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今泉力哉監督と一緒に考える。人とわかり合う難しさとどう向き合う?

2023.10.10

#MOVIE

「非日常的な描写は作品を映画らしくする。でも日常からかけ離れた描写に逃げたくない」

─原作のエッセンスも入れつつ、かなり映画用に手を加えられている印象があります。脚本について必ず入れたいと考えられていたシーンは?

今泉:入れるか外すか、迷ったシーンはあります。たとえば前半で「死にたいと思ったことはあるか?」という会話をかなえと堀(井浦新)が交わすシーン。まだ共同生活を始めて間もない2人が面と向かってそんな話をするかなと思ったんです。人との距離感が一般的でない人間として描かないと難しい。

─そのシーンは印象的でした。これまでの監督作品にはないドラマっぽい台詞で、日常とは切り離された描写に意外性を感じました。

今泉:やっぱり。

─「やっぱり」ですか(笑)。

今泉:厳しくリアリティーラインを守っているわけではないんですけど、日常からかけ離れた台詞や描写は僕の映画ではやらないことがほとんどです。非日常的な場面って、映画らしいですよね。だからそうしたくなるのもわかるんですけど、そっちに逃げたくないんです。すでにある映画になっていくので。

その意識は大切にしつつも、今回は原作に頼って気をつけながら撮影しました。かなえが水中に沈んでいくカットや、過去の出来事を夢見るような幻想的なカットも、普段の僕なら撮らないと思います。

『アンダーカレント』場面写真 ©豊田徹也/講談社 ©2023「アンダーカレント」製作委員会

─監督の作品は、だからこそ自分の生活と紐づいている印象があります。ですが、幻想や壮大なシーンを見せ場にしている映画も多いですよね。

今泉:多いですね。ただ、僕の作品としてそれをするには葛藤がありました。これまでにはないバランスの取り方が必要だったので、悩んだときは原作を信じる。あと、細野晴臣さんの音楽が、日常的な側面と非日常的な側面をつないでくれたと感じています。

それと、人間の芯の部分というか、表面的な芝居では決してできない苦しく強い表情をいくつも撮れたと思っていて、それは俳優部の演技にものすごく助けられました。同時に、映像にすることの「強さ」にも気を使う必要がありました。

─今泉さんのおっしゃる映像の「強さ」とは?

今泉:生身の人間が演じることで言葉や行動の強度がマンガよりも増してしまうのではないか、という懸念です。ある台詞がまるで「正解」のように聞こえてしまったりとか。つくり手の想像以上の強度で、観客に受け止められる可能性もあるんです。

それは『ちひろさん』のときも感じていました。作品が上映される前、予告を見た人たちから「男性監督の視点で、また元風俗嬢を男性に奉仕する存在として描いている」と批判があったんです。ホームレスを家に連れて帰って洗うなんて、と。

『ちひろさん』本予告編

今泉:批判のあったシーンは僕自身も入れるべきかかなり悩んだんですよ。その批判自体も理解できますし、ホームレス側の視点に立ったときにも問題がある描写だと感じていたからです。僕は逆に、自分がホームレスだったら絶対に嫌だなと思ったんです。勝手に洗われるなんて。それこそ加害だと思っていて、そのシーンを外すか迷いました。でも、ちひろさんはまともな人じゃないんです。僕と同じ思考じゃない。ちひろさんの浮世離れした人となりを想像したときに、そのシーンがあったほうがちひろさんという人物の人柄が伝わると考えて、入れる決断にいたりました。

自分の中の正義感や常識ではなくて「ちひろさんとしてありなのか、なしなのか」、そうした基準を持たないと登場人物が自分の考える真っ当な人ばかりの作品になってしまう。だからどの目線で脚本を書くべきかは気をつけています。すべての台詞が、監督の思想を反映したものではないということは声を大にして伝えておきたいです(笑)。

─『アンダーカレント』の話に戻りますが、原作はもっと会話のやり取りが多いです。台詞を減らしたのは「本音を言えない人物像」を際立たせるためですか?

今泉:すべての台詞を映像に入れると長尺になる、という現実的な問題が大きいです。脚本の澤井香織さんと何度も話し合ってかなり取捨選択しました。最後のかなえと悟(永山瑛太)のシーンは俳優陣とも話し合って、台詞を戻したり、原作にない言葉も付け足したりしました。

左から、かなえ、悟(永山瑛太) ©豊田徹也/講談社 ©2023「アンダーカレント」製作委員会

─付け足したのはどうしてでしょうか?

今泉:これくらい言わないと、相手が理解できないと思ったからです。悟とかなえにとって重要なシーンなので、その距離の詰め方は台詞1つを足したり引いたりして、丁寧に進めていきました。

瑛太さんもかなえの目をどれだけ見るのかという点まで気を使って、すごく繊細に演じてくださっていたので、カメラをのぞきながら感動しました。真木さんも「このシーンの瑛太はすごい」と公開に向けた取材時に話していました。

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