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映画『襲名』レビュー 三池崇史が映し出す、私生活「ではない」市川團十郎の真の姿

2026.10.1

#MOVIE

日本で最もその名を知られ、私生活の細部に至るまでメディアに消費されてきた歌舞伎俳優がいる。その男十一代目市川海老蔵は、2022年、父である先代の没後約9年を経て大名跡「十三代目市川團十郎」を襲名した。

さまざまな題材を駆け抜けてきた映画界の多作家・三池崇史は、自身初となるドキュメンタリーの題材に、なぜこの「すでに知られている男」を選んだのか。

親から子へ名跡が受け継がれる極めて閉鎖的な制度のなかで、ひとりの人間が300年の歴史を持つ名を引き受けるとき、そこにいかなる軋轢が生じるのだろうか。映画ジャーナリスト・小城大知が迫る。

『国宝』のヒットも、いまだ多くの人にとって縁遠い歌舞伎という存在

なぜ、三池崇史が歌舞伎のドキュメンタリーを撮るのか。

ヤクザ映画からアニメ、女児向け特撮まで、ジャンルを問わず100本を超える作品を送り出してきた、日本映画界屈指の多作家・三池崇史。その彼が初めて手掛けたドキュメンタリーの題材が歌舞伎、しかも市川團十郎という大名跡の襲名を追ったものであると聞けば、意外の念を抱く向きも少なくないだろう。三池の初ドキュメンタリー『襲名』は、2022年11月に行われた十三代目市川團十郎白猿と八代目市川新之助の親子同時襲名披露に至るまで、2019年の記者会見から約3年間にわたって記録した作品だ。

歌舞伎とは、歌(音楽)・舞(舞踊)・伎(演技)の三要素が織りなす総合芸術であり、日本を代表する伝統芸能である。

戦国時代(1500年代後半〜1600年代初頭)の終わり、常識外れな格好で奇抜な行動をとる若者たちが現れ「かぶき者」と呼ばれた。それを真似て京都・鴨川の河原で出雲阿国という女性が踊り出し、その妖艶な踊りが「かぶき踊り」と称されるようになったことが、「歌舞伎」の起源とされる。

歌舞伎を映画の題材とする試みは古くから今日まで存在しており、松竹の『シネマ歌舞伎』シリーズに至っては、舞台上演をそのまま記録し劇場公開する取り組みを継続してきた。そして2025年には、『国宝』(2025年)が歌舞伎俳優を正面から描き、半年に及ぶロングラン興行の末、日本の実写映画歴代興行収入第1位を記録したことも記憶に新しい。

しかし、これほど日本を代表する伝統芸能でありながら、歌舞伎は多くの日本人にとって、いまだ縁遠い存在。名跡を親から子へ、師から弟子へと受け継ぐ制度、そして家系によって成り立つ世界のあり方は、部外者にとって理解を難しくしている。この閉鎖性は、決して過去の遺物ではない。今でも、歌舞伎俳優をめぐる様々な報道がなされるたびに、絢爛豪華な舞台とその裏にある俳優たちの私生活との落差から、その閉鎖性を改めて感じさせられるのだ。

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