオフィシャルプログラムとして行われたもの。『RADIO SAKAMOTO』は2003年から2023年まで、坂本龍一がナビゲーターを務め2か月に1回放送されていたJ-WAVEのラジオ番組で、2024年は特別番組『J-WAVE SELECTION RADIO SAKAMOTO extension “長電話”』(以下、『長電話』)と題し、坂本龍一と縁の深いアーティストやクリエイターらが出演していた。
この日の出演は、TOWA TEIやCornelius、U-zhaan × 環ROY × 鎮座DOPENESS、真鍋大度 + 岡村靖幸ら坂本と直接交流があったアーティストのほか、坂本が注目していた韓国のバンドSE SO SEON(セソニョン)や、坂本を「もっとも影響を受けたアーティスト」と公言する原口沙輔、さらには『長電話』への出演経験があるDos Monosなど、実に多岐にわたるジャンルの最前線で活躍するメンツが集まった。
なにせ15組以上のアクトが集まるサーキットイベント。各ステージの持ち時間は40分前後の、ある意味ショーケース的な内容である。全てのアーティストを隈なく見るのはまず不可能で、終始タイムテーブルと睨めっこしながら3会場をどう巡るか考えていた。
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北村蕗からU-zhaan × 環ROY × 鎮座DOPENESSへ
まずはO-EASTで、DJ STYLISHこと鎮座DOPENESSのDJを聴いてから北村蕗のステージを見ようとduoへ移動したのだが、入場に手間取ってしまい、楽しみにしていた“Undercooled”のカバーを聴き逃す不測の事態に。大いに悔やまれたが、気を取り直し初めて目にした北村のパフォーマンスは噂に違わぬ内容だった。骨太のビートに心地よくバウンスする電子音、たゆたうような彼女のボーカルが、三位一体となって細胞に染みわたる。綿密に練り上げられたトラックと、即興で演奏されるジャジーなピアノのコントラストも心をざわざわとかき立てた。

後ろ髪を引かれる思いで中座し、再びO-EASTへ戻ってU-zhaan × 環ROY × 鎮座DOPENESS。ピッチを変えた複数のタブラ(右手で叩く、主に高音を担う木製の太鼓)でフレーズを奏で、それをループマシンでリフレインさせながらバヤ(左手で叩く、低音を担う金属製の太鼓)でビートを構築していくU-zhaanのプレイに、環ROYと鎮座DOPENESSがフリースタイルのラップを乗せる。



お互いの発する音や言葉に驚き、ときに笑いながらその場で「作曲」している3人の様子は、ユーモラスでありながらスリリング。まるで普段から交わしている何気ない会話が、そのまま楽曲になっていくかのようだった。

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Dos Monosが坂本から受け継いだ「『未来派野郎』と共鳴する」サウンドスケープ
すでに始まっているDos Monosのステージを見るため、これまた途中でduoへと移動。U-zhaan × 環ROY × 鎮座DOPENESSとは対照的な、荘子it、TaiTan、没 aka NGSによるラディカルでエモーショナルなラップバトルが繰り広げられていた。



『Uday』の公式サイトに「『YMOがサンプリングした音』をサンプリングしたビートを流します」とのコメントを寄せていたDos Monosだが、それを意識的に聴き取ろうとする余裕もないほど高密度なトラックと、ピッチシフターを駆使したノイジーなラップが鼓膜に食い込んでくる。後半は荘子itがエレキギターを手にし、ロックと電子音楽、そして前衛芸術を融合した、まさに彼らいわく「『未来派野郎』と共鳴する」サウンドスケープを展開していた。(※)
※『Uday』の公式サイトに事前にDos Monosが寄せたコメントで、「坂本さんから受け継ぎたいものは?」との質問に「『未来派野郎』。電子音楽とロックと前衛芸術が、享楽的に重なり合ったこの作品が、僕の思い描くヒップホップの原風景と未来像とも共鳴するように感じています。」と答えていた。
