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現代の映画は音楽のユニークさに注目
木津:あと上半期で改めて実感したのですが、今は映画の「音楽」がおもしろい時代ですよね。ここ数年、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドやナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーなど、大物も活躍していますが、僕がビビったのは『哀れなるものたち』(ヨルゴス・ランティモス監督)のジャースキン・フェンドリックス。まだ若い20代のインディーズ系のアーティストが、いきなりこの規模感の作品でフックアップされた。あとは『関心領域』(ジョナサン・グレイザー監督)のミカ・レヴィも現代もっとも尖ってる映画音楽家のひとりですよね。もともとアンダーグラウンド出身の人が映画音楽家としてエッジのあることをやっている。もちろんオルタナティブ、インディー系のリスナーである僕の好みでもあるんですが、映画音楽がこれほどおもしろい時代は今まであったのかなとワクワクします。
長内:僕も帰り道にサントラを聴いて帰るくらい映画音楽は好きなんですが、たしかに上半期はお気に入りにしたサントラが多かったですね。Soundwalk Collectiveによる『美と殺戮のすべて』(ローラ・ポイトラス監督)のサントラもすごくよかったです。あとストリーミング作品の『スペースマン』(ヨハン・レンク監督)が好きで、あれもすごく気持ちのいい音響空間の映画だったなと思いました。

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長内:映画音楽というと、ジョン・ウィリアムズみたいなメロディーラインがあるものをイメージする人は未だに多いと思うんです。僕も大好きなんですが、今はより抽象的な音楽も増えている。このあいだ、『関心領域』を観に行った日、エンドロールで音楽が鳴った瞬間に、逃げるように席を立つ人が続出していました。あれは、逃げるように立ち上がるか、逃げられなくなって最後まで観ているか、そのどちらかしかないですよ。
木津:『オッペンハイマー』『関心領域』などはサウンドデザインにこだわっているし、音に対してチャレンジングな作品が増えています。僕は映像以上に音のほうが映画館で観る上では重要だなと思っています。どれだけ環境を整えても、音に関して家では映画館以上の体験をしっかり味わえないと思うんですよ。
そして産業構造に意識的な映画作家は、どういう環境で観られるべきかをすごく考えていると思います。映画館で観られるために、映像以上に音に意識を向けさせようとするのはとてもロジカルなことに思えます。
長内:優れた映画作家、演出家はやっぱり往々にして耳がいいんですよね。音楽や音響の鳴り方、そしてセリフの聞こえ方もそうです。総合的に耳で聞いている要素は多いと思います。