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『太陽を盗んだ男』を映画館で見るべき理由。全盛期の沢田研二と長谷川和彦作品の魅力

2026.10.15

#MOVIE

長谷川和彦監督の『太陽を盗んだ男』(1979年)が4Kデジタルリマスター版となり、10月16日(金)から2週間限定で劇場公開される。監督が生涯に撮った長編は、デビュー作『青春の殺人者』(1976年)とこの2本だけ。

目的のない犯罪者を演じた人気絶頂期の沢田研二と、彼を追う菅原文太は、この映画で何を見せたのか。たった2本の映画に、共通して流れているものは何か。そして半世紀近く前の映画を、なぜいま大スクリーンで観るべきなのか。

ライターのハシマトシヒロが、同作と長谷川作品の魅力を振り返る。

「弾み」で両親を殺し、やるべきことがわからない若者

1976年の作品『青春の殺人者』で、長谷川和彦監督は鮮烈なデビューを果たした。

同作は、水谷豊演じる若者・斉木順が弾みで父親を刺し殺し、共犯者になろうとしてくれた母親までも殺してしまう物語だ。主人公は、自分の恋人をよく思わない両親に反発してはいたが、殺すほど憎んでいたわけではない。自由を求めて殺したわけでも、金銭を奪おうとしたわけでもない。ただ「弾み」としか言いようがなく、その後の逃避行にも目的はない。突発的に焼身自殺を図るが失敗し、ラストは恋人も置いてひとりで逃げてしまう。

「親殺し」という、ある種神話的なテーマを扱っていながら、そこに神話性はない。父の死体を発見した母が主人公に肉体関係を迫るシーンがある。そこで本当に関係を持ってしまったらギリシャ神話のオイディプスだが、主人公は母をも殺してしまう。「弾み」で大それたことをしでかし、自らのやるべきことがわからないのだ。

原爆を完成させたはいいが、何をすればいいのかわからない

『太陽を盗んだ男』では、その傾向がさらに顕著になる。沢田研二演じる主人公・城戸誠が企てるのは、手作りの原子爆弾の製造。手製の催眠スプレーで交番の巡査から拳銃を奪って原子力発電所に忍び込み、火炎放射器や爆弾まで駆使して液体プルトニウムを強奪する(火炎放射器や爆弾の入手経路については目をつぶる。作った可能性もある)。

しかし、原爆を完成させたはいいが、何をすればいいのかわからない。その時点で、彼の目的は達成されていたのだ。持て余した彼は、「ナイター中継を最後まで観せろ」「ローリングストーンズ武道館公演を実現させろ」といった極めて個人的で卑近な望みを、国家に対して要求してみせる。

本作における城戸はうだつの上がらない男として描かれているが、演じる沢田研二は当時スター全盛期であり、原発侵入時の活劇シーンはあくまでカッコいい。盗んだプルトニウムを恋人のように抱いて眠るシーンも、『鉄腕アトム』のテーマを歌いながらウキウキで原爆を製造するシーンも、現役アイドルの愛らしさを感じさせる。

当時の沢田研二を語る上で、もっとも重要な要素は退廃感だろう。劇中の城戸は常に風船ガムを嚙んでいる。風船を膨らまし、それが割れるたびに何かが壊れていくようだ。また彼は、原爆製造の過程で被曝し髪が抜けるようになるが、抜けた髪を見ても特に動揺はしない。ラストシーン、風船ガムを噛み、髪をむしりながら歩く姿には、怖いぐらいの色気がある。「死」に向かって進みながらも、焦りや恐れはないのだ。

この時期の沢田研二の退廃的な色気は、死から蘇った天草四郎を演じた『魔界転生』(1981年)や、ストイックなテロリストを演じた『ときめきに死す』(1984年)などでも発揮されている。

菅原文太の「絵になる」立ち姿と、通底する「父殺し」のテーマ

そんな沢田研二の対極に立つのが、原爆を使って日本政府を翻弄する城戸の前に立ちふさがった、警視庁の山下警部を演じる菅原文太だ。主人公が無気力なアンチヒーローであるため、この山下警部が日本を守るヒーローという図式になる。アンニュイな沢田に対し、菅原には硬質でスタイリッシュな色気がある。

菅原文太に「スタイリッシュ」というイメージは薄いかもしれないが、本作を観れば、その意味がわかるはずだ。『仁義なき戦い』(1973年)のように手持ちカメラがうねりまくる映像ではわかりにくいが、本作での彼は、どのように立てば、どのように歩けば、どのような表情をすれば「絵になる」のかを、100%理解して演じている。さすが、元ファッションモデルである。

彼は、一定年齢以上の邦画ファンにとってまさしくヒーローであった。映画ファンという生き物は、ヒーローの真似をしたがるものである。『仁義なき戦い』を観れば「山守さん、弾はまだ残っとるがよ……」という台詞を声に出し、後年の『北の国から‘92巣立ち』(1992年)を観れば、「誠意って、なにかね……? 」と口にしたものだ。そして今作を観た後は、皆が「ローリングストーンズなど来やせん!」を、あの広島弁のイントネーションで真似したのだった。

しかし、本作のクライマックスで、城戸に何発銃弾を撃ち込まれてもそのたびに起き上がり、最終的に高所からの墜落によって死を迎える山下の凄まじさは、ヒーローを通り越してホラーだ。

このシーンにも、「親殺し」というテーマが流れている。山下警部と城戸青年の図式は、息子の悪ふざけをいさめようとする父親と、父親に反発したい息子でもあるのだ。死んだ山下を見て、城戸は自分で殺したにも関わらず涙を流す。『青春の殺人者』においても、自らが殺した両親との思い出に涙を流すシーンがある。城戸にとっての山下は、父親的な存在だったのかもしれない。

3作目が完成していたら、日本映画の歴史は変わっていた?

長谷川監督は、1982年に気鋭の監督たちを集めて製作会社「ディレクターズカンパニー」を設立した。同社は多くの名作を生みだしたが、長谷川自身は1本も映画を撮れないまま、1992年に倒産した。

沼正三の『家畜人ヤプー』(1956年から連載)、大友克洋の『童夢』(1980年から連載)、そして連合赤軍を題材にした映画。これらはいずれも長谷川監督の3作目として動き出しながら、頓挫してしまった企画だ。

この中の1本だけでも完成していたなら、日本映画の歴史は変わっていたかもしれない。少なくとも『太陽を盗んだ男』のように、半世紀近くたっても熱狂的なファンに評価され続ける作品になっていただろう。

しかし長谷川監督が亡くなったいま、そんな夢のような妄想にも意味はない。我々がやるべきことは、エネルギーに満ちあふれ、文字通り今にも爆発しそうなこの作品を、大スクリーンで観て、脳内に焼き付けることだ。

https://youtu.be/HZkuG-qwW0I

『太陽を盗んだ男/4Kデジタルリマスター』

10月16日(金)全国公開<2週間限定上映>

【キャスト】
沢田研二、菅原文太、池上季実子、北村和夫、神山 繁、佐藤 慶、伊藤雄之助、風間杜夫、西田敏行、水谷 豊
【監督】長谷川和彦
【スタッフ】製作:山本又一朗/プロデューサー:伊地智啓/原案:レナード・シュレイダー/脚本:レナード・シュレイダー、長谷川和彦/撮影:鈴木達夫/照明:熊谷秀夫/美術:横尾嘉良/録音:紅谷愃一/音楽:井上堯之/編曲:星 勝/音楽プロデューサー:多賀英典/編集:鈴木 晄/助監督:相米慎二

●製作:東宝株式会社、株式会社トライストーン・エンタテイメント 配給:東宝株式会社
●上映時間:147分 製作国: 日本 映倫:G 作品仕様:カラー/ビスタサイズ(1:1.85) 音声:モノラル
●コピーライト:©1979 TOHO CO., LTD. / Tristone Entertainment, Inc.

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