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「『再生』に惹かれたのって、死ぬってことよりも、命の営みが繰り返されるというところだった」(佐々木)
ー今回の『再生』ではどんな作業を進めていますか? 今回はハイバイ、岩井さんの作品であることが全面に出ています。
佐々木:ハイバイの『再生』なので、前やっていたことを思い出しつつ、忘れつつやってます。さっきの本棚のことを岩井さんは「あの階段さあ」と言っていて、あ、岩井さんのなかでは本棚よりも階段というイメージが残っているんだと思って、そこから連続性を持てそうなかたちを探っていったり。
藤谷:私は基本的な作り方は変わらないようにしてるかな。でも、初めましての人を相手にしているので、掴み切れてない各人の魅力を、喋っただけでどこまでかたちにできるかチャレンジみたいなところがありますね。たぶんお稽古に参加しはじめたらけっこう修正していくと思う。
でもすごいキャスティングですよ。よくぞここまでバラバラの人たちを集めたな、って。

衣裳:藤谷香子 ヘアメイク:須賀元子 撮影:平岩享 アートディレクション:土谷朋子(citron works)
佐々木:そういうのすごいよね、岩井さん。こういうことができるのが演出家なんだと思った。パフォーマーの人たちからも、キョンちゃん(藤谷の愛称)の着せてくれた服に対して「こういう動きをしたい」みたいな発言がけっこう出てたよ。
藤谷:ああ、よかった。安心しました。役に立ってると安心するよね、仕事している気持ちになれる。
ーそもそも多田淳之介さんがつくった『再生』って、2003年当時に社会問題化していたネット集団自殺を題材にしてますよね。自殺のために集まった若者たちの状況を、まったく同じように3回繰り返すという特殊なコンセプト構造の作品で、だからこそ観客の記憶に強く残ってもいる。それを受けた2015年版も本質的には同じテーマだったと思うけれど、ルックはかなり違うものになっていたことを覚えています。
佐々木:私たちのクリエーションでは、みんな結構早い段階で集団自殺のことは忘れちゃってたと思うんだよね。
藤谷:そうだよね。いま言われて、思い出したぐらい。
ーそうだったんですか。
佐々木:自分たちが『再生』に惹かれたのって、死ぬってことよりも、命の営みが繰り返されるというところだったんだろうね。
藤谷:死ぬって話をすると、結局生きるってことになるよね、みたいな。よんちゃん(快快の脚本・演出家の北川陽子)の上演に向けたテキストが快快の歴史に残るぐらいの素晴らしい内容だったし、告知文に「命のお祭り」って書かれていたのは大きい。
ロボットとダンスする。
そんな時代はすぐそこまでやって来ていて、人類に残された最後の希望はそのカラダなんだろうと、カラダにまつわる心なんだろうと私は思います。
舞台、演劇、人間が流行らないこの時代に、場に集い脳を開く時めきが流行らない時代に、多くの「見知らぬ誰か」を集合させ、最も根源的な方法で、極上にポップな肉体を敢えて提示したいと考えます。
私の処女的演劇体験は、民衆に支持され神となったディオニソスの神話を耳にした時、その想像としての体験です。
ディオニソスは日々に疲れた人間の女たちを森へ誘い込み、一夜の狂乱でその命を解放し、女たちはまた逞しく瑞々しい人間へと再生して森を去るのだというそれは「民衆の噂」です。
これこそが演劇だと私は今でも思います。
「再生」という作品の持つ、シンプルな訴え、その演出。演劇の根本をピュアに表現する多田淳之介の発明です。
それを戯曲のように横移動させて、より広く世界に発信したいと考える男、民衆から熱狂的に愛される男、岩井秀人を召還し、ほぼ女の集合体であり、ナチュラルボーングルービィな身体とこころを持つ我々「快快」が肉体を捧げ解放する!
険しい森のような、美しい劇場で(KAAT大好き!)。
ストリートを生きる我々女たちの、ディオニソスの逆召還です。
今この時代に、徹底的に命をあばき、死ぬほど生き生きする事。
それが叶うのであれば、我々は10年分のカラダを喜んでプレゼントしようと、そういう企画です。
私たち人間は常に、再生する生き物で。人間とともに生きてきた演劇にもまた、同じ力があると、思っています!
どうぞ宜しくお願い致します!プロデュース・北川陽子
(快快オフィシャルサイトからの引用)


佐々木:多田さんの『再生』に対する私たち世代なりの受け止め方と返答が加わった作品になった。
ーじつを言うと、2015年に観たときは少しピンとこないところがありました。閉鎖的な空間にぎゅっと押し込められて、そこで3回同じことを見せられるしんどさとか。でも、今回久しぶりにダイジェスト映像を見て、「ああ、これはいまこそ見たいやつだ」と感じたんですよね。自分はいま大分県の別府市でも暮らしていて、これまでの自分の人生になかった環境や人と接する時間を過ごしてるんですけど、出会いようのない人と出会っている感じが『再生』に重なってくるようでした。
佐々木:2015年のゲネが終わったときに、よんちゃん、キョンちゃんの3人で「やっべえ、(これ)こけたかもね」って話してたんですよ(苦笑)。でも初日にお客さんが入ったら「なんか面白かったかも」みたいになった。だから、ピンと来なかった、って人の気持ちは何となくわかる気がするな。逆に、なんで自分は面白いと思ったんだろう、という疑問も湧くけど。
藤谷:『再生』ってエモく見えますけど。実際エモいんですけど。でも、意外と冷静な作品って気もする。
ー3回繰り返されるっていうアイデア自体が、演劇の「すでにあったこと」を再演する不思議さを露わにしているという意味ではすごく冷静ですよね。でも、例えばパフォーマー同士のダンスバトルみたいなシーンでは、新宿の路上で喧嘩にでくわしたときの「おお、やっとるな!」という驚きと人間の情熱をそのつど新鮮に感じたりもして。冷静と情熱のあいだの引き裂かれ、もしくはそれを同時に経験する稀有さがあった気がします。
佐々木:今回の舞台美術は2015年版に対して開けた印象を自分で持っているところがあるんですが、それは反省からなんですよね。前回は3面を客席にしたものの、舞台はすごく正面の強い感じになってしまったと思っていて失敗だったなと自分では思っているんです。今回は全国ツアーもするので、最初から1面にしましょうという話だったから、なおさら「頑張ります!」って気持ちがじつはある。


ーそうなんですね。でも観客としての経験で言うと、傾斜がついた客席に大勢の観客が貼りついているような感覚、観客同士が互いに存在を意識するような構造はよかったですよ。佐々木さんの言う舞台の正面性に負けてなかった。
藤谷:照明のなみちゃん(中山奈美)が、最後に客席を明るくするでしょ。心身を酷使してきたパフォーマーたちの時間を経て、観客に対して「次はお前だ」「お前もやるんだ」と迫っている感じ。あそこで客席がお互いに見えるのはすごくよかった。だから3面は効いてたよ。
佐々木:よかった! いろんな人に助けられて、本当にありがたいです。