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つらくても、立ち上がり続けてきた。新津由衣が石崎光と振り返る『傑作』までの物語

2024.4.12

新津由衣『傑作』

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「僕はこの曲のデモを送ってもらったときに、人のデモで初めて泣いたんですよ」(石崎)

―アルバムの1曲目はマーガレット・ワイズ・ブラウンの絵本『たいせつなこと』にインスパイアされたという“だからぼくは”。チドリカルテットによるストリングスと、<だけどぼくはやさしくなれない>という歌詞がとても印象的です。

新津:この曲は『みんなのうた』でも流せるような、「王道ど真ん中」をテーマに掲げて進み出した曲で、谷川俊太郎さんやまど・みちおさんの詩集を読むと、とってもシンプルなひらがなだけで全ての世の不思議を語っちゃうような魔力があるなと思って。それで当時の私なりに「優しく生きる」とか「愛を持って生きる」ということを言葉で言ってみようと思ったんです。10年に一度ぐらい、言葉とメロディが全部セットになって、「これしかありません」っていう風に出てきてくれるときがあるんですけど、これはその10年に一度のやつですね。

―なるほど。だから歌詞が全編ひらがななんですね。

新津:そうなんです。生きることにとっても悩んだ自分がそれまでの過程にいて、自分のことも愛せないし、他人のことも愛せない。心清く、子供の無垢な状態のまま育っていきたかったはずなのに、でもやっぱり自分は優しくなれないし、人を傷つけてしまう。じゃあどうして傷つけちゃうのかなと思うと、愛情が強すぎるからだと思ったんです。音楽が好きすぎる。誰かのことが好きすぎる。だからそれを失いたくなくて、自分のことを傷つけちゃったり、誰かのことを傷つけちゃったりするんだなって。

石崎:僕はこの曲のデモを送ってもらったときに、人のデモで初めて泣いたんですよ。それでこれはちょっと何とかしたい、もっとよくできるなと思って……最初はもうちょっと締め方に救いがあったんだよね。

新津:そうですね。歌詞を変えましたね。

石崎:「優しくなりたい」っていう曲はいっぱいあるけど、「優しくなれない」って言っちゃえるのはすごいことで、でもそこが素晴らしいし、「優しくなれない」っていうことはすごく優しいことだと思ったんですよね。その人を思うがあまりに傷つけたり、相手につらく当たるみたいなことって、人間として全くおかしくないことだから、無理にハッピーエンドにしなくてもよくて、もっとその部分を押し出した方がいいんじゃないか、みたいな相談をしたよね。

新津:それでもし自分が命途絶えてこの曲を歌えなくなったとしても、これを聴いているあなたは自分のことを傷つけないで、優しくいてね、みたいなメッセージを入れることにしたんです。

音大の先生をやり始めて、いつかの自分みたいな子と接している中で、やっぱり繊細な子もすごく多いし、自分も今でも繊細な部分がある。それってすごく優しい気持ちなのに、なぜか自分を傷つけちゃう方向に向くこともあるから、それは絶対にやめて欲しいし、私もそれだけはしなかったから、そこを記しておきたかったんです。それを言えたときに私もボロボロ泣きながら歌っていました。自分に宛てたメッセージでもあるんだと思います。

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