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二ノ宮隆太郎が影響を受けた、今泉力哉の「間」手法
―二ノ宮さんが思う今泉作品の魅力とは?
二ノ宮:いやあ……これは本当に難しい質問ですねえ……。
今泉:ないみたいです(笑)。
二ノ宮:違いますよ(笑)。最初から一貫して人間を独自の目線で描いていて、それは今泉さんにしかできないことだと思います。
1つ覚えているのが、今泉さんとお会いしたばかりのとき、監督として大切にしているのは「自分にしか作れない映画を作ることだ」っておっしゃっていて。その言葉を聞いてから、自分もそのことをずっと考えるようになったんです。

―めちゃくちゃ大切な教えですね。
二ノ宮:そうなんです。そこから今泉さんは色んな映画をたくさん撮られていくわけですけど、いつも丁寧に描いているのは人間関係の些細な感情の変化だと思います。あとやっぱり笑えること。「笑える」って本当に素晴らしいですよね。今泉さんの映画を観ることで幸福になっている人たちをたくさん見ています。
その「笑える」にも関係してくる点で、具体的に今泉さんの影響として脚本に「間」(ま)と書くやり方を、自分も使用しています。
―それはどういうことですか?
今泉:例えば僕と二ノ宮がしゃべっているセリフだと、通常は間を空けたいとき、今泉「………」、二ノ宮「………」みたいな表記になるわけですよ。ただ自分の映画はあまりに間の表現が多い。もう面倒臭いんで、ある時期からト書きに「………」ではなく「間」って書くようになったんです。
二ノ宮:『サッドティー』の台本にはもう「間」って書いてあって。この前、今泉組を経験しているスタッフさんが自分の脚本を読まれたときに「あれっ?」と(笑)。「今泉さんに似てますね」って言われまして、「真似してます」って答えました。
今泉:ただしもとを正せば、山下敦弘監督からの影響なんですよ。『リアリズムの宿』(2003年)のパンフレットに向井康介さんと山下さんが共同で書かれた脚本が掲載されていたんですけど、「………」「………」って表記がとんでもない量だった(笑)。「………」「………」で何往復するんだ! と衝撃を受けて、最初はその書き方を真似していたんですね。でも、だったらもう「間」って書けばいいじゃんって思ったんです。

―そこから今泉流のライティングが発明されたと。山下敦弘、今泉力哉、二ノ宮隆太郎という影響関係の系譜も確認できる話ですね。「間」の表現に関して二ノ宮さんのフィルモグラフィーを辿っていくと、『魅力の人間』の段階では会話劇に近く、ダイアローグの面白さで引っ張っていく作りでした。『枝葉のこと』で急に大胆な「間」が導入されるようになりましたよね。
二ノ宮:そうですね。『魅力の人間』。そこから4年くらい期間が空いていて、そのあいだは本当に鬱屈としていて。全然書けなくて。書こうともしてなくて。ようやく踏み出せた『枝葉のこと』でそれまでの自分の全部をぶつけようという気持ちが強かったです。