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折坂悠太がひとつの到達点を示したNHKホールをレポ。「次の季節」の到来を匂わせる

2025.4.14

#MUSIC

折坂悠太は昨年6月にアルバム『呪文』を発表した。コロナ期間中に制作された前作『心理』(2021年)は時代のムードを反映したヒリヒリとした作品だったが、『呪文』は一転、暮らしのワンシーンが散りばめられた穏やかなものとなった。以前NiEWで折坂のインタビュー記事を書いた際、私は「ここには穏やかで心地のいい風が吹いている」と書いたが、『心理』と『呪文』という2枚の作品には種類の異なる風が吹き抜けていた。

『呪文』リリース後の折坂は、近年活動を共にしてきた折坂悠太(band)のメンバー4人と共に全国9会場をまわるツアーを決行。このツアーは最新作収録曲を中心にしたセットリストで行われ、ライブパフォーマンスを通じて『呪文』の世界観が表現された。

『のこされた者のワルツ』と題された今回のライブは、そのツアー以来の大規模公演となる。今回のライブで重要なトピックとなったのが、「重奏」メンバーを含む11人編成で行われたという点だ。5人編成による『呪文』ツアーに対し、今回の11人編成は折坂の公演では過去最大規模のものとなる。

11人編成のなかには『平成』(2018年)以降の弦楽アレンジを手がけてきた波多野敦子(ヴァイオリン)率いるストリングスカルテットも含まれる。『平成』以降の折坂の作品ではストリングスが重要な要素となってきたが、ライブパフォーマンスの場で再現されるのは今回の公演が初めて。その意味でも本公演は折坂の活動において重要な意味を持つものとなった。

折坂悠太(おりさか ゆうた)
平成元年、鳥取県生まれのシンガーソングライター。2018年10月にリリースした2ndアルバム『平成』が『CDショップ大賞』を受賞。2024年6月、約2年8か月ぶりとなる4thアルバム『呪文』をリリースした。また、音楽活動のほか書籍の執筆や寄稿も行なっている。

これまで以上に静と動のコントラストが鮮やかだった第一部

会場となるNHKホールを訪れると、ステージには11人分の機材がセットされていた。上手にはストリングス用のブース。また、ステージ上方には窓枠のような造形物がぶら下がっている。そこには一筋の白い照明があたっていて、どことなく窓に差し込む月明かりのようにも見える。2025年4月4日18時半、いよいよ『のこされた者のワルツ』東京公演が幕を開けた。

折坂悠太『のこされた者のワルツ』(2025年4月4日 NHKホール)

1曲目は折坂のギターとストリングスだけで静かに奏でられる“呼び名”(2018年のミニアルバム『ざわめき』収録曲)。<君ゆきて 風はらむ>という言葉から始まるこの楽曲が、春の気配漂うものだったことを思い出させる。続いては『呪文』収録曲でもキーのひとつとなっていた“ハチス”。前回のツアーには参加していなかったyatchiのエレピがいかに重要な要素だったのか気づかされた。

yatchi(ピアノ)

ここで折坂はおもむろに一編の詩を読み始める。詩人・辻征夫の「春の問題」だ。「また春になってしまった / これが何回目の春であるのか / ぼくにはわからない」という辻征夫の言葉が折坂の歌と重なり合うことで、新たな言葉の世界が立ち上がる。

詩を朗読する折坂悠太

続く“人人”のラストでは山内弘太のアンビエント的なギターが鳴り響き、折坂の活動最初期の楽曲である“あけぼの”へとシームレスに繋がっていく。最新曲“沖の方へ”を挟み、“針の穴” “鯱” “星屑” “スペル”と続くなかで、バンドが奏でる出音のソフトさに気づかされた。決して出音が小さいわけではないものの、音圧で圧倒する感じでもない。senoo rickyのドラムも普段以上にソフトに感じる。そのぶん宮田あずみのコントラバスの繊細なニュアンスや宮坂遼太郎のパーカッションのしなやかさ、歌にそっと寄り添うようなハラナツコのサックスのタッチ、波多野敦子率いるカルテットのストリングスアレンジの多彩さがはっきりと伝わってくるのだ。“沖の方へ”などで折坂が奏でるマンドリンの響きもアンサンブルを豊かなものにしている。

山内弘太(エレキギター)
senoo ricky(ドラム)
宮田あずみ(コントラバス)
宮坂遼太郎(パーカッション)
ハラナツコ(サックス・フルート)
ストリングスカルテット:波多野敦子(ヴァイオリン)、鈴木絵由子(ヴァイオリン)、角谷奈緒子(ヴィオラ)、巌裕美子(チェロ)

そのぶんバンドのグルーヴが爆発する“鯱”などは普段以上の迫力でこちらに迫ってくる。曲間で折坂が「渋谷ー!」と絶叫すると、観客からは大きな歓声が上がった。これまで折坂のライブは数多く観てきたが、静と動のコントラストがここまで鮮やかなライブは初めてかもしれない。

ここで前半が終了、しばしの休憩時間となる。息抜きのためトイレに向かうと、あちこちから「今日のライブ、なんだかすごいね」「普段と違うね」という会話が繰り広げられている。後半で折坂たちが何を観せてくれるのか、誰もが期待に胸を膨らませている感じだ。

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