今年もまたやってきた夏本番の暑さからの逃げ場はなく、汗対策のはずのタンクトップは最寄り駅に着くころにはもはや役立たず。電車の中吊り広告からこちらを見つめる売り出し中の若手イケメン俳優の清涼感には到底及ばず、いっそのこと頭から水を被ってどうでもよくなりたいとさえ思う。
8月2日(金)から4日(日)に開催される『S2O JAPAN』は、タイの『ソンクラーン』と呼ばれる水掛け祭りに由来する、「世界で最もずぶ濡れになる音楽フェス」。EDMを基調とした音楽で踊りながら、1日あたり100万ℓ放水される水を浴びて「ずぶ濡れになる」正当性が与えられているフェスだ。
5年ぶりの開催となる今回は、初日にCreepy Nutsのスペシャル初野外ワンマンが開催されるほか、前回も出演したKSHMRとYellow Clawなどの豪華DJ陣もカムバック。久しぶりのオーディエンスはもちろん、初めてのオーディエンスも受け入れる。
一見、「ずぶ濡れ」にどこまでもストイックなフェスの内実は、タイと日本の関係性向上と日本のアーティストの海外発信、さらには全年齢に開かれた場所作りを目指す意欲的なものだった。5年ぶりの開催を前に『ウォーターラン』などのイベントを手がけ、『S2O』を日本に持ち込んだKIUCHIに話を聞いた。
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タイのお祭りが由来。大人も童心に帰れる水遊びフェス
―2015年にタイで初開催された『S2O』とは、どんなフェスなのでしょうか?
KIUCHI:『S2O』は、タイで毎年4月に行われる『ソンクラーン』という水掛け祭りと音楽をコラボレーションさせた「世界で最もずぶ濡れになる音楽フェス」と称されるダンスミュージックフェスティバルです。『ソンクラーン』はタイの代表的なお祭りで、新年を祝い、目上の人の手や仏像 / 仏塔に水を掛けてお清めをするものでした。タイの最も暑い季節に行われることから「水掛け」が現地の若者を中心にお祭りへ発展し、今ではアジア最大級の動員を誇る世界的なフェスティバルとなっています。
―KIUCHIさんが初めて『S2O』に参加したときのことは覚えていますか?
KIUCHI:『S2O』が開催された2年目から参加していますが、童心に帰ったような気持ちになりました。友達と遊園地のプールに行った日のことや、海で家族と過ごした時間。子どものように「本気で遊ぶ」不思議な感覚に魅力を感じたことを覚えています。
―その後、『S2O JAPAN』が開催されるまでにどういった経緯があったのですか?
KIUCHI:10年ほど前、日本でティーン向けのマラソン拡張型イベント『カラーラン』や『カラーミーラッド』が流行った時、知り合いの企業が『ウォーターラン』をやることになったんです。それが『S2O JAPAN』の前身的なイベントなのですが、その企業がエンタメ音楽に明るい人を探していて。そこで、音楽の会社をずっとやってる自分が総合演出とキャスティングで参加することになりました。『ウォーターラン』は『ソンクラーン』をコンセプトにしていたものの、ウェブ上の映像や知識を参考にしているだけだったので「実際に行ってみよう」と調べているうちに、『S2O』にも辿り着きました。
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日本で前例のないフェスを一から作り上げた経験
―『S2O JAPAN』以前にも、既に水を使ったイベントを開催されていたんですね。
KIUCHI:『S2O』は特殊なイベントで、通常の「特効」と言われる炎や水の演出の範囲でできる内容ではないんです。なので、日本で『S2O』を開催できるのは『ウォーターラン』の知見を持っている自分たちしかいないのでは、と思いました。日本の『ウォーターラン』が2年目を迎えた頃、知り合いのDJでタイに移住した人がいたので、『ウォーターラン』の企画書を翻訳してもらって本国の『S2O』の主催者にDMで送ったのが最初のアクションでした。
―日本で実現するにあたり、ハードルとなったのはどんな部分でしょうか。
KIUCHI:イベント作りの経験はあるものの、『S2O』ほどの規模のイベントを開催する知見は全く持ち合わせていなかったので、毎日壁にぶち当たっていたように思います。当たり前ですが、準備期間は収益が0円なんですよね(笑)。でも、やらないと一銭にもならないので、とにかく試行錯誤しながら前に進める努力をしてました。
後からわかったことなのですが、中小企業が一から企画を作ってライセンスを取ること自体が珍しいケースなんです。『ULTRA JAPAN』を日本に持ち込んだ小橋(賢児)さん以外だと日本では自分が最年少らしくて。やり方を教えてくれる先生もいないのと、エンタメ音楽って結構特殊な業界なので、よほどお金がない限りやりたくてやれるものでもないんです。ドラクエみたいに壁にあたっては少し進んで……を繰り返していました。
―『ULTRA JAPAN』のお話がありましたが、『S2O』を日本に上陸させるにあたり、参考にしたイベントはありますか?
KIUCHI:本国タイの『S2O』だけにフォーカスしてました。見本があるものは真似できるので。『ウォーターラン』の時は見本がなかったので、イベントで使う3000人分の水風船をどうやって調達するのかといったことから考えなければいけませんでした。
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『S2O』が日本に海外初上陸した理由。日本との親和性
―『S2O』のターゲットはどういった人に設定しましたか?
KIUCHI:『S2O』は「おしゃれでかっこいい」イベントというのが根底にあるので、トレンドに敏感な18歳から35歳がメインターゲットです。加えて、今は訪日観光客も多いので、そういったお客さんにも来てもらえたら嬉しいです。日本はタイ以外で『S2O』が初めて開催された国でもあるので、ぜひ『S2O JAPAN』の雰囲気を楽しんでもらえたらと思います。
―日本が「海外初上陸国」となった特別な理由は何かあるのでしょうか?
KIUCHI:タイの『S2O』代表のプリンが「2カ国目は絶対日本が良い」と言っていたんです。『SUMMER SONIC』や『FUJI ROCK FESTIVAL』は海外でも知られているので、日本にフェス文化が根付いていることが理由のようでした。自分が『S2O』に連絡した時にも、既に日本から3社ほどの企業が『S2O』を誘致しようとアタックしていたらしいのですが、『S2O』を日本で開催したい気持ちを作文にして提出したら無事に自分が開催できることになりました。
―日本以外にも香港、ソウル、台湾、ベトナム、ニューヨークでも開催されていますが、ローカライズしている演出などありますか?
KIUCHI:契約上、『S2O』はEDMさえあれば、他ジャンルも取り入れていい仕組みになっているんです。タイの『ソンクラーン』や『水掛け祭り』の習慣を日本にもっと普及させたい気持ちが一番にありますが、『S2O JAPAN』独自の狙いとしては、世界から注目される日本のアーティストのブッキングも増やして、将来的には『サマソニ』や『フジロック』のようなイベントに育てたいと思っています。それで前回はWANIMAに出演してもらいましたが、今回はCreepy Nutsに出演してもらうことになりました。
―プレスリリースにもある通り、「四方から水が降り注ぐ」演出が『S2O JAPAN』の特徴かと思いますが、今年の『S2O JAPAN』の特徴を教えてください。
KIUCHI:水掛け祭りのアイデンティティとして1日100万リットルの放水は維持しつつ、都市型のフェスとして、会場を幕張からアクセスの良いお台場に戻しました。音楽に関しては、今回新たにテクノのDJも取り入れつつ、純粋に音楽が好きな人にも楽しんでもらえるラインナップを意識しました。派手なステージ演出を「見る」のではなく、「体験型」のアトラクションとして楽しんでもらえると思います。