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俳優としても活躍する二ノ宮監督が語る、演技に対する意識
―吉本実憂さんがまた素晴らしかったです。彼女は先ほど今泉さんがご指摘された「不機嫌な主人公」に相当しますよね。特に『お嬢ちゃん』で萩原みのりさんが演じられた主人公みのりと重なります。
今泉:いつもの二ノ宮作品と反転しているんですよね。これまでは主人公がイライラしていたけど、今作では周りがみんなイライラしているのに、周平はその理由がわからない。しかもどんどん忘れていく。二ノ宮作品としては新しいですね! そしてその構造の中で主人公の存在が浮き立っていく話でもあるかもしれない。
唯一、松重豊さんが演じるバイク屋さんの元同級生、石田とは同調できる。家族や学校周りとは違う空気が流れますよね。光石さんと松重さんが同じフレームの中にいるだけで、監督としてはビビってしまいそうです。
二ノ宮:そうですね。これまではだいたい自分と同年代の方々と映画を作ってきたので、百戦錬磨のプロであるベテランの俳優さんと向き合うのは初めてでした。緊張もしましたしとても勉強になりました。

今泉:二ノ宮は俳優としても活躍しているから、監督としてどこでお芝居のOKラインを出しているのかは気になります。
二ノ宮:その判断は映画にとって良いか違うかの感覚でしかないですが、ただ自分はカットをかけてからOKかリテイクを出すまで、時間が掛かることがあります。平波さんに「お前みたいな監督、見たことない」って言われました(笑)。
今泉:とある映画づくりの本に書いてあった言葉なんですけど、映画監督が100人いたら100通りの演出方法があると。だけど監督が絶対やってはいけないことが1つだけあって。それは「カットをかけたあとに黙ること」だって。
一同:(笑)
今泉:みんな不安になってしまうので。だから僕もカットをかけたあと、即決できないときはすぐに「すみません、考えます!」とかひと声かけて、そこから考えるんです。
二ノ宮:自分も「少々お待ちください!」とは必ず言っています(笑)。
―二ノ宮さんは『アンダードッグ』(2020年)や『ヤクザと家族 The Family』(2021年)、Netflixドラマシリーズの『全裸監督』(2019年)や『新聞記者』(2022年)など多数の作品に出演し、俳優としても活躍されていますが、監督をやるときと、キャストとして他の組に参加するときだと意識はだいぶ変わりますか?
二ノ宮:はい。全然変わります。俳優業のときは「貢献する」という考えです。
今泉:俳優として他の現場で稼いで、自分の現場で「作家の映画」を作るってことでしょ? 「今日は商業映画でバイトしてくるか」みたいな。冗談だけど(笑)。
二ノ宮:そんなことはまったくないです! なんですかその面倒臭そうな奴! 勘弁してください(笑)。

逃げきれた夢
2023年6月9日(金)公開
上映時間:96分
製作:2022年(日本)
配給:キノフィルムズ
監督:二ノ宮隆太郎
音楽:曽我部恵一
キャスト:
光石研
吉本実憂
工藤遥
杏花
岡本麗
光石禎弘
坂井真紀
松重豊
オフィシャルサイト
二ノ宮隆太郎(にのみや りゅうたろう)

映画監督、脚本家、俳優。2012年、初の長編作品『魅力の人間』が第34回ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリを受賞し、海外映画祭でも好評を博す。2017年、監督、主演を務めた長編第二作『枝葉のこと』が第70回ロカルノ国際映画祭の長編部門に日本映画から唯一選出される。2019年、長編第三作『お嬢ちゃん』が公開。同年、2019フィルメックス新人監督賞グランプリを受賞。2023年、商業デビュー作「逃げきれた夢」が第76回カンヌ国際映画祭でACID部門(インディペンデント映画普及協会賞)に出品される。6月9日から公開。
今泉力哉(いまいずみ りきや)

1981年生まれ、福島県出身。映画監督。2010年に『たまの映画』で商業映画デビュー。その後も『サッドティー』(2014)『退屈な日々にさようならを』(2017)『愛がなんだ』(2019)『街の上で』(2021)『窓辺にて』(2022)などの話題作を次々と発表。最新作『アンダーカレント』は2023年10月6日公開予定。