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今泉力哉×二ノ宮隆太郎 日常への視線が自分にしか作れない映画を生む

2023.6.9

#MOVIE

今泉監督が二ノ宮作品に見出す「切実な苛立ち」

今泉:『魅力の人間』から『お嬢ちゃん』まで一貫していた二ノ宮の発明は「主人公が不機嫌である」ということだと思います。主人公がイラつきながら、ただ黙って歩いている。それだけのショットに謎の強度というか、緊張感や吸引力がある。

たぶん北野武監督の初期作品、『その男、凶暴につき』(1989年)や『ソナチネ』(1993年)辺りがヒントになったのかなと勝手に想像していましたけど、基本的には二ノ宮自身が世の中の理不尽さだったり、適当にやり過ごせないことに対して真っ当に感じている怒りの反映かなと思ったり。

二ノ宮:それは、どうなんでしょう。少しでも意義のあるものにというのは考えます。

今泉:さきほど二ノ宮が言ってくれた「自分にしか作れないもの」って話に絡めると、監督自身が普段の生活で疑問に思ったことや、簡単には答えが出ないものを題材にしないと、どうしても嘘臭い「作りもの」になっていく気がするんです。

二ノ宮の映画を観ているときは、いつもある種の切実さというか、二ノ宮の内側から出ているものを感じるんです。例えば『枝葉のこと』でも、二ノ宮自身演じる主人公がシーフードカレーを食べながら母親としゃべっているシーンなんかで、ワケもなく泣けたりする。たしかに自分の体験からじゃなくても物語を紡げる人はいます。でも本人が知っている感情だったり、「自分の中」に本当にあるものを出す形だったりでないと、ああいう豊かな時間って描けない気がします。

―たしかに作り手の身の回りで起きた出来事が映画に昇華されていっているように思いました。

今泉:最近、たまたまオードリーの若林正恭さんと南海キャンディーズの山里亮太さん、作家の西加奈子さんが出演した『ボクらの時代』(フジテレビ系 / 2018年10月7日放送)を見る機会があったんです。その中で、西さんが「いまだにずっと怒ってるよね、二人は」って若林さんと山里さんに言うんですよ。「怒り」って意外と体力がいるし、大人になると普通は「まあまあ」って柔らかくなっていってしまうけど、二人はまだ世の中に本気でムカついている。怒りのパワーが衰えないことに驚くって。

僕は同じことを二ノ宮に感じますね。もちろん普段の二ノ宮は表立って怒りを露わにしないどころか、めちゃくちゃ低姿勢で優しい。でも映画になると、あの「不機嫌な主人公」という形で内なる怒りが静かに噴出している気がする。

二ノ宮:確かにいつもの自分はこうやってペコペコしている人間なんですけど(笑)、普段は出さない、出せないものを脚本に込めようという思いはあります。

今泉:でも『逃げきれた夢』は主人公像がこれまでとは異質ですよね。描いていることは同じでも、どこか優しい感触があります。そこはちょっと作り方が変わったなと思った部分です。

末永周平役(光石研) / 『逃げきれた夢』場面写真 ©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ

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