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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
Stronger Than Pride

始めての苫小牧探訪。山塚リキマルが見た、地元を愛する不良たちの文化

2024.10.8

#MUSIC

bar BASE(DJバー)

くしかつ屋を出て、今晩のシメとなるDJバー、bar BASEへ繰り出した。照明は暗めで、落ち着いた雰囲気の、いわゆる隠れ家的バーといった感じだったが、びっくりするぐらい音が良かった。

それも結構な音量を出していて、スピーカーの近くに立つとほとんどクラブと変わらないぐらいなのだが、にも関わらず普通に会話ができるのである。かつてNYに存在した伝説のディスコ、パラダイス・ガラージはどれだけ大音響でもフロアの真ん中で客同士がしゃべれたという逸話を思い出す。真に良い音は、コミュニケーションを妨げないのだ。バーカウンターに座っておしゃべりに興じてもいいし、スピーカーの近くに立って踊ってもいい。自分の好きなやり方で、音楽とかかわることができる。コーヒー焼酎を飲みながら僕は加藤君に、今日がどれだけ楽しい一日だったかということを力説した。加藤君は嬉しそうに微笑みながら、何度もうなずいていた。

「昼〜夜〜朝までの流れができてるんですよね。昼コーヒー飲んで、夜に飯食って酒飲んで、朝まで踊るみたいな。今日行った店は全部横のつながりがあって仲良いんですけど、店のカラーはどれも全然違うから飽きないんですよ」

「ウン、加藤君が苫小牧にずっと軸足を置いてる理由が、今日よくわかった気がする。すげえ単純に、全部地元にあるからなんだね」

「そうなんすよ。別に東京とか行かなくても、これでいいじゃんって。一生これでいい!」

顔こそまったくのシラフに見えたが、かなり上機嫌だった加藤君は苫小牧の音楽シーンについて話してくれた。曰く、苫小牧のシーンは札幌などとはまったく違う、独立した確固たるシーンがあること。1990年代には北見のパンクシーンと密接な関係があったこと。熱っぽい口調で語る加藤君をみながら僕は「地元に誇りを持っているんだな」と思った。

北海道のバンドというのは、ともすれば「北海道」のヒトコトで片付けられることが多い。「北海道っぽいよね」とかなんとか言って。下手すると札幌こそがオルタナティブの激震地であり、それ以外の地域はそのフォロワーというか分家みたいに捉えるような乱暴な意見すらある。でも一番最初に書いた通り、北海道はマジでひとつの国のようなもので、地域によって気候や文化も大きく違う。グラスゴーとマンチェスターが全然違うように、札幌と苫小牧もまた全然違うのだ。「北海道」とひとくくりにされることや、札幌と苫小牧をごちゃまぜにして語られることに対して、加藤君は違和感を表明する。それはつまり、ナメんなMINDである。地元に誇りを持つ不良は、だいたいこのMINDをもっている。あらゆるシーンはこうしたMINDからかたちづくられる。東京がなんぼのもんじゃい、札幌がなんだっつうんだ、俺はレペゼン苫小牧だ——そんな気持ちが加藤君の口ぶりからは伝わってきた(こんなダサい言い回しはしないだろうけども)。

BASEで過ごした数時間は本当にすばらしかった。とくにANA MAZZATTIの“FEEL LIKE MAKIN’ LOVE”のカバーがかかったときなんかは、幸せで幸せで幸せで幸せで、たとえいまここで死んだとしてもまぁ別にあきらめがつくな、とすら思った。

海外からこちらに働きに来ている青年客がこの日誕生日だったらしく、サプライズのバースデーケーキが登場するという微笑ましいヒトコマもあった。DJがNOT WONKの初期曲をかけたとき、加藤君がダッシュで店を飛び出したのには笑った。加藤君は照れ笑いを浮かべながら「いま聴くと低音とか弱すぎて恥ずかしいんすよ」と言った。でもそのあとすぐにTHE BLUE HEARTSの“キスしてほしい”が流れて、僕らはすぐに店に戻って踊った。<どこまで行くの 僕たち今夜 このままずっと ここにいるのか>という一節が、あまりにもいまの自分たちの状況にマッチしすぎていて笑った。甲本ヒロトはいつも本当のことだけを歌う。

3時前、疲労とアルコールでずぶずぶになった身体を引きずりながら外に出た。ELLCUBEがもっているゲストハウスまで加藤君が案内してくれた。途中、立呑キングの前でバーベキューが行われているのが見えたので、ちらっと挨拶に寄ったところ、気がついたらまたビールを飲んでいた。時間も時間だったので宴もたけなわという感じだったが、楽しいひとときだった。良い一日の終わりには、こういうボーナストラック的な時間があるものだ。ベロベロで店を後にしゲストハウスへと辿り着いた。かなり立派な一軒家で、至るところにバンドの物販や機材が溢れかえっており、ベッドは6つか7つあった。完全に酔っ払っていた僕は「加藤君のためだったら何でもするよ、俺は」と言った。加藤君はただ笑っていた。加藤君が帰ると、気絶したように眠った。

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