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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

ひきこもりから脱したハイバイ岩井秀人 演劇による精神看護の可能性を医療従事者と語る

2024.12.18

#STAGE

ストレンジャーだから生み出せる新しい視点がある

ー岩井さんは、『精神看護2024年11月号 身体を使った対話 “演劇”がケアになる』(医学書院)で、「俳優さんと演出家をいろんなところに連れ出そうと思いました」と書かれていました。これについて詳しくお話いただけますか。

岩井:僕がBaseCampでワークショップをやっているのとはまた違うんですが、俳優や演出家を劇場の外に出したいと思ったきっかけがあって。別のところで『ワレモロ』のワークショップを行った時に、俳優を1人連れて行ったんです。そこですごく面白い効果があったので、俳優の機能を活かせる場所は劇場だけじゃないぞ、と思ったんですよね。

ーどのようなワークショップになったんですか?

岩井:そこには2年ぐらい通ってワークショップをしているんですが、ある女性がずっとお父さんの悪口を言っていて。お母さんが亡くなる時に、お父さんが「風邪だ」って嘘をついていた、ということに怒っていて。その時のワークショップは、僕の作家の師匠で俳優もやっている園田英樹さんが見学していたんですけど、勝手にみんなの輪の中に入っていって、「僕がそのお父さんを演じたいです」とか言い出したんですよ。

それで、その女性本人は当然見ていない、お父さんとお母さんの間でどういう会話があったのかを想像でやってみようということになったんですね。そこでお母さんは、「具合が悪いけど、娘をびっくりさせたくないから、あまり怖がらせない伝え方をしてあげて」とか言って。この2人のシーンを見ている時点で、その女性はすごく動揺していたんです。「私は実際にお母さんとお父さんがどう話したか見てないけど、お母さんだったら、絶対にそういう風に言うと思う」と言っていて。それからその女性はお父さんの悪口を言わなくなったんです。つまり初めて彼女は、自分の父がなぜ「母は風邪だ」と言ったのか、父の立場で考えることになったんですね。

岩井:それは園田さんが俳優としてその場で本気でやったから、引き出せた部分だと思うんですよね。そこにいる人たちだけで演じる時は、そこまで踏み込まないんです。他人の家族を演じる時は、言われたことまでしかやらない。だけど、そこにある程度、俳優の経験がある園田さんが踏み込んで勝手な解釈を入れたことで、現実のもう1個の可能性が見えたんですよね。これって、演劇を劇場の中だけに置いていたら絶対に起きなかった部分だと思っているし、こういうことは他にもあるだろうなと思います。僕がBaseCampでやっているのも、普段は演劇の中で「演出」として使っている機能を演劇の外に持ちだしてワークショップで使わせてもらったら、不思議な効果があるという感じです。

中島:岩井さんがBaseCampでワークショップをやるようになって、変化した実感があります。だから、まだ行ったことのないところに岩井さんが行ったらどうなるかをもっと見たいですね。私も精神科病院に行って、ワークショップをしてみたいとずっと考えていて。

岩井:その計画はずっとあるね。

中島:やっぱりその場によって違った空気感があると思うので、そこで何が起きるのかは目撃したいです。

ー確かに、岩井さんが精神科病院に行って、一緒にワークショップをしたら、また何か新しい効果が生まれそうだなと感じます。

岩井:ストレンジャーというポジションは結構大事みたいですね。フランスで『ワレモロ』をやった時にも言われました。「なんでフランス人の『ワレモロ』を日本人が作らなくちゃいけないんだ」という質問をした時に、「ヒデトはストレンジャーだからだ」と言われて。そこにあるルールとか下地を持っていない人がもたらせるものというのが、きっとあるんだろうね。

ハイバイ20周年『て』

作・演出:岩井秀人
出演:大倉孝二 伊勢佳世 田村健太郎 後藤剛範 川上友里 藤谷理子 板垣雄亮 
岡本昌也 梅里アーツ 乙木瓜広 / 岩井秀人 小松和重

[公演日程]
東京公演:2024年12月19日(木)〜29日(日) 本多劇場
富山公演:2025年1月8日(水)・9日(木) 富山オーバード・ホール 中ホール
高知公演:2025年1月18日(土) 高知県立県民文化ホール グリーンホール
兵庫公演:2025年2月1日(土)・2日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

[アフタートーク開催回]
12月19日(木)19:00回 ゲスト:大倉孝二さん、小松和重さん
12月20日(金)19:00回 ゲスト:前川知大さん(イキウメ主宰)
12月23日(月)19:00回 ゲスト:大原櫻子さん
12月26日(木)19:00回 ゲスト:ユースケ・サンタマリアさん
※約20分程度を予定しています。

企画・製作:株式会社WARE、ハイバイ
公演特設サイト:https://hi-bye.net/play/te2024

あらすじ
山田家の4人兄妹は、かつて自分たちに手を上げていた横暴な父の元を離れ暮らしていたが、母方の祖母の認知症をきっかけに、実家に再集合した。
父の過去の暴力について騒ぐ次男。それについて一向に触れようとしない長男。
「あれから時間も経ってるから、家族をやりなおそう」と希望を見せる長女。
そして兄妹たちが祖母の家に集まる。
酒に酔った父の発言を元に、山田家に再び、暗く熱を持った活気が蘇ってくる。

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