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自分が受け取ることに関して関心がなくなったし、だったら自分で食う分を自分で作り得るようになりたいとか、与えられるようになりたいという気持ちになったんですよね。(YONCE)
―商業のためにやっている音楽ではないということは『EPOCHS 〜Music & Art Collective〜』でのお披露目ライブを見たときから痛烈に感じました(レポート記事)。そうやって作った音楽を、メジャーの流通に乗せることを選んだのはどういった想いからだといえますか。
YONCE:EPのタイトル(『2000JPY』)をかなり気に入っているんですよ。質問してる気持ちなんですよね。これ要は、スタッフから「2000円で出しますよ」という連絡がきてから、「じゃあタイトルは『2000JPY』で」ってなったもので。音楽に値段がつくこと自体、不思議ですよね。お金はいろんなものと交換できるけど、(音楽は)腹が膨れるでもないし。しかもこれがメジャーレーベルから出ていく。「どう思いますか?」っていう。俺らは別にそれを否定も肯定もしないんですけど。
大内:めちゃくちゃ矛盾してるとは思うんですけど、音楽であろうとすれば、なおさら相手側のアクションが大事になってくるんですよね。本気で聴いてもらったり、ちゃんと足を運んで見てもらったりしないといけない。それってもう「価値」をくれているから。お金を払ったり、時間を空けたりすることを、聴いてもらうという道では避けられないじゃないですか。でも話していて思うのは、誰でもいいわけじゃないのかもしれないです。価値観を共有できる人を探してるのかもしれない。
YONCE:そうだね。どんな表現でもそうだけど、通り過ぎていく人と立ち止まってくれる人がいて。絵画がいっぱい並んでる美術館で、ある1枚を前に何か思うところがあって立ち尽くすわけで。俺たちもその中の1枚に過ぎない。「そういう気持ちがわかるよ」っていう人が立ち止まってくれる絵なのかもしれない。やたら注釈がいっぱい書いてあったり額とかがデコられていたり「見て」ってされてるものはあまり見たくないタチなので(笑)。
大内:ではなぜこれを販売しているかというと、画廊には来たいよねっていうくらいの感じですかね。今自分で腑に落ちました。

―ここに来る前に初めてYONCEさんを取材させてもらった2015年の記事を読み返していたんですけど、当時はかっこいい音楽を作ってメイクマネーすることへの意欲を語ってくれていて。この9年間、人生を進める中で、音楽やバンドに対する考え方がどのように変化したと言えますか。
YONCE:矛盾を孕んでいるようですけど、もちろん食ってはいきたい。その気持ちは変わらずあって。ただ、結局多くを得て何か満足できたかというと、満足できなかったという事実があった。それが勉強になったんですよね。結局、別に超高級外車とか買ってないし、大体ビンテージギターとかかいい音が出るアンプとかに費やしてしまったんですけど、だからなんだっていう話でしたね。それが己とか周りを幸福にしたのかというと、というよりは注目を浴びるようになった存在がある程度周囲を幸せにした部分の方がでかいのかもしれなくて。
だから自分が受け取ることに関して関心がなくなったし、だったら自分で食う分を自分で作り得るようになりたいとか、与えられるようになりたいという気持ちになったんですよね。最近の自分のやりたいこととか言ってることは、それに尽きるのかな。もちろんしょうがない部分はあって。フロントマンだし、ステージでスポットライトの真ん中に立っている人間ではあるんですけど、それはその時間だけでよくて。あとの時間はいろんな物事をサポートする人でいたい。要するに、脇役もやりたいというわがままです。
―いや、それはわがままではないですよね。
大内:脇役気質はメンバーみんなに共通してるかもね。もしかしたらそう見えないかもしれないけど。みんな個性が強い人たちだけど、「俺が、俺が」みたいな感じではないというか。本当に「音楽従事者」たちって感じ。
YONCE:そうだね。真ん中に音楽を置いてるからうまくいってるっていうのはあるね。
―ツアーの最終公演も、そういうライブだと感じました(ライブレポート)。音楽が中心にあって、音楽に捧げてるという。
YONCE:そこが伝わっていたなら嬉しいです。
大内:それしかないかもしれない。

Hedigan’s『2000JPY』
2024年2月21日発売
CD・¥2,000税込 KSCL-3479
https://fcls.lnk.to/_2000JPY
https://fcls.lnk.to/ydObA4