INDEX
花火のように、緊張と解放のプロセスを行き来する魅力的な体験
さらに驚くべきは、分解された音や映像の一つひとつを体感していく中で、それがもはや音楽を超えたものとして感じられる点である。中でも、ボイスサンプリングが効果的に挿入される“ultratronics02”を筆頭に、ベース由来の重低音が響く曲であればあるほど、音楽体験から引きはがされ「音体験」を思い出させるパフォーマンスとして身体に入ってくる。ミニマルなエレクトロニックミュージックのライブ会場にいると、あまりの音の強大さに雷やジェット機が放つ轟音を連想することがあるが、この日の『ultratronics』の一部で連想したのは打ち上げ花火の重低音だ。花火の爆発音は広い周波数帯を含んでおり、特に低周波が、広大な自然の中で空気の圧力変化と残響効果を響かせることで全身に衝撃を与える。KT Zepp Yokohamaの広い空間に放たれた音と映像は、さしずめモノクロームの花火のような同期性と相乗効果をもって押し寄せ、アドレナリンを分泌させた。
きちんと盛り上がりを作っていくこの日のライブは、突然降り注ぐ爆音によって観客を驚かせつつも快楽へと導いていたが、それはまさしく、緊張と解放のプロセスを行き来する花火のメカニズムにも近い。そういった分かりやすい喩えが浮かんでくることからも分かる通り、臓器を振動させるほどの深い爆発音に身をまかせていると、このライブがとてつもなくポップなものに感じられてくる。もちろん、Ryoji Ikedaが得意とする、鋭利だが痛くない滑らかな音作りによる効果もあるだろう。緊張と解放の過程が全て心地よい音で鳴るという、この魅力的な体験は何にも代え難い。

考えを巡らせているとあっという間に本編は終了、最後は音量も音圧も増大しビッグバンのように弾け散ったのちクローズ。これからツアーを観る人のために映像の内容は伏せておくが、極めて劇的な終わり方であった。予想に反してアンコールも行われ、Ryoji Ikedaは心なしか客席に向けてペンライトを振っていたようにも見えたが、とにかく終始無駄な音が何一つ鳴らず、最小単位まで音を絞っていくスタイルが貫かれたことについて唖然としてしまう。それによって音楽自体も解体され、単なる鋭利な音がポップに感じられるという、原始的な感覚まで引き戻されるのが彼のライブなのである。