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宮藤官九郎×大友良英 『季節のない街』で描く「終わりのある非日常」

2023.8.14

#MOVIE

『あまちゃん』(2013年)そして『いだてん〜東京オリムピック噺』(2019年)という2010年代の連続ドラマを代表する傑作を手がけた脚本家・宮藤官九郎と音楽家・大友良英。その2人が久方ぶりにタッグを組むのが、ディズニープラスで8月9日から配信される連続ドラマ『季節のない街』だ。

戦後日本を代表する黒澤明の映画『どですかでん』(1970年)の原作でもある人間の悲喜こもごもを描いた山本周五郎の小説を原作として制作された本作は、劇中で「ナニ」と呼ばれる大災害から12年後の仮設住宅の街に舞台を再設定し、貧しさと混乱のなかでもたくましく、楽しく生きようとする人々の暮らしを描いている。

宮藤曰く「がちゃがちゃ」した感じを体現する大友の劇伴は、人と街の混沌としたエネルギーを多彩に彩る。作品が作られるなかで、音楽と映像はどのように共鳴するのか。そこに込められた思いとはなんなのか? 2人の対談のなかから、その秘密を解き明かす。

黒澤明作品『どですかでん』に惹かれた2人。その魅力は「異質さ」

―『季節のない街』は、構想30年の念願の企画と聞きました。

宮藤:最初の出会いは20歳ぐらいのときに観た黒澤明監督の『どですかでん』でした。黒澤作品でも明らかに異質で、一番惹かれました。そこからさかのぼって山本周五郎の原作小説を読み、映画と小説に何度も触れるうちに「いつかこの物語を、違う形でリメイクしたい」と思うようになっていったんです。と言っても、当時は映画監督やディレクターが飲み屋でよくやってる「俺がリメイクするならこういう内容で、この人に演じてもらって……」っていう妄想キャスティングの域を出るものではなかったんですけどね(笑)。

その後、『いだてん』が終わって、じゃあ次に何をやろうかという話になったときに、もしも自分発の企画ができるなら「じつは一番やりたいのはこれなんです」と提案しました。

宮藤官九郎(くどう かんくろう)
1991年より大人計画に参加。脚本家として2001年映画『GO』で「第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞」他多数の脚本賞を受賞。以降もテレビドラマ『あまちゃん』『いだてん〜東京オリムピック噺〜』など話題作の脚本を手掛ける。2005年『真夜中の弥次さん喜多さん』で長編映画監督デビュー。俳優としても数々の作品に出演する。待機作に、映画『こんにちは、母さん』(出演 / 9月1日公開)、映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』(脚本 / 10月13日公開)などがある。

ー脚本・監督だけでなく企画の主体も宮藤さんなんですよね。

宮藤:「企画」として名前がクレジットされるのはこれが初めてですね。

ーすると、俳優だけでなくスタッフの選択にも宮藤さんの意思が反映しているわけで、大友さんに声をかけたのも宮藤さん本人から?

宮藤:はい。このストーリーを考えていたときに、大友さんの劇伴が絶対合うだろうと思いました。共同監督を務めた横浜聡子さん、渡辺直樹さん(渡辺は監督補も兼任)も僕の提案に同意してくれました。

大友:これまでは宮藤さんと僕のあいだにディレクターさんが入って仕事を進めてきたので、直接、音楽の話ができるのが嬉しかったです。

それと僕、大好きな映画を5本挙げろと言われたら絶対リストに入れるぐらい『どですかでん』が好きなんです。武満(徹)さんの劇伴にいたっては、映画音楽で一番好きかもしれない。テーマ曲を自分でカバーしたこともあるぐらい。だからこの話が宮藤さんからあったときは「キタ!」って思いました(笑)。

大友良英(おおとも よしひで)
1959年横浜生れ。十代を福島市で過ごす。常に同時進行かつインディペンデントに即興演奏やノイズ的な作品からポップスに至るまで多種多様な音楽をつくり続け、その活動範囲は世界中におよぶ。映画音楽家としても数多くの映像作品の音楽を手がけ、その数は100作品を超える。2013年には『あまちゃん』、2019年NHK大河ドラマ『いだてん』の音楽を担当。2011年の東日本大震災を受け福島で様々な領域で活動をする人々とともに「プロジェクトFUKUSHIMA!」を立ち上げるなど、音楽におさまらない活動でも注目される。

ー『どですかでん』の劇伴って、ほんわかというか優しい曲調ですよね。

大友:たしかに武満さんにしては比較的優しい。でもよく聴くと、けっこう変なんです。『怪談』(1965年、小林正樹監督)のように明らかに変な武満さんの仕事がすごく好きなんですが、『どですかでん』でも、その「変」さがにじみ出ていて。そこが好きなんです。

宮藤:六ちゃんが走る冒頭のシーンの劇伴の録音に立ち合わせてもらったんです。

左から、くに子(片桐はいり)、六ちゃん(濱田岳)

ー六ちゃん、彼にしか見えない電車を運転している青年ですね。濱田岳さんが演じています。

宮藤:走る六ちゃんの画に合わせながら、バンドのみなさんが演奏しているのを見て「『どですかでん』のときも同じ方法で収録を行ったんじゃないか?」と思いました。

電車が少しずつ軌道に乗って、スピードが上がっていく映像とシンクロするように、音楽のテンポも少しずつ上げているんですが、あれは役者の芝居に音を合わせないとできないんじゃないかと。

大友:事実確認をしたわけじゃないですが、あのシーンは間違いなく画合わせでないとできない。武満さんの記録を見ると『どですかでん』は撮影より後に作曲をしていたようなので、そのプロセスも取り入れたかったんです。現在の打ち込みで作った音楽は、そういう即興的な合わせが一番苦手ですからね。だからこそ、今回は打ち込みではできないことをやろうと思ったんです。

『季節のない街』予告編
舞台は、「ナニ」で被災した人々が身を寄せる仮設住宅のある街。主人公の半助こと田中新助(池松壮亮)は、街で見たもの、聞いた話を報告するだけで「最大一万円」もらえると軽い気持ちで、この街に潜入する。だが、半助こそ「ナニ」によって何もかも失った男だった。ギリギリの生活の中で、逞しく生きるワケあり住人らを観察するうちに半助はこの街の住人たちに心惹かれていく。そんな中、仮設住宅が取り壊されるという噂が街に流れはじめる。

どう『どですかでん』から離れられるか。宮藤と大友の戦い

ー宮藤さんから音楽に対するイメージの発注は前もってあったんですか?

大友:最初に強く言われたのは「黒澤さんみたいな音楽じゃないこと」でした。

宮藤:どうしたって頭のなかで映画のテーマ曲が流れちゃうじゃないですか。音楽だけじゃなくて、作劇にしても画作りにしても、まずは元の映画から離れなきゃいけない。どうやって『どですかでん』から距離を置きましょうかって話を最初にしましたよね。

大友:宮藤さんは、ほんわかじゃなくて、土着的ながちゃがちゃした感じの音楽にしたいとも言ってました。かといって『あまちゃん』や『いだてん』からも離れないといけないねと。

宮藤:そのあとのやり取りも面白かったです。六ちゃんが走るシーンの曲、最初に演奏したのが新宿ピットインでの大友さんのライブだったんです。

大友:六ちゃんが走るシーンの曲だけ先に作って。ちょうどライブがあったんで、ビッグバンドのみんなにはこれが何の曲であるかも明かさずに演奏してもらいました。そこでレコーディングしたものを、宮藤さんから送っていただいた映像に合わせて。そこからさらに録音物を編集していきました。

宮藤:その時点で「まさしくイメージ通り!」の仕上がりでした。ロケハンや打ち合わせで、横浜さんや直樹さんとも音楽のイメージを共有しながら慎重に進めていましたけど、大友さんから届いた1曲目を聴いて「もうおまかせします」というモードに。撮影も本格的に始まっていたタイミングで、一番いいかたちで届けてもらって嬉しかったです。

ー映像と音楽で、セッションするようなプロセスで作られていったんですね。

宮藤:そうなんです。でもライブで演奏した曲が、あんなにうまく映像に合わせて決まるものなんですか? 不思議です。

大友:ライブでは10分ぐらい演奏したんですが、どんなシーンにも合うようにゆっくりしたテンポから速めのテンポまで、いろんなパターンを1曲のなかに入れてあるんです。だから映像に合うテンポの部分を取り出せる。

宮藤:なるほど!

大友:ライブでは六ちゃんみたいな気持ちで指揮してましたよ。

宮藤:余談なんですけど、六ちゃんのシーンのためにめちゃくちゃいろんな踏切をロケハンしたんです。それで最終的にあの踏切を選んだんですけど、決定打になったのが、その場にたまたまいた鉄道好きの男の子。

お母さんと一緒に見に来ていて、スマホで運行ダイヤを確認しながら、「次はこっちから電車が来るよ」「その次はこっちだよ」ってずっとやっていたんです。映像では使ってないんですけど、踏切の上にも高架があって、そこも別の電車が走っている。電車好きにはたまらない場所なんですよ。実際に電車好きから愛されている場所なら、もうこの場所で撮るしかないなと思いました。

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