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高木正勝と仏教 映画音楽や「Marginalia」でも目指していた、極楽を作ること

2024.12.26

#MUSIC

どんな状況でも楽しめる視点は絶対ある

ー「Marginalia」は高木さんがご自宅の窓を開けて、入ってきた自然の音を受けて、そこに参加するようにピアノを弾くプロジェクトですよね。高木さんの音楽を聴いていて、どんな音が入ってきても、一つの幸せな時間芸術が作られている理由が、お話を伺ってそういうことか、と腑に落ちました。

高木:「Marginalia」の録音はすごく特別な時間なんですよ。いくつかの状況が揃わないと実現しない。ひとつは、鳥や虫が歌っていたり、雷が鳴っていたり、そういう外の音に対して、「いいな。素晴らしいな」と感覚が開いてないと始まらない。忙しかったり心配事があったりすると、虹が架かっていても気付けなかったりするじゃないですか。だから心が健やかな時しか、まず無理なんです。そういう自然の音に対して心を開いていて、そこに自分もピアノを演奏して参加するのですが、ここもやっぱり「わあ、ピアノが弾きたい!」って強烈な想いが湧いてないと何も弾けないんですね。どういう時にほんとうに弾きたくなるかというと、心や魂が動いていて、メロディーや新しい音の気配がふわっとやって来た時なんです。作曲がはじまる瞬間ですね。だから、外の自然と、内なる自分のふたつが、ピタッっと揃ってようやく「Marginalia」の録音ができるので、とても貴重で。毎日録音したいと心がけていても、月に2回も録れたらラッキーなんです。

ーはい。

高木:たとえば夏は緑が青々としているじゃないですか。これが冬になったらすっかり消える。僕らはそれを見て、植物はそんなつもりは全くないでしょうけれど、勝手に「新しい季節が来た」って思うじゃないですか。もの作りをしている目線から見ると「いろんなものが春を作ってくれている」なと感じるんです。だから、自然の営みを見ているだけじゃなくて、自分も参加して一緒に季節を作りたいなと。

どんなことが起これば、より良い春が来年来るだろう、という視点に立って、音を奏でる。もっと鳥がたくさんやって来たらいいなとか、新しい生き物の歌が増えればいいなとか。実際に田んぼを作ったりすると、蛙がたくさん生まれて、それまでになかった大合唱が毎日起こるようになりましたが、ピアノを弾くことで同じようなことが始まらないかなと。鳥や虫たちが歌うのは、他にも理由があるでしょうが、オスがメスに出会うために歌っているので、歌えば歌うほど夫婦ができて、子どもが増える。歌に満ちている場所は、命に満ちている。だから水場があるみたいに、たくさん歌いたくなるような環境を用意するように、ピアノの音が鳴ることで、彼らももっと歌いたくなるような、そんな演奏ができないだろうかと。逆に自分勝手な間違ったことをすると、鳥からすると、「あのピアノ弾き、こっちの歌を全く聞いてないな。歌いにくいな」となって、どこかに飛んでいってしまって、もう何も起こらない。人間の社会も同じじゃないかなと思います。

ー普段いろんな人と関わる中で、人と衝突したり、嫌だなと思うことが読者の方もあると思いますし、私もあるので助言をいただきたいと思っていましたが、今仰っていた視点は人と関わる上で参考になると思いました。

高木:そうですね。見る方向が一緒になったらいいだけじゃないですか。本当は。

ー同じ気持ちで同じものに関わってなくても、同じ方向を見て、同じものに関わっていればいい。

高木:それで他人が一緒に作ってくれるものが、自分の趣味に合わないこともあるけれど、それはそういうこともある、って。それぞれ違う考え方を持っていても、何か1つ、皆がこの状況でも楽しめる視点は絶対にある。「Marginalia」で窓の外から入ってくる音と同じで、受け入れなきゃ進めない状況で、受け入れたからには何も粗末にはしないと決めた途端に、あらゆるものを好きになった方が自分も楽しい。そう思えたら、どうやったら好きになれるだろうってようやく探し始めるじゃないですか。そこでいい気がするんですけどね。

ー「絶対ある」というのが大事ですね。

高木:そこは何回トライしてもいい。たとえ相手から壮絶なる拒絶があった場合も、こちらは閉じなくていいと思うんですよ。閉じたらおしまいと思って、相手が受け入れるかどうかは関係なしに付き合ったらいいと思うんです。

ーこっちはいけるよ! って。

高木:はい。それで人生を進めたらいいんだと思いますね。自分は新しい道を見つける方向に進みたい。その道が、今までにはなかった、苦しみ抜いただけあると思える道だったりして、簡単じゃないからやりがいもあるし、そんな未来にたどり着いたら、何もかも感謝に変わっていく。

僕だって閉じる時は閉じていますよ。例えば田舎に暮らしていると誰でも家に入ってきて(笑)、それが最初は面白かったのですが、子供が生まれたりコロナが重なったりで門を作ったんですよ。そうすると自分の敷地全部が家みたいになるので、安心はするけど、なにかが狭くなるんですね。門を開けていれば、村全体が家なんですよ。だから本当は開けていたい。いまは、一度閉めてしまったものをどうやったら開けていけるか、そこにチャレンジし始めていて、もう始まっているのでワクワクしています。変わりますよー。

高木正勝『マージナリアVI』

オリジナル発売日:2024年11月27日
Blu-spec CD2価格(税込):¥3,300
LPレコード<完全生産限定盤>:¥5,720

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