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『オッペンハイマー』から『異人たち』まで。2024年上半期のおすすめ映画を振り返る

2024.7.10

#MOVIE

劇場公開映画、ドラマ、ストリーミング作品と、現在、映像作品の供給量はあまりに多い。映画がどれほど好きな人でも、つい見逃してしまう作品もあるだろう。そこで2024年上半期が終わったこのタイミングで、今年の作品群について振り返ってみたい。

今回、ともに映画に関するポッドキャスト番組を持つ長内那由多と、木津毅という2名の映画ライターが対談を実施。上半期のおすすめ作品を挙げてもらうとともに、現在の映画の楽しみ方を語ってもらった。

ハリウッド映画の総力戦『オッペンハイマー』

―上半期のお好きだった映画、長内さんは何が思い浮かびますか?

長内:やはり『オッペンハイマー』(クリストファー・ノーラン監督)は外せないです……ただ正確には2023年の作品なんですよね。日本では近い時期に『デューン 砂の惑星 PART2』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)も公開されたのもあり、この2本で「ハリウッド映画の最後の総力戦」のように感じました。

長内那由多(おさない なゆた)
映画・海外ドラマライター。東京の小劇場シーンで劇作家、演出家、俳優として活動する「インデペンデント演劇人」。主にアメリカ映画とTVシリーズを中心に見続けている。

2024年上半期の5本(長内那由多)

・『オッペンハイマー』
・『落下の解剖学』
・『チャレンジャーズ』
・『悪は存在しない』
・『ロードハウス/孤独の街』

長内:主役級のオールスターが揃った『デューン 砂の惑星 PART2』に対して、『オッペンハイマー』は無名にいたるまで、さまざまな俳優が出演していた。僕が脇役で登場したジョシュ・ハートネット、デイン・デハーン、デビッド・クラムホルツの名前を挙げてSNSに投稿したら、かなり拡散されたんです。つまり、分厚い固定ファンがたくさんいる俳優が出演しているということ。ノーランってこうやって広い射程で映画ファンを集めて、ヒットさせていたのかもしれないと感じました。

『オッペンハイマー』予告編

木津:たしかに本来、2023年を象徴する作品であったのに公開が遅れたのは残念だった一方で、公開のタイミングが『アカデミー賞』のあとになったことは話題性を高めたとも感じました。もちろん題材もあるけれど、遅れたことも含めて注目を集めましたし。ちなみに作品の中身はいかがでしたか?

木津毅(きづ つよし)
ライター。映画、音楽、ゲイ・カルチャーを中心に各メディアで執筆。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)がある。

長内:僕はすごく好きでした。本来、もう少しタメがあってもいいと思いますが、あまりのテンポの早さに、観客が振り落とされるような作品で、そこがすごかった。作り手と観客、日本とノーランのあいだに、厳然たる溝があると理解できた点が重要だと思います。「すんなり理解しえない」ということを前提としなくてはいけないし、だからこそ議論が起きてしかるべき作品だなと感じます。

『オッペンハイマー』より © Universal Pictures. All Rights Reserved.

木津:ノーランは僕にとって、一貫してそこまでのめり込めない監督なんです。もちろん、初めてIMAXで観たときは現代のハリウッドを代表する監督として決定的なものを撮るんだという意気込みが伝わってきました。ただ同時に、IMAX前提の映画として撮られていることに引っ掛かりもあって……。

IMAXの売りとされる「没入感」を利用した、主人公の一人称的な映画と言われますが、現代の映画はそこに行くしかないのかと複雑な思いを抱きました。一人称的であるからこそ、ヒロイズムのようなものを感じてしまった。原爆の歴史を語るときに、プロメテウスにならざるをえなかった人のヒロイックな物語として、アメリカの人々に受け入れられたのかなと思ったんです。

『オッペンハイマー』より © Universal Pictures. All Rights Reserved.

長内:「ヒロイック」という点では、かなり真逆の見方だったかもしれません。自分が日本人であることを別にしても、オッペンハイマーが全然、共感できる人物として描かれていない印象だったんです。

また後半、赤狩りに巻き込まれるところに重きが置かれていきますね。アメリカ映画は、自国の歴史を内省する文脈があると思っていて、その意味で本作も自省的なアメリカ映画の部分があると感じました。

『オッペンハイマー』より © Universal Pictures. All Rights Reserved.
「映画『オッペンハイマー』は反核映画なのか?ノーランが幻視した「壊された世界」」(NiEW)を読む

レトロスペクティブ人気を象徴した、ビクトル・エリセ作品

―木津さんは上半期にお好きだった作品はありますか?

木津:まず『瞳をとじて』(ビクトル・エリセ監督)です。「エリセ40年ぶりの劇長編」となったときに、若い世代がエリセを再発見している感じがポジティブなものとしてあったと思います。いわゆる「シネフィル文化」「ミニシアター文化」は日本で一度、衰退したものと語られがちですよね。でも古い作品を配信で手軽に見られる環境とクロスする中で、実は形を変えて続いていて、復活してきた印象を受けています。たとえばミニシアターでレトロスペクティブの上映が増えている傾向も面白いと思っていて、その象徴として『瞳をとじて』はあったかなと思います。

2024年上半期の5本(木津毅)

・『瞳をとじて』
・『落下の解剖学』
・『異人たち』
・『チャレンジャーズ』
・『悪は存在しない』

『瞳をとじて』予告編

長内:レトロスペクティブという話では、上半期に下高井戸シネマで『ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト』(フィルムアート社)という書籍の販売に合わせた特集上映がありました。『天使の復讐』(アベル・フェラーラ監督 / 1981年)が夜の上映なのに、満席なんですよ。若い観客も多くて、一体どこで聞きつけてどういう映画だと思って来ているのだろうと不思議でしたね。そういう文化がいつのまにかできあがっていたんだなって感じます。

『ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト』著・文・編:降矢聡、吉田夏生 / 発行:フィルムアート社

木津:一昨年、ウォン・カーウァイのレトロスペクティブが人気だと聞いたときに、「ついに自分の世代のリバイバルが来たか」という気持ちになりました。若い人も来ている話はよく耳にしたので、配信が一般化したことによって「古い映画もいいじゃん」みたいな感覚が、レンタルビデオの時代とは異なる形で若い世代の映画ファンにも共有されつつあるのかなと思います。

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