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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

Ryoji Ikeda日本ツアーの初日レポ 五感の限界を超える、本質的で原始的な体験

2024.12.25

#MUSIC

Ryoji Ikeda初となる全国ツアーの初日

Ryoji Ikedaが精力的に動いている。パリと京都を拠点にしながら、特にコロナ以後は青森・弘前れんが倉庫美術館での大規模な個展を開催したり『MUTEK.JP 2022 Edition 7』へ出演したり、さらには活動のキャリアを振り返るかのようなアルバム『ultratronics』をリリースしたりと、ここ日本でも様々な形でその試みに触れる機会が設けられてきた。そして今回、ライブツアー『ultratronics Japan Tour』で5カ所をまわるという。各公演とも、なるほどそう来たかと言いたくなる組み合わせの妙が光るキュレーションで、VMO a.k.a Violent Magic Orchestra、∈Y∋、goat、長谷川白紙、Alva Notoという絶妙なラインナップが並ぶ。2022年リリースの『ultratronics』は国内でもすでに数回披露されており、その後世界中の様々な会場を揺らしてきた。覚めやらぬ熱狂の中、今回ついに神奈川・KT Zepp Yokohamaを皮切りにツアーにて再演が体験できるというわけだ。

Ryoji Ikeda(池田亮司)
1966年岐⾩⽣まれ、パリ、京都を拠点に活動。国際的に活躍する作曲家 / アーティストとして、電⼦⾳楽の作曲を起点としながら体験としてのアートを提⽰する。⾳やイメージ、物質、物理現象、数学的概念などの様々な要素の精緻な構成を⽤いて、⾒る者 / 聞く者の存在を包みこむライブパフォーマンス、インスタレーションを発表している。

オープニングアクトは海外フェスも常連のVMO a.k.a Violent Magic Orchestra

まず、オープニングアクトとしてVMO a.k.a Violent Magic Orchestraが登場。いま最も爆音のライブに定評があるアクトである。

VMO a.k.a Violent Magic Orchestra(ヴイエムオー ヴァイオレントマジックオーケストラ)
エレクトロニクス担当のPete Swanson(ex Yellow Swans)、MIX、シンセ、ビート担当の Extreme Precautions、楽器担当のVampillia、ライブヴィジュアル担当のkezzardrix、そして3台のストロボライトからなるテクノ、ブラックメタル、インダストリアル、ノイズが渾然⼀体となり発光される光と闇のイリュージョン!架空の⻄暦 2099 年世紀末⾳楽プロジェクト。それはまるでブラックメタルmeetsクラフトワーク、バーズムに侵略されたエイフェックスツイン。ちなみに現在もっともライブハウス、クラブで電⼒を喰うユニット。VMOの総電⼒量は4500W(アンプ56台分)。

この日はKT Zepp Yokohamaの広さやスクリーンの大きさを目一杯活用した壮大なステージで、大箱ならではのサウンドの立体感が爆音をさらにシャープに聴かせる。ブラックメタル、ノイズ、クラブミュージックが渾然一体となった音は、むしろ普段の小さい会場の方が発散的に聴こえたから不思議だ。つまり、いつものVMOのステージはもっとフロアとの距離感が近く双方向的で暴力的だが、この日はショウとして非常に研ぎ澄まされており、むしろそれだけで独立しているような孤高の完成度を誇っていたのである。海外ではエレクトロニックからヘヴィミュージック系の大きなフェスまで頻繁にパフォーマンスしているVMOだが、国内でももっとこの規模で観たいと思わせるステージ。日本の私たちは、まだ彼らの本当の魅力に気づいていなかったのかもしれない――そう感じてしまうほど、雑味も含めすべてが調和へと向かっているような、一つの作品として鑑賞できるものになっていた。そしてそれを可能にしているのは、やはり思弁的な性質を持つブラックメタルというジャンル固有の特性であり、その美学を下支えする音の強度によるものだろう。

聴く者の意識を最小単位まで分解し集中させる『ultratronics』の凄みが凝縮

さて、あまりに刺激的なオープニングを経て皆がビリビリと身体の痺れを感じる中、Ryoji Ikedaが颯爽と現れる。巨大なスクリーンを背後に必要最低限の機材とともにぽつねんとたたずむシンボリックな姿は、それだけでRyoji Ikeda作品の概念を表象しているようだ。

早速、傑作『ultratronics』の冒頭の曲“ultratronics00”が静謐なパルス音とともに始まる。まずここで、身の毛がよだち、毛穴が開くのが分かる。観客の身体がびくっと動き、会場中に鋭敏な感覚がうごめく。そのまま“ultratronics01”になだれこみ、白 / 黒のモノクロームでデータを視覚化したかのような映像がスクリーンを占拠し、音と映像が同期しながら会場全体を突き抜けていく。もちろんそれ自体は特に目新しいものではなく、これまでのRyoji Ikedaワークスにおいても度々実践されてきた手法であるが、多岐に渡る彼の取組の中でも今回は『ultratronics』という明晰さを凝縮したような作品のライブであるがゆえに、これまで以上にシンプルで透き通った凄みが直接的に働きかけてくる印象だ。

そしてここに、『ultratronics』のライブ公演が持つ体験としての本質がある。というのも、映像にしても音楽にしても、聴く者の意識を最小単位まで分解し集中させるのが『ultratronics』の傑出した作用であり、だからこそ、映像を構成する光=電磁波や、音楽を構成する音=機械波が物理的な波動現象として私たちの身体に働きかけることを実感させられるからだ。映像や音楽を電磁エネルギーとして、また分子の運動エネルギーとして知覚できるレベルにまで研ぎ澄ませていくのが本公演の最大の醍醐味と言っても過言ではない。特に、尋常ではなく太い低音域を随所に織り交ぜることで生まれるダイナミズムは、時に骨伝導としても私たちの身体に打撃を与える。皮膚が、聴覚や視覚といった機能をも持ち合わせた「0番目の脳」と呼ばれる高機能な感覚器官であることを思い出すのである。

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