INDEX
もしやばくなったら、いのっちの電話にかけてくれたらいい。
ーありがとうございます。今日は鬱や絶望について、ここまで踏み込んでお話が聞けたことを嬉しく思っています。最後に2つ、教えてください。まず、自分は大丈夫だけど、家族とか友達に鬱の人がいて、どう接したらいいか分からないという人に、アドバイスをいただけますか?
坂口:妻の場合は、鬱を経験したことはないので、分からないことについては「分からない」って言ってくれますね。「どうしてそういう気持ちなの?」って。
ー全然気を遣わずに、「どういうことなの?」って言ってくれた方が助かるということですか?
坂口:それはどれぐらいの付き合いかにもよりますね。風邪とかと一緒に考えない方がいいです。結構大変なところに向かって行く行為ではあるので、中途半端には付き合えない。
だから「どうやって鬱の人と関わったらいいですか?」って言われた時には、「それが分からなかったら、俺の番号教えるから、“いのっちの電話”に電話しろってその人に言った方が逆に気が楽じゃない?」と言いますね。

ーありがとうございます。では次に、今「絶望」の中にいて、坂口さんみたいに鬱の筋トレをやりたいけどまだできない人や、やり方が分からなくて悩んでいる人たちに向けて、アドバイスをいただけますか?
坂口:自分が向き合うべきタイミングが来たら、内側から声がかかって、風が吹いて来るはずなんですよ。それでも、向き合うのって基本的に怖いから、ピシャって内側の扉を閉めちゃうこともあると思うんです。でも本当に自分と向き合うのなら、外側の扉を閉めて、全部シャットアウトする。
俺は家族にもちゃんと伝えて、本気で外に出ないんですよ。それは、3日から5日ぐらいで十分なんです。ちゃんと時間を作って、しっかり布団にくるまってこもって、YouTubeとか見たらいいんです。中途半端に内側からの風を防ぎながら、外側の現実に出るんじゃなくて、1回こもりきった方がいいです。俺はそうやっているし、それで何にも悪いことは起きてない。
あとは、一番怖いと思う方に行くのを、書面とかで理解しながら、ちょっとずつやる。怖いと思う方に行くと、面白いぐらい価値観がグズグズになるんで、確かに危ないんですよ。例えば、自分は何に感動していたんだっけ、とかが本気で分からなくなる。でもそれは、本当は結構いいシグナルなんです。分からなくなるというのは、仮で持っていた感覚が溶けているということなので、その後にはちゃんと感情が動くようになるんです。
ーそのステップがあるということに気づいていれば。
坂口:そうですね。もしやばくなったら、いのっちの電話にかけてくれたらいいし。だけどやっぱり、ちゃんときついところを通過する必要があると思うんですよね。みんなその腐臭がするところに蓋をしていて、しかもそれが蔓延しちゃっているような感じがするから、ちゃんと開けて、ちゃんと見る。一番きついことって、人には言えないかもしれないけど、結構自分では確認しやすいものなんです。

『絶望ハンドブック』

著者:坂口恭平
仕様:四六判変形/ソフトカバー/224ページ
発売日:2024年12月7日
価格:2000円+税
出版社:エランド・プレス
ISBN978-4908440-10-6
<目次>
・はじめに
・第1章 絶望の分析
・第2章 絶望の渦中で
・第3章 絶望の変調
・第4章 絶望と生きる
・おわりに
・付録 絶望状態のメモ
https://errandpress.com/info/ep010/