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画期的な学園ドラマ『御上先生』は理不尽な社会そのものを描く

2025.3.23

#MOVIE

©TBS
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“官僚教師”の御上孝(松坂桃李)と令和の高校生たちが腐った権力へ立ち向かう学園ドラマ『御上先生』(TBS系)がいよいよ最終回を迎える。

とある試験会場での殺人事件からはじまったストーリーは、御上が担任を務めるクラスの生徒たち一人ひとりが抱える事情も巻き込み、社会そのものの問題を炙り出してきた。

一般的な学園ドラマとは大きく異なる衝撃的な内容だけでなく、映像としてのクールさも評価されてきた本作の魅力の一つは、主役級の豪華キャスト陣と若き俳優たちの共演にもあるだろう。

毎回、SNS上でも話題になり続けて来た本作のこれまでについて、ドラマ映画ライターの古澤椋子がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

社会の延長線上にある場所としての教室を描く学園ドラマ

生徒の一人ひとりにフィーチャーすることで社会問題自体を描く©TBS
生徒の一人ひとりにフィーチャーすることで社会問題自体を描く©TBS

話数が進むにつれ、どんどん鋭く、深くなっていくストーリー。後半からは、隣徳学院と文部科学省と永田町とのつながりを暴く動きがメインとなっていったが、それでも「パーソナル・イズ・ポリティカル」というメッセージは変わらない。

いわゆる「学園ドラマ」は、いじめやスクールカーストなど、学校という舞台ならではの問題を描き、教室を社会の縮図として描くような作品が多い。学校にいる多くの生徒の一人ひとりにフィーチャーすることで、社会の様々な問題を取り上げることができるのだ。それが学園ドラマの魅力とも言えるだろう。

一方、『御上先生』は、学園ドラマで描かれがちな問題をあえて描いていないように感じられる。教室を社会の縮図として描かず、社会の不均衡さが反映される場所、社会の延長線上にある場所として描いている。生徒一人ひとりの事情を見ていくうちに、社会が抱える問題そのものが見えてくるのだ。

御上の過去と社会への怒りが描かれた第6話

清廉な正義感と社会への怒りを持っていた御上の兄・宏太(新原泰佑)©TBS
清廉な正義感と社会への怒りを持っていた御上の兄・宏太(新原泰佑)©TBS

ドラマ全体の核心とも言える回となった第6話。それまでに回想シーンで何度も描かれてきた御上孝の過去が明かされた。中学生だった御上(小川冬晴)には、同じ系列学校の高等部に通う兄・宏太(新原泰佑)がいた。宏太は、発達障害のある生徒たちを高等部に進学させないという不当な差別を行っていたことへの抗議として、学校の放送室での全校放送後の自死を選んでいた。これは、宏太から学校への、ひいては社会への怒りが現れた行動だ。

宏太が自死を選ぶ前、彼は抗議活動をきっかけにクラスでは腫れ物扱いされていた。誰も宏太が持つ強い怒りに見向きもしなかったのだ。そして、母・苑子(梅沢昌代)からの「そんな子たちのために、自分の人生を犠牲にする必要なんてない」という言葉、当時中学生だった御上からの「友達に言われたんだよ。『お前の兄さん、この頃おかしいぞ』って」という言葉が、宏太の希望の糸を切ってしまった。宏太の怒りは正しい。清廉な正義感を持つ宏太にとって、うまく生きるために理不尽から目を背けなければならない世界は、とても生きづらかったのだろう。しかし、宏太が死んでも社会は変わらなかった。

自らの過去を明かし、生徒たちに向き合った御上©TBS
自らの過去を明かし、生徒たちに向き合った御上©TBS

御上はこれまで、自分が置かれている理不尽に怒りを覚える生徒たちに「考えて」と投げかけてきた。それは、怒りをぶつける先はどこか、どのような行動に効果があるのかを生徒自身の頭で考えさせるためだろう。

御上自身も、宏太の死を伴った抗議を無駄にしないため、そこから生まれた怒りを表現する先として、文科省官僚という職業を選んだ。そして、隣徳学院と文科省と永田町との不正問題へと辿り着く。不正を暴くために訪れた場所で、宏太が亡くなった年齢と同じ世代である3年2組の生徒たちに向き合うことは、御上にとって宏太への罪滅ぼしでもあるのだ。

「先生」と「宏太の弟」の二面性を巧みに表現する松坂桃李

「官僚教師」である御上を体現し続けてきた松坂桃李©TBS
「官僚教師」である御上を体現し続けてきた松坂桃李©TBS

御上の過去や目的が明らかになってきた中で実感するのは、御上を演じる松坂桃李の高い演技力だ。松坂本人の持つ威圧感のないナチュラルな佇まい、本作での柔らかく響きながらも抑揚のない口調などが、「官僚教師」である御上に、人間としてのリアリティをもたらしている。

第5話までは、生徒の前で高圧的な先生として存在していた御上が、第6話で初めて心の柔らかい部分を開示した。教室の後ろに見えた宏太の亡霊に息を飲みつつ、淡々と過去を語りながらも、噛み締めて大切に一つ一つを言葉にしていく姿。生徒たちに語りかけつつも、それは同時に宏太への懺悔のようにも見えた。

教室の後ろに見えた宏太の亡霊に息を飲みつつ生徒に語りかける御上©TBS
教室の後ろに見えた宏太の亡霊に息を飲みつつ生徒に語りかける御上©TBS

そして、御上が最も感情の揺らぎを見せるのは、母・苑子の前だ。第9話では、宏太が亡くなって以降、御上のことを「宏太」と呼ぶ母に初めて正面から向き合った。宏太が死んだこと、自分は弟の孝であること、自分自身抱える宏太への罪の意識。深く息を吸って、感情の昂りを抑えながら語りかける表情と、母へ理解を促す御上の切実で穏やかな声色。先生としての御上と、暗い過去を持つ宏太の弟としての御上の二面性の表現も含めて、松坂にしかできない役柄と言える。

松坂と『御上先生』の脚本家である詩森ろばとは、映画『新聞記者』(2019年)以来のタッグ。詩森が表現する社会性の強いセリフを体現できる俳優の1人と言えるだろう。松坂は、『新聞記者』で第43回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞し、『御上先生』で日曜劇場の主演、2027年には大河ドラマ『逆賊の幕臣』で主演を務めることが発表されている。今後も、さらに磨かれた演技力が堪能できることだろう。

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