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<偶然居合わせた一匹と一匹>の関係の本質
今泉:ところで、この曲は本当に最初からバンドとお客さんの関係を描いたものだったんですか? 俺はガチガチの恋愛の歌だと思ったので。なんなら、吉田さんの恋愛の実体験が歌詞になってると思ったぐらいで。そう聴いてるファンもいると信じたい(笑)。
吉田:この曲を書いたのはまだバンドを組む前、1人で弾き語りをやっていた時期で。その時点では、ライブハウスでの関係性とかは反映されていなくて、ただ空間にポツンと歌っている俺が1人でいて、たまに誰かが通りかかるような感覚というか。

今泉:なるほど! すごく個人的な曲に聴こえました。みんなを鼓舞する応援歌ではないというか。『ちひろさん』という映画もまさにそういうところを気にして作ったんです。ちひろさんが積極的に誰かを助けに行くというよりは、会話したり、触れたりしてたら勝手に向こうが楽になっていくような。同じように、心地よい温度で人を助ける曲だなと思っていました。
ー『冬の朝』も、人と人との距離感に集約されますよね。「人間関係は親密であればあるほどいい」というような規範がある一方で、親密さを求めるがゆえにあんな煩悶も生まれるんだと思うんです。田辺、美穂、坂井がそれぞれお互いに求める関係性の深さも違って、そこに折り合いがついていないというか。
今泉:そうそう、セリフでも美穂は田辺を「友達」と言ってますからね。
鷲見:釘を刺してますよね(笑)。
ーそういった親密さを求めない、歌詞にある<偶然居合わせた一匹と一匹>くらいの距離感だから成立する互助的な関係もあるんじゃないか、ということなんだなと。
今泉:「親密さに気をつけましょう」っていう啓蒙ビデオになってるかもしれない(笑)。友達ってどういう関係を指すのか難しいですよね。恋人なら「付き合ってください」という言葉ではじまったりするけど、「友達になってください」は言ったことがないし。俺は友達がいないことがコンプレックスで。1人でもいいから親友みたいな相手がほしいと子どもの頃から思ってるんですけど。この曲の「友達」がバンドのお客さんのことを意味しているなら、すごく幅の広い言葉だなと。

ー“友達のうた”で描かれている関係性は、世間一般の「友達」のイメージよりもドライですよね。
吉田:タイトルをつけたのは最後でした。鼻歌で作りはじめて、<朝が来たら私たち>という歌詞を思いついて、そのまま冒頭から歌詞を繋げて作ったんですよね。で、完成してタイトルを考えるときに、「友達」だなと思って。クラスで席が隣で友達になったみたいなのとは違うけど、「じゃあこの関係をなんて言うの?」となったら友達でしかないかもしれない。「友達ということにします」という宣言というか。
ーバンドメンバーというのも、一言では形容しがたい関係性じゃないですか?
今泉:確かに。バンドメンバーってどんな感じなんだろう。
吉田:難しいですね。特にこのバンドは友達だった時期がないんですよ。同級生とかじゃないし、はじめて会ったときからずっとバンドメンバー。
鷲見:年齢も違うし、ルーツも、やってきたことも全然違うし。どういう人間かはメンバーになってから知った感じです。
吉田:山岸とは別のバンドをやっていたので、ある程度関係性はできてたんですけど、鷲見は面白いベースを弾くなと思って声をかけたのが最初だったので、人間性が合わなかったら即終わりでした。
今泉:3人で頻繁に飲んだりはするんですか?
吉田:ないですね。
鷲見:でも、一緒にいる時間はとてつもなく長いので。だいたい毎日スタジオにこもって、暇さえあれば曲作りをしたいんです。よく、こういうのを「家族みたいな関係」みたいに表現するじゃないですか。でも、家族では全くないんですよね。

今泉:そんな温度ではなさそうですよね。ベタベタしてないし。家族という言葉もいいものとして使う人が多いけど、それも怪しいですよ。
鷲見:そういう意味でも、家族でも友達でもないし、同僚もまた違う。バンドメンバーが一番しっくりきます。