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OBSG×民謡クルセイダーズ対談 民謡の楽しさを世界にシェアする日韓バンドが語り合う

2024.9.12

#MUSIC

韓国インディーの大注目バンド、OBSG(オバンシングァ)が初来日を果たす。毎週のようにアジア各地のインディーアーティストが来日公演を行う現在であっても、10人もの大所帯編成である彼らが日本にやってくるとは。まさに奇跡の初来日といっていいだろう。

中心人物は京畿民謡の歌手であり、韓国インディーの異端児であるイ・ヒムン。かつては民謡グループであるSsingSsing(シンシン)のフロントマンとして、NPRの人気企画「Tiny Desk Concert」に出演したことで世界的な注目を集めた。同グループの解散以降はさまざまなプロジェクトで活動し、昨年は3人組ジャムバンドのCADEJO(カデホ)を伴って来日公演も行っている。OBSGはそんなイ・ヒムンのプロジェクトであり、昨年リリースされた最新作『SPANGLE』を携えた初来日となる。

バンドの音楽面を取り仕切るのは、ベーシストのノ・ソンテク。韓国の伝統民俗芸能であるパンソリとダブ / レゲエをミックスしたバンド、NST & THE SOUL SAUCE(NST & The Soul Sauce)のリーダーも務め、こちらのバンドでは『FUJI ROCK FESTIVAL』への出演も果たしている。

韓国民謡に新たな視点からアプローチするOBSGの初来日を前にして、同じく民謡に取り組む民謡クルセイダーズとの座談会を企画した。参加者はOBSGのイ・ヒムンとノ・ソンテク、民謡クルセイダーズのフレディ塚本、田中克海、大沢広一郎の5人。音楽のグローバル化がますます進む現代、OBSGと民謡クルセイダーズは民謡というルーツミュージックをどのように表現しようとしているのだろうか?

日本と韓国、それぞれの伝統音楽である民謡との出会い

―ヒムンさんとソンテクさんは民謡クルセイダーズのことはご存じでしたか?

ヒムン:もちろん知ってますよ。

ソンテク:僕も知ってました。

田中:ありがとうございます(笑)。

民謡クルセイダーズ
東京西部、米軍横田基地のある街「福生」在住のギタリスト田中克海と民謡歌手フレディ塚本を中心に結成。クンビア、ビギン、ブーガルー、カリプソ、アフロビート、ルンバ、レゲエなど、世界各地の様々なダンスミュージックと、失われつつある音楽「日本民謡」との化学反応を試みつづけ、2017年に1stアルバム『エコーズ・オブ・ジャパン』をリリースし、その翌年に<FUJI ROCK FESTIVAL>に出演。2019年以降は数多くの海外ツアーを行っている。2023年には6年ぶりとなる2nd Album「日本民謡珍道中/TOUR OF JAPAN」をリリース。2024年7月よりNHK「天才てれびくん」音楽コーナー(MTK)にて、楽曲提供した「ちぃあわせ音頭」が放送&配信開始している。
https://www.minyocrusaders.com

ヒムン:国は違うけど、同じ民謡に取り組んでいるところは共通していますよね。今の音楽としてそれを鳴らし、現代の人たちと楽しもうとしている点にも親近感を感じていました。

ソンテク:日本で長く活動してきたバンドには基本的にリスペクトを持っているんですが、なかでも民謡クルセイダーズは南米の音楽のニュアンスが入っているところに関心を持っていました。既存のレシピをもとにした音楽とは違うな、と。

OBSG(オバンシングァ)
京畿民謡の歌手であり、2017年にバンド「SsingSsing(シンシン)」でアジア人として初めて出演した米・NPRの人気コンテンツ「タイニー・デスク・コンサート」に出演し国際的な注目を集めるイ・ヒムンと、フジロックへの出演経験もあるルーツ・レゲエ・バンド「NST & The Soul Sauce(ノ・ソンテク&ザ・ソウル・ソース)」の中心人物であるベーシスト、ノ・ソンテクによるバンド「Heosongsewol(ホソンセウォル)」と、二人組の歌い手「NomNom(ノムノム)」による総勢10名のバンド。伝統的な民謡を土台に、レゲエ、ダンス・ミュージック、ファンク、ロック、ブルースなどをシームレスに融合した、サイケデリックな”ネオ民謡”の世界を生み出している。2024年9月、最新アルバム『SPANGLE』を携えて初の来日公演を行う。

―田中さんとフレディさんはヒムンさんたちのことをどう認識していましたか?

田中:ヒムンさんは以前やっていたSsingSsingで「Tiny Desk Concert」に出演していましたよね。SsingSsingはビジュアルも含めてエキセントリックなところがあったので、パッと見ただけで自分たちと同じことをやってるとは感じなかったけど、「おもしろい人たちが出てきたな」と思っていました。自分たちのルーツ音楽に新たに向き合ったものが世界各地から出てきてるわけで、韓国にもこういう人たちがいるんだなと。

フレディ:私は音楽全般に非常に疎くて……ヒムンさんたちのことも知らなかったんですよ。すいません。

―民謡に対するみなさんの距離感についてお聞きしたいのですが、ヒムンさんのお母様は京畿民謡の歌手ですよね。幼少時代のヒムンさんはお母さんが歌う民謡についてどう思っていたのでしょうか。

ヒムン:うちの母は私が生まれる前から民謡を歌っていたので、自分にとっては空気のように自然にそこにあるものだったんですよ。だから、他の同級生にとって民謡が珍しいものだと知って驚きました。私にとって民謡は母そのものなんです。

―ヒムンさんが子供のころ、暮らしのなかで民謡が歌われることはもうなくなっていた?

ヒムン:そうですね。私はソウルで生まれ育ったんですが、民謡に触れられるような環境ではなかったですね。叔父が京畿道のイルサンに住んでいたんですが、そのころのイルサンにはまだ農村の雰囲気が残っていて、まだ民謡が歌われていたと記憶しています。

―フレディさんと田中さんは子供のころ民謡をどう捉えていましたか。

フレディ:子供のころは耳にすることがまったくなくて、町内の盆踊りで聴くぐらい。私が関心を持つようになったのは大人になってからです。偶然民謡を耳にしたことから「なんだこれは!」と驚いてしまって、それから民謡にのめり込んでしまったんですよ。自分はもともとはジャズボーカリストになりたくて東京に出てきたんですけど、やるのはこっちだ! と民謡に乗り換えました。

田中:フレディさんと一緒で、自分も民謡に関心を持ったのは大人になってからです。それまでは有名な民謡をテレビで聴いたり、盆踊りで聴くぐらい。ヒムンさんが言っていたように韓国では学校で民謡を習うことがあるそうですけど、そういうこともなかったんです。

民謡クルセイダーズのリーダーでギターの田中克海と、ボーカルのフレディ塚本。

―ソンテクさんはいかがですか。子供のころから民謡のような伝統音楽に触れていたのでしょうか。

ソンテク:いや、僕もまったく触れたことがなくて。ヒムンさんと出会ってから民謡に関心を持つようになりました。

―じゃあ、田中さんやフレディさんと一緒ですね。

ソンテク:うん、そうですね。NST & THE SOUL SAUCEではパンソリ(※)にアプローチしていますが、パンソリに触れたこともなかった。僕はずっとバンドをやってきたので、伝統的なものに関心を持ったことがなかったんですよ。民謡やパンソリについてはヒムンさんなど詳しい方々から学んでいるところです。

※編注:パンソリは朝鮮の伝統的民俗芸能で、口承文芸のひとつ。1人の歌い手とプク(韓国の伝統的な太鼓)奏者によって奏でられる物語性のある音楽。2003年、ユネスコの無形文化遺産に登録された。

ボーカルのイ・ヒムンと、OBSGのベーシストでありバンドマスターのノ・ソンテク

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