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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

なぜYONCE擁するバンドHedigan’sが始動し、どこへ向かうのか インタビュー前編

2024.4.17

#MUSIC

SuchmosのYONCEこと河西“YONCE”洋介が旧友の仲間とバンド「Hedigan’s」を始動させた。昨年10月のバンドお披露目ライブにて、その魂剥きだしの音楽に私もNiEW編集長の柏井も心が震えたことはライブレポートでも伝えた通り。

Suchmosが2021年2月に活動休止を発表して以降、YONCEは『FUJI ROCK FESTIVAL ‘21』の「忌野清志郎 Rock’n’Roll FOREVER」、STUTS主宰「Mirage Collective」、adidasの広告など、数えられるほどの表舞台でしか姿を表さなかった。そんな彼がこのタイミングでHedigan’sを始動させたのはなぜか。どんなバンドなら再びステージに立って歌を響かせたいと思ったのか――YONCEと、高校時代からの友人でありHedigan’s結成のきっかけとなった大内岳(Dr)のインタビューを、前後編にわけてお届けする。

私たちの心が猛烈に震えたのは、Hedigan’sは「音楽」や「バンド」の本質的な魅力を懸命に突きつけてくるからだ。

「かっこよかった」ということに尽きるんですけど。5人でせーのでやってみて、「もうこれじゃん」というものができちゃった。(YONCE)

―Hedigan’s始動の経緯から聞かせてください。そもそもはThe Street Slidersのトリビュートアルバム『On The Street Again -Tribute & Origin-』(2023年3月22日リリース)にYONCEさんが参加するにあたって、このメンバーを集めたところからですよね。

YONCE(Vo, Gt):そうです。そのオファーがあって、「バンド」をやってきてる人たちとやりたいなと思って。「バンドマンシップ」みたいなことの美学をずっと持っていると思ってたのが大内なので、「ちょっとタイ料理行こう」って誘って。ドラム叩いてよ、というところから、他は誰がいいかなって話し合う中で出てきたのが本村(拓磨)くん(Ba)と栗田兄弟(栗田将治(Gt)、祐輔(Key))でした。

―「バンドマンシップ」というのはHedigan’sにおいて心臓くらい大事なものだと思うのでもう少し言葉にしてもらいたいのですが、二人が言う「バンドマンシップ」とはどういうものなのでしょう。

大内(Dr):いわゆる商業的なサクセスがほしいとか、「音楽を通じてこういうことを成し遂げたい」とか、そういうものが良くも悪くもないってことなんじゃないですかね。僕は活動の場所を大きくも小さくもしてこなかったというか(大内はHedigan’sの他、7つのバンドに所属している)。一緒にやっていたOLD JOE(大内とYONCEが高校生の頃に結成したバンド。2015年に解散したが、今年6月1日にはワンマンライブを開催する)で出ていたようなライブハウスで十数年以上演奏し続けてるっていうところが、呼んでくれた理由のひとつだったのかなと思うんですけど。

YONCE:うんうん。

大内:場所も身分も関係なく、好きな音楽を仲間とプレイするというか。今回のメンバーを集めるときも、みんな素晴らしいプレイヤーなんですけど、それ以上に友達としてずっと一緒にいれるような人をチョイスしました。栗田兄弟はOLD JOEのときからの対バン仲間で。本村くんは僕の知り合いだったんですけど、Gateballersとかカネコアヤノのサポートで演奏しているのを見て、それこそ僕は強烈なバンドマンシップを感じていて。

SuchmosのYONCEこと河西”YONCE”洋介擁するニューバンド”Hedigan’s”(ヘディガンズ)。メンバーは、河西”YONCE”洋介(Suchmos / Vo,Gt)、栗田将治(Glider、Merchant / Gt)、栗田祐輔(Glider / Key)、本村拓磨(ゆうらん船 / Ba)、大内岳(Glimpse Group、AKOGARE、 Burgundy、LAIKA DAY DREAM、The9Oz / Dr)の5人組。2023年にF.C.L.S.より、1st Digital Single『LOVE (XL)』をリリースし本格始動。

―そこから実際にスタジオに入って、“愛の痛手が一晩中”(『On The Street Again -Tribute & Origin-』収録)をレコーディングしたときに相当手応えがあったからこそ「一回限りではなくバンドとして続けようぜ」ってなったんだと思うんですけど、その手応えのポイントはどういったところでしたか?

YONCE:「かっこよかった」ということに尽きるんですけど。5人でせーのでやってみて、「もうこれじゃん」というものができちゃったっていう。それでカバーだけで終わらせるのも違うな、自分たちで曲を作って発表していくということを普通にしたいなと思って。やるならバンドがいいよねと僕は思って、じゃあそうしよう、という感じでしたね。

大内:「(バンドって)こんなに自然にやっていいんだ」みたいな感じはあった。そもそも音合わせの日とレコーディングする日を用意していたんですけど、音合わせの日に録れたものが最高だったので、それをそのまま本番にして。ちょっと大げさに言うと、練習音源を納品したって感じ。

YONCE:シリアスな現場の感じでいうと「じゃあこれを踏まえてもう1回」みたいになっちゃいがちですけど、その空気がないままでできたし、それが実際よかったから。これはEP(『2000JPY』)にも通底している部分なんですけど、作り込みすぎないラフな部分こそが逆においしさだと思っているバンドですね。

―漂白しすぎない、人間的なエネルギーを消さない、世の中に並ぶ商品のように綺麗にしすぎない、みたいなことはHedigan’sの音楽において重要な部分ですよね。そもそもThe Street Slidersのレコーディングに入るタイミングでYONCEさんの中で「バンドをやりたい」という気持ちはあったのか、Suchmosの休止以降、どういうバンドだったらやりたいと思えたのか――そのあたりの心境変化について聞かせてもらえますか。

YONCE:The Street Slidersの件で集まるまでは、バンド以前に、音楽に対してのスタンスもかなり消極的で。Suchmos休止以降の3年くらいを振り返っても、結局、自発的な作品の発表ではなく、お誘いいただいたものに乗っかっているというか。その都度ベストを尽くしてましたけど、そのために何か新たなものを、みたいな気持ちで音楽に取り組んではいなかったですね。

それよりは心の安定みたいなところにすごく関心を持っていて。関心を持っていてというか、多分、欲していて。それで、時々触れてますけど、農業の手伝いをしてみたり、伝統工芸的なところに足突っ込んでみたり、色々やってみようと。今も続けてはいるんですけど。その流れの中で……田んぼの師匠がいるんですけど、その人と時間を過ごす中で、改めて音楽に向かう気持ちがセットできたのかな。そのタイミングでThe Street Slidersのレコーディングがあったのが、僕個人の流れとしてはすごくよかったですね。

物事に向き合うにあたって、何か大それたことじゃなくて、淡々と、その場その場のことを楽しんでやっていくしかない。(YONCE)

―師匠と過ごす中で、何を話して、何を感じて、YONCEさんの中でセットできたのかを聞かせてもらえますか。

YONCE:物事に向き合うにあたって、何か大それたことじゃなくて、淡々と、その場その場のことを楽しんでやっていくしかないということを僕はその話の中から拾い上げたんですけど。The Street Slidersのトリビュートも、それまでの自分だったらただキャスティングされてできた仕事だったんですけど、そこにもう一個新しい要素というか、自分がちゃんと面白がれることや楽しめることって何だろうとなったときに、やっぱり俺はバンドサウンドが好きだし、というかそれしかやってこなかったし、ということを思ったんですよね。

―そこで、たとえば用意してもらった音源の中で歌っていたら、またバンドをやることにはなってなかったということですよね。

YONCE:そうですね。岳に声をかけてなかったら、今こういうふうにはなってなかったと思います。

―初の東名阪ツアー『Hedigan’s Live Tour』をやり遂げて、コンスタントにライブハウスにも出演されてますが、ステージに立って人前に出ることについては今どんなモチベーションですか。

YONCE:Hedigan’s結成以降、緊張しますね。まあもともとステージ直前はナーバスになっちゃうタイプだったんですけど。将治がツアー中に言っていたんですけど、お客さんの中にSuchmosのファンも一定数いて、「どんなもんじゃい」みたいな目線の人がちょいちょいいたなっていう。でもHedigan’sはそこに対してのアンサーではないから。もちろん俺個人としては流れの中にHedigan’sがあるんだけど、別にそこに似姿を見られてもしょうがないし、Hedigan’sはHedigan’sだということを作品でもステージでもやっているつもりで。ただその上でも、そういう人がいることがどうしても事実ではある。そういう向きへの緊張がありますね。

―世間から誤解された視線や言葉を向けられて心をすり減らす経験を、これまでもしていたと思うんです。それなのにまたステージに戻ってきてくれたことに嬉しさもありつつ、YONCEさんの中で今どういう考えがあるのかなというのは気になるところで。

YONCE:人間あるあるですけど、自分がコントロールできないシチュエーションに対する葛藤みたいなものは未だにある。まあでもそれはもうしゃあない。「しゃあない」っていうと消極的な言い方になっちゃうけど、そういうもんだよねという感じですね、最近は。

大内:Hedigan’sのお客さんの顔を見てると、俺は面白いけどね。何を考えてるのかなって。今までの文脈から僕らの様子を見ると、最初はわけわかんない人もいると思う。でも驚いてる顔とかを見ると嬉しい(笑)。

―ポジティブにいうと、そういう緊張感や考えることがあっても、それを凌駕するくらいHedigan’sで音を鳴らすことが楽しいということですよね。

YONCE:もうそれに尽きますよね。逆にそこ以外の喜びを探すのは難しいんだなって。音楽が仕事なのかどうかという話はずっとつきまとう問題ですけど、結局、別にどっちでもいいんですよね。結果としてこれで食えてるか食えてないかって、あまり意味がないというか、考えの外なんですよ。「してやったり」みたいなことを目指してやってるものでもないし。

大内:音楽をするということを、自分のための都合いいものにしてはいけないという感覚がずっとある。

自分が受け取ることに関して関心がなくなったし、だったら自分で食う分を自分で作り得るようになりたいとか、与えられるようになりたいという気持ちになったんですよね。(YONCE)

―商業のためにやっている音楽ではないということは『EPOCHS 〜Music & Art Collective〜』でのお披露目ライブを見たときから痛烈に感じました(レポート記事)。そうやって作った音楽を、メジャーの流通に乗せることを選んだのはどういった想いからだといえますか。

https://www.youtube.com/watch?v=Uax7nyT7vig

YONCE:EPのタイトル(『2000JPY』)をかなり気に入っているんですよ。質問してる気持ちなんですよね。これ要は、スタッフから「2000円で出しますよ」という連絡がきてから、「じゃあタイトルは『2000JPY』で」ってなったもので。音楽に値段がつくこと自体、不思議ですよね。お金はいろんなものと交換できるけど、(音楽は)腹が膨れるでもないし。しかもこれがメジャーレーベルから出ていく。「どう思いますか?」っていう。俺らは別にそれを否定も肯定もしないんですけど。

大内:めちゃくちゃ矛盾してるとは思うんですけど、音楽であろうとすれば、なおさら相手側のアクションが大事になってくるんですよね。本気で聴いてもらったり、ちゃんと足を運んで見てもらったりしないといけない。それってもう「価値」をくれているから。お金を払ったり、時間を空けたりすることを、聴いてもらうという道では避けられないじゃないですか。でも話していて思うのは、誰でもいいわけじゃないのかもしれないです。価値観を共有できる人を探してるのかもしれない。

YONCE:そうだね。どんな表現でもそうだけど、通り過ぎていく人と立ち止まってくれる人がいて。絵画がいっぱい並んでる美術館で、ある1枚を前に何か思うところがあって立ち尽くすわけで。俺たちもその中の1枚に過ぎない。「そういう気持ちがわかるよ」っていう人が立ち止まってくれる絵なのかもしれない。やたら注釈がいっぱい書いてあったり額とかがデコられていたり「見て」ってされてるものはあまり見たくないタチなので(笑)。

大内:ではなぜこれを販売しているかというと、画廊には来たいよねっていうくらいの感じですかね。今自分で腑に落ちました。

―ここに来る前に初めてYONCEさんを取材させてもらった2015年の記事を読み返していたんですけど、当時はかっこいい音楽を作ってメイクマネーすることへの意欲を語ってくれていて。この9年間、人生を進める中で、音楽やバンドに対する考え方がどのように変化したと言えますか。

YONCE:矛盾を孕んでいるようですけど、もちろん食ってはいきたい。その気持ちは変わらずあって。ただ、結局多くを得て何か満足できたかというと、満足できなかったという事実があった。それが勉強になったんですよね。結局、別に超高級外車とか買ってないし、大体ビンテージギターとかかいい音が出るアンプとかに費やしてしまったんですけど、だからなんだっていう話でしたね。それが己とか周りを幸福にしたのかというと、というよりは注目を浴びるようになった存在がある程度周囲を幸せにした部分の方がでかいのかもしれなくて。

だから自分が受け取ることに関して関心がなくなったし、だったら自分で食う分を自分で作り得るようになりたいとか、与えられるようになりたいという気持ちになったんですよね。最近の自分のやりたいこととか言ってることは、それに尽きるのかな。もちろんしょうがない部分はあって。フロントマンだし、ステージでスポットライトの真ん中に立っている人間ではあるんですけど、それはその時間だけでよくて。あとの時間はいろんな物事をサポートする人でいたい。要するに、脇役もやりたいというわがままです。

―いや、それはわがままではないですよね。

大内:脇役気質はメンバーみんなに共通してるかもね。もしかしたらそう見えないかもしれないけど。みんな個性が強い人たちだけど、「俺が、俺が」みたいな感じではないというか。本当に「音楽従事者」たちって感じ。

YONCE:そうだね。真ん中に音楽を置いてるからうまくいってるっていうのはあるね。

―ツアーの最終公演も、そういうライブだと感じました(ライブレポート)。音楽が中心にあって、音楽に捧げてるという。

YONCE:そこが伝わっていたなら嬉しいです。

大内:それしかないかもしれない。

https://www.youtube.com/watch?v=8hj22E1vR4s

Hedigan’s『2000JPY』

2024年2月21日発売
CD・¥2,000税込 KSCL-3479

https://fcls.lnk.to/_2000JPY
https://fcls.lnk.to/ydObA4

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