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今泉力哉×二ノ宮隆太郎 日常への視線が自分にしか作れない映画を生む

2023.6.9

#MOVIE

よく知らないものを描くと過剰にドラマティックになる。自身の経験から作品を描くことの重要さ

―確かに『逃げきれた夢』で光石研さんが演じる主人公・末永周平は、不機嫌どころか茫洋としていますよね。北九州に暮らす定年を間近に迎えた定時制高校の教頭先生。これは二ノ宮さん自身のお父さんがモデルであると同時に、光石さんの当て書きでもあったとか。

二ノ宮:光石さんは昔から大好きな俳優さんです。脚本の書き初めから主演は光石さんと決めていました。

光石さん主演でどこを舞台にするか考えたときに、光石さんの故郷である福岡県北九州市以外は考えられませんでした。光石さんからお聞きしたご本人の思い出も脚本に込めさせていただいてます。そこに定時制高校の教師をしていた自分の父親の人物像を設定として重ねました。

今泉:『楽しんでほしい』や『枝葉のこと』に本人役で出演していた、あのお父さんね。

『逃げきれた夢』予告編
あらすじ:北九州で定時制高校の教頭を務める末永周平。ある日、元教え子の平賀南が働く定食屋で、周平はお会計を忘れてしまう。記憶が薄れていく症状に見舞われた周平は、新しいこれからに踏み出すため、過去の人間関係を見つめ直そうとする。

二ノ宮:はい。今回の映画は還暦間近の男である周平が主人公の物語を、どう自分自身が実感を持って描けるものに近づけていくかと考えたときに、やっぱり「自分の父親を持ってくること」が一番良いと思ったんです。それが自分にしか作れない映画につながると思いましたし、いつでも取材できる相手ですし(笑)。そこから家族との関係、若い生徒たちとの交流を描きたいと思いました。

今泉:なるほどね。僕も自分のよく知っている周辺の人から登場人物の設定やイメージをもらうことが多いんですよ。例えば学校の先生という設定にしても、こちらがよく知らないまま描くと、リアルな実態よりもドラマティックに盛っちゃう気がします。定時制高校を舞台にした感動の人間群像劇、みたいにしてしまう可能性もある。山田洋次監督の『学校』みたいに。大好きな映画ですけど(笑)。

―身近な人をイメージすることで、より自分にしか作れない映画になるのですね。今回の主人公・周平は記憶が薄れていく症状に見舞われて、自分の人生を見つめ直すという流れになります。これって黒澤明監督の『生きる』(1952年)をとことん市井のリアルに変換したものではないか、という気がしたんですよ。

二ノ宮:『生きる』を参照したのではないかというご指摘はいくつか受けました。まったく意識はしていなかったので、言われてから「なるほど」と思いました。

今泉:『生きる』の主人公って胃がんになってから、自分の人生や死の問題、残された時間と向き合うんですよね。でも『逃げきれた夢』の周平はどこまで自覚症状があるのか、曖昧さがある。家族との関係を修復しようとするんだけど、奥さんの彰子(坂井真紀)にも娘の由真(工藤遥)にもまともに会話してもらえない。むしろ冒頭、介護施設にいる自分の父親にだけはある意味、話を聞いてもらえてたのかなと思います。

左から、由真役(工藤遥)、彰子役(坂井真紀)、周平役(光石研) / 『逃げきれた夢』場面写真 ©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ

二ノ宮:劇中で病気の描写は確定させてはいないのですが、それは病気に焦点をあてるんじゃなくて「人生の映画」にしたかったからというのもあります。「忘れる」ということに関しても、怖いだけではなくて忘れることでホッとする側面もあるんじゃないかと思いました。

元教え子の平賀南(吉本実憂)が働く定食屋さんで、周平が自覚もないまま食い逃げしてしまう。それに気付いた周平が財布を取り出したあとの行動。あそこはこの映画の脚本の中では最初に大切にした部分です。

平賀南役(吉本実憂) / 『逃げきれた夢』場面写真 ©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ

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